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人手不足の解消、頼るべきはAI?RPA? その違いとは

2024年02月21日DX

人手不足の解消策として、事務作業など煩雑で定型的な作業をオートメーション化する「RPA」の導入が進んでいます。

一方で、AIブームに再び火がついています。特に近年、ChatGPTをはじめとした生成AIもまた様々な業務を自動化するツールとして期待されています。

では、両者の違いは何でしょうか。
また、DXにあたってはこれらをどう活用していけば良いのでしょうか。

RPAでできることと導入状況

まず、RPAの概要について振り返ってみましょう。
RPAとは「ロボットによる業務自動化:Robotics Process Automation」の略です。

これまで人の手でしかできないと考えられていたパソコン作業などを、ソフトウェアで動くロボットにより自動化するツールがRPAです。おもに表計算ソフトやメールソフト、ERP(基幹業務システム)など複数のアプリケーションを使用する業務プロセスを自動化します。

具体的な応用の場所としては、
  • キーボードやマウスなど、パソコン画面操作の自動化
  • ディスプレイ画面の文字、図形、色の判別
  • 別システムのアプリケーション間のデータの受け渡し
  • 社内システムと業務アプリケーションのデータ連携
  • 業種、職種などに合わせた柔軟なカスタマイズ
  • 条件分岐設定やAIなどによる適切なエラー処理と自動応答
  • アプリケーションの起動や終了
  • スケジュールの設定と自動実行
  • 蓄積されたデータの整理や分析
  • プログラミングによらない業務手順の設定
といったものが挙げられています*1。

半数近い企業がRPA導入

米系のITアドバイザリー企業・ガートナーによれば、2019年8月の調査時点でRPAを導入する日本企業の割合は47.5%に達しています*2。
おもに社内システムからのデータの抽出、データの転記や二次加工がその用途です。

RPA導入への満足度は高いものになっています。

RPA導入の満足度
(出所:「RPAの導入状況について」NTTデータ)
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000489023.pdf p15

業務が楽になった、人手不足対策につながった、残業等の削減ができた、など、業務を効率化できたという評価が多くあります。

また、ある大手都市銀行では20種類の煩雑な事務処理作業をRPAによって自動化したところ、年間8,000時間(1人1日8時間労働で計算すると約1000日分)の事務処理が削減されたという事例があります*3。

世界を見れば、RPAソフトウェアの売上高は2021年には20億ドル近くに達し、COVID-19のパンデミックによる不況を押して2024年まで2桁の成長率で拡大する、とガートナーは予測しています*4。

むしろ、パンデミックによって人同士の接触を避けるなどの目的からRPAへの注目度は高まったことでしょう。

アイネットのRPAサービス

AIとRPAの関係

そして、近年ChatGPTを中心にAIの利用が盛り上がりを見せています。

例えば金融業界ではチャットボットの精度向上や、膨大なマニュアルや約款を要約し顧客などの質問に答えるといった目的でChatGPTの活用が進められています*5*6。

また、社内外からの情報収集やデータの学習を行うことで、ファイナンシャルプランナーの負担を軽減するなどの用途も今後は考えられます。

高度な情報分析力と多様なアウトプットを持つAIも、業務の自動化という意味ではDXの一端を担う存在です。

一見、AIのほうが新しくて優れている道具だと感じてしまうかもしれません。
しかし、AIとRPAには、本質的な大きな違いがあります。

AIとRPAの違い

総務省は、RPAのクラスを下のように分けています。

RPAのクラス
(出所:「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」総務省)
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin02_04000043.html

クラス1ではあくまでRPAのみによる作業の自動化ですが、注目すべきはクラス2、3になるとAIの存在がそこに組み込まれているという点です。
決して「置き換え」ではないのです。

AIとRPAの協業

AIとRPAは、協業してこそ強みを持つという事例がいくつかあります。

例えば、東京都港区ではコミュニティバスの運用にAIとRPAを同時活用するという形を取っています*7。

年間約25000枚にのぼる乗車申請書をAIで読み取ってCSVでデータ出力し、そのデータをRPAでシステムに自動入力などを行うという手法です。

AIの魅力のひとつは大量のデータを正確に処理できることです。

港区のこの事例では、AIを用いて住所・氏名等の文字を「学習する」役割を担います。そしてデータ入力という、人間が行うと時間のかかる「作業」を行うというわけです。
これにより、年間約2000時間の職員業務時間の削減を見込んでいます。

また、兵庫県宝塚市ではAIとRPAを同時活用して働き方の見直しやマネジメント体制の強化を狙っています。

AIでパソコンの操作ログを分析し、その結果をもとにRPAに適する業務を抽出していくという形です*8。

宝塚市での業務改善試行実験
(出所:「地方自治体におけるAI・RPAの活用事例」総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000621163.pdf p18

この事例では、AIは意思決定に関わる現場で働き、その意思決定に基づいて業務をこなすのがRPAという位置付けです。

ここには、ひとつの主従関係のようなものも見えてきます。

人間の機能のどこを拡張しているのか?

確かに、AIはそれ自体が手足を持って作業をするものではありません。一方で、RPAは自らデータを分析するものでもありません。

少し話は変わりますが、カナダ出身の英文学者で1946年にトロント大学教授となったマーシャル・マクルーハンという文明批評家がいます。

「メディア論」という著書で一世を風靡した人でもありますが、彼の主張には興味深いものがあります。

それは、人間文明が生み出してきたものは「人間機能の拡張」だというものです。

例えば自動車は足の拡張で、人間の足だけでは行けないような遠くまで人を行かせることを可能にしました。また、ラジオは耳を拡張するものとして、耳では聞こえない遠くの声や音を聞けるようになったという論です。

これに当てはめれば、AIは人間知能(正確に言えばその一部でしょうか)を拡張したものであり、RPAは手足を拡張したものと考えることができます。

そもそも、得意分野がそれぞれ異なるのです。

よって、「AIのほうが良い」「RPAのほうが良い」という二者択一ではなく、総務省も指摘するような両者を融合させた高いレベルでの自動化こそが、今後は真のDXとなっていくのではないかと筆者は考えます。





*1、3「RPA(働き方改革:業務自動化による生産性向上)」総務省
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02tsushin02_04000043.html

*2
「ガートナー、企業におけるRPAの推進状況に関する調査結果を発表」ガートナージャパン
https://www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20200221

*4
「ガートナー、世界におけるRPAソフトウェアの売上高が18.9億ドルに達する見通しを発表」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP540979_Q0A930C2000000/

*5
「「ChatGPT」をベースとした AI チャットボットの社内利用開始」朝日生命
https://www.asahi-life.co.jp/company/newsrelease/20230622.pdf

*6
「保険領域に特化した対話型 AI の開発および活用の開始 」東京海上日動火災保険
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/230419_01.pdf

*7、*8
「地方自治体におけるAI・RPAの活用事例」総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000621163.pdf p25、p18

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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