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ダイバーシティマネジメントとは?成果につなげる経営戦略のヒント

2022年01月19日解説

ダイバーシティが叫ばれて久しいですが、経営の現場では、"従来とは少し異なった意味合いでの重要性"が見いだされることが増えています。

「企業としての社会的責任を果たすために、多様性を受容すべき」
という観点のみならず、
「多様性を持たなければ、ビジネス上の競争力・優位性を保てない時代に突入している」
と考える経営者が増えているのです。

企業が成果をあげるために枢要となりつつあるダイバーシティマネジメント。本記事では、ダイバーシティマネジメントとは何か、なぜ取り組む必要があるのか、解説します。

ダイバーシティマネジメントとは何か

最初に、そもそもダイバーシティマネジメントとは何か、基本項目から押さえておきましょう。

*1

ダイバーシティマネジメントとは「多様な人材を活用して成果をあげる経営機能」と定義できます。

ダイバーシティ:多様な人材

ダイバーシティ(Diversity)とは「多様性」という意味の英語です。

性別・年齢・人種・障がいの有無などといった属性を問わずに受け入れ、異なる個性を活かしていく概念を指す言葉として使われています。

「多様な人材」が意味する範囲は幅広く、キャリアや働き方なども含みます。
  • 性別
  • 年齢
  • 人種
  • 国籍
  • 障がいの有無
  • 性的嗜好
  • 宗教・信条
  • 価値観
  • キャリア
  • 経験
  • 働き方
  • その他

*2

定義の幅が広くて戸惑うかもしれませんが、ダイバーシティマネジメントにおいては「ダイバーシティが指す範囲は無制限である」といえます。

マネジメント:成果をあげる経営機能

マネジメントの父と呼ばれるピーター・F・ドラッカーは、繰り返し「マネジメントとは、組織に成果をあげさせるためのもの」と説いています。

▼ ドラッカーの言葉より:
「組織をして成果を上げさせるための道具、機能、機関がマネジメント」*3
「組織に成果をあげさせるものがマネジメントであり、マネジャーの力である」*4

ダイバーシティマネジメントも「成果をあげるために行うもの」と明確にすることが、ひとつのポイントとなります。

ダイバーシティマネジメントはアファーマティブアクションではない

「ダイバーシティを成果のために使って良いのか?」
と倫理的な違和感を覚える場合、ダイバーシティマネジメントとアファーマティブアクションを混同しているかもしれません。

▼ アファーマティブアクションとは?
社会的な差別によって不利益を受けている女性・少数民族・障害者などに対し、実質的な機会均等を確保するための措置。特にアメリカで、政府が雇用や教育の場で黒人や女性などに対して特別枠や優遇措置を設けることをいう。 積極的差別是正措置。 ポジティブ-アクション。*5

もちろんアファーマティブアクションも重要ですが、ダイバーシティマネジメントとは区別して考えた方が理解しやすいはずです。

先ほど「ダイバーシティが指す範囲は無制限である」と述べました。この点もアファーマティブアクションと異なる点です。

社会的差別によって不利益を受けている人たちを対象とするアファーマティブアクションと違い、ダイバーシティマネジメントでは、あらゆる属性・個性が対象となります。

ダイバーシティマネジメントに取り組む5つのメリット

では、ダイバーシティマネジメントを通して具体的にどんな成果が期待できるのでしょうか。

ダイバーシティマネジメントに取り組む5つのメリットを見ていきましょう。
  • (1)リスク分散
  • (2)マーケティング力の強化
  • (3)イノベーション創出の促進
  • (4)企業イメージの向上
  • (5)経営陣の危機管理能力の向上

(1)リスク分散

1つめのメリットは「リスク分散」です。

投資先を分散させることの大切さは誰もが認識していますが、「人材への投資」にもその必要性があることは、近年注目が集まっています。

記憶に新しいのが、コロナ禍におけるリモートワークです。

もともと多様性のある働き方を推し進めており、従業員の働き方が分散されていた企業と、そうでない企業とで、大きな差がつきました。

働き方のみならず、あらゆる属性において同じことがいえます。

(2)マーケティング力の強化

2つめのメリットは「マーケティング力の強化」です。

現代のマーケティングにおいて最重要とされるのは"顧客理解"であり、顧客の状況や心理を深く理解するための手法が開発され続けてきました。

多様な従業員は、それぞれ自分と似た顧客のニーズがよく理解できます。専門的なマーケティング手法を駆使せずとも、組織の顧客理解が深まるのです。

結果として、企業は世界中のさまざまな人たちへ、より良い商品・サービスを提供できるようになります。

(3)イノベーション創出の促進

3つめのメリットは「イノベーション創出の促進」です。

目まぐるしく変化を続ける現代で企業が存続するためには、新しいアイデアや新しいやり方を試し、イノベーションを創出することが鍵となります。

イノベーションは、簡単に言い換えれば「新しいものを導入し、新しい価値を生み出すこと」です。

そのためには、私たち自身が新しい価値観、新しい個性と出会っていく必要があります。それをお互いに叶え合えるのが、「多様な人材と一緒にはたらくこと」なのです。

(4)企業イメージの向上

4つめのメリットは「企業イメージの向上」です。

ダイバーシティに積極的に取り組む企業には、多くの人が好印象を持ちます。

企業イメージの向上を通して具体的に得られる成果として、以下の2つが挙げられます。
  • 自社の商品・サービスに対する消費者の購買意欲が促進される
  • 人材獲得力が上昇する
実際、ダイバーシティ経営戦略を有する企業の経営者に対する調査では、
「人材の獲得・業績の向上・ブランド力や評判の強化」
が、得られた恩恵のトップ3となっています。
引用)経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」 P6
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversitykyousousenryaku.pdf
赤線は筆者加工

(5)経営陣の危機管理能力の向上

5つめのメリットは「経営陣の危機管理能力の向上」です。

例えば、悪気のない失言(本人が問題点を自覚しないまま無意識に行われる言動)によって、多くの政治家、芸能人、そして経営者たちが糾弾されています。

根本的な原因として挙げられるのが、同質性の高い人物で構成されたグループに所属しているために、価値観がアップデートされていないことです。

自社のチームに多様性を持たせることは、経営者自身の多様性ある価値観を育てます。古い価値観に対する自浄作用が、社内に生まれるためです。

時代遅れの考え方を引きずった経営陣が会社をつぶさないためにも、ダイバーシティマネジメントに取り組む意味があるといえるでしょう。

*6

ダイバーシティマネジメントに取り組むファーストステップ

では、具体的にどのようにダイバーシティマネジメントを実践していけば良いのでしょうか。

最初の一歩となるアクションを簡単にご紹介します。

(1)ダイバーシティ経営診断を行

まず「現状把握と必要な取り組みの明確化」を行います。

そのためのツールとして、経済産業省が2021年3月に「ダイバーシティ経営診断シート」を公表していますので、活用しましょう。

*7


(2)ダイバーシティを経営目標に落とし込む


ダイバーシティ経営診断の結果などを参照しながら、経営方針としてダイバーシティにどう取り組んでいくかが見えてきたら、それを経営目標に落とし込んでいきます。

これはダイバーシティマネジメントを成功させる重要なポイントです。

経営者がダイバーシティマネジメントへのコミットメントを明確に示していないのに、自然とダイバーシティが進むことはまずありません。

(3)現場の制度や環境を整える


描いたビジョンを実践するうえで欠かせないのが、現場の制度や環境を整えるアプローチです。

具体的には、以下が必要になります。
  • 勤務環境・体制の整備
  • 能力開発支援施策の整備
  • 評価・報酬制度の整備
  • 経営戦略と個人業務を紐付けた業務指示
  • 人材の希望に即したキャリア設計
  • 多様な人材が活躍可能な職場づくり など
なお、自社のリソースだけでは取り組みが難しい場合には、外部アドバイザーの支援を受けることも有益です。相談先の選択肢をまとめておきましょう。
  • 中小企業診断士
  • 社会保険労務士
  • キャリアコンサルタント
  • 経営者協会の職員
  • 商工会連合会の経営指導員

最後に

本記事では、ダイバーシティマネジメントについて基本的な事項をご紹介しました。

最後に、筆者の体験から思うところをお伝えすると、
「成功のカギはスモールウィンと現場の粘り強さ」
----ではないかと思います。

ダイバーシティに限ったことではありませんが、企業における取り組みが持続するうえでは、「成果が目に見えること」以上に効果的な薬はありません。

できる限り早期に、どんなに小さくても良いので成功体験をすること(スモールウィンを作ること)が、企業にダイバーシティが根付く強力なきっかけとなります。

後者の"現場の粘り強さ"については、
「多様性のある職場で起きる問題」
に、現場がどれだけ根気強く向き合い、ポジティブなベクトルを維持し続けられるか----が、定着までのキーになると感じています。

"多様性があって当たり前"の風土が醸成されるまでの間は、きれいごとだけでは済まされない現場のストレスは、必ずあります。

私たちは、スムーズにわかり合えないときにストレスを感じますが、はじめて多様性のある職場ではたらくことは、わかり合えないことの連続だからです。

それをないものとして推進すると、現場が疲弊してしまいます。

ある程度、起き得る問題を想定しながら、粘り強く取り組んでいくこと。その先に、企業に成果をもたらすダイバーシティが実現するはずです。





注釈
*1
筆者作成

*2 参考)経済産業省「多様な個を活かす経営へ」P4
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/turutebiki.pdf

*3
引用)P・F・ドラッカー. 明日を支配するもの21世紀のマネジメント革命 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.674). ダイヤモンド社. Kindle 版.

*4
引用)P F ドラッカー. マネジメント[エッセンシャル版] (Japanese Edition) (Kindle の位置No.86-87). ダイヤモンド社. Kindle 版.

*5
引用)広辞苑 第七版

*6
参考)経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」 P4-P10
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/diversitykyousousenryaku.pdf

*7
引用)経済産業省「ダイバーシティ経営の推進 」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html

*8
参考)経済産業省「多様な人材の活躍を実現するために」P3
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/2021_03_diversityleaflet.pdf

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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