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「実際のところ住んでみたい?」スマートシティがなかなか浸透しない日本特有の理由とは

2021年11月02日DX

近頃耳にすることが増えているスマートシティ。
トヨタ自動車の実証都市である静岡県裾野市の「ウーブン・シティ」、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」など次々と大規模プロジェクトが進められている。
しかし実際に生活をしていて、「スマートシティ」を身近に感じ、また憧れを感じることも少ないのではないだろうか。
自分が住んでいる街がある日突然、スマートシティプロジェクトの場所に選ばれる。そんな偶然の幸運でもない限り、現代の日本では縁がない人の方が多いかもしれない。
身近に感じられないのであれば、「スマートシティ=住みたい街」とは言い難いのが現状である。

ではスマートシティを身近に感じ、本当に「住みたい街」にするにはどうすればよいのだろうか。
そのためには、海外とはまた違う日本特有の課題に向き合う必要がある。

求められる「スマート」は移り変わる スマートシティ構想の変遷

そもそもスマートシティとはどのような構想なのだろうか。「スマート」の定義は曖昧で、その概念は時代によっても移り変わっている。そして国や地域によってもその定義や導入背景は、実は異なるものである。

内閣府の定義によれば、
「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、新たな価値を創出し続ける」 都市とされている。[*1] つまりIoT(モノのインターネット)やAIなどの最新技術によってエネルギーや交通インフラを最適化し人々の生活をより豊かにするとともに、環境にも優しい持続可能な社会を目指すものである。


図:スマートシティのイメージ
出典:内閣府「スマートシティガイドブック 概要版」(2021)p1
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/00_scguide_s.pdf

スマートシティにはいくつかの導入背景があり、エネルギーの脱炭素化、都市機能の高度化がやはり重要なキーワードだろう。

スマートシティ構想の前身としてスマートグリッド(次世代型送電網)をベースとしたスマートコミュニティがある。スマートグリッドとは、太陽光発電や風力発電などの出力予測が難しい再生可能エネルギーを大量導入することを目的に電力系統の高度化を目指したものである。

「シティ=都市」と「コミュニティ=地域」というだけで構想自体に大きな違いはないが、スマートコミュニティは電力系統の安定化や再生可能エネルギーの導入により重点を置いたものとなっていた。

つまりエネルギーの効率化や脱炭素化を目指したスマートグリッドの構想を発端に、目指すべき「スマート」さは人々のライフスタイル全般に広がっていったのである。

さらにスマートシティとよく似ているスーパーシティやコンパクトシティという言葉もある。これらの違いについても触れておこう。

スーパーシティも内閣府の構想であり、都市OSを基軸としてAIやビッグデータの利活用により、地域の問題解決を可能にする街づくりである。
スマートシティの進化型とも考えられるスーパーシティは、地域創生の側面も強くIT技術の活用に重点を置いている。

コンパクトシティとは国土交通省の進める都市構想のことで、公共交通機関を利用した地方都市の集約化を目指している。
人口減少が進みながらも市街地が拡散する地方都市をターゲットとして、効率的な都市経営を実現する持続可能なまちづくりをすすめるものだ。

このようにスマートシティ、コンパクトシティ、スーパーシティなど日本の街づくりにはさまざまな構想が乱立している。
そしてどの構想も市民権を得ているとは言えない現状から、ある意味迷走しているとも言えるだろう。

なぜ日本でスマートシティが浸透しないのか

その上でなぜ、2010年以前からすすめられているスマートシティ事業がなぜなかなか実証段階から進まないのか。
筆者の考える日本特有の理由を紹介する。

海外と日本の社会的課題の違い

世界的なスマートシティ推進の背景にあるのは、人口増加や都市への人口集中である。
それに伴い都市機能をより効率化することが、スマートシティの使命だ。
一方で日本は先進国では唯一の人口減少国であり、過疎化や少子高齢化など解決すべき課題は異なる状況にある。

そして、海外のスマートシティに対して期待されている
「日常生活における快適さ」
「安全で利便性の高い街」
これらは、日本に住む私たちが実はすでに手に入れているものばかりだ。

日本の電車は数分の狂いもなく定刻通りに到着し、その定時性の高さは明治時代から変わらない。
物流システムにおいても、荷物が紛失することはほぼありえないどころか、ピンポイントの日時や時間指定も可能である。
いたるところにある24時間営業のコンビニや自動販売機は、治安が良いからこそ成立するものだ。これらに象徴される都市機能は、私たちの生活を既に高いレベルで便利にしている。

もともと勤勉な国民性から、システムをスマート化する以前に多くの都市機能を効率化してきていたと言うべきだろう。
もちろんスマートシティには、地球環境問題解決やエネルギー政策などマクロな視点では導入意義がある。
しかし私たち生活者一人一人の肌感覚におけるニーズは、果たして存在すると いえるのだろうか。
ここを明確にしない限り、これら大規模プロジェクトに対する期待は決して盛り上がらないだろう。

再生可能エネルギー導入が厳しい地理条件

加えて、別の観点からも考えるべき課題がある。
スマートシティの軸の一つである風力や太陽光の再生可能エネルギーの大量導入は、日本の地理条件や気候条件においては非常に不利という事実だ。

まず日本にはそもそも平坦な土地が少なく、太陽光パネルを設置できる土地が十分ではない。
しかし土地がないからといって森林を伐採した山の斜面などに太陽光パネルを設置するのは二次災害を招く恐れもあり、本末転倒になってしまう。
日照条件や風量なども国によって条件は異なり、海外と比較しても日本は発電コストを抑えることが難しい。

ドイツなどのヨーロッパ諸国ではすでに再生可能エネルギーが主力になっているのは、国際的な連系が可能な点も大きい。
広大で平坦な国土が地続きになっているヨーロッパは国境を超えてメッシュ状に電力系統が構成されており、再生可能エネルギー特有の出力変動や小規模な事故は吸収できる仕組みになっている。
一方で島国である日本は、国際的な電力融通はもちろん難しくさらにエリアごとに電力会社が管轄する仕組みとなっている。
電力融通に制限のある日本の系統運用では、出力変動の大きい再生可能エネルギーの導入には不向きである。
再生可能エネルギーの大規模な導入には、解決すべき課題が山積しているということだ。

命を守るまちづくり 日本版スマートシティは防災に特化しても良いかも知れない

乗り越えるべき壁の多いスマートシティの実現には、「その街に住んでみたい」と、そう心から思える付加価値が必要となる。

急激なテレワークの普及により勤務地に縛られない居住地選びが現実味を増している今、災害リスクの低い街は魅力的な選択肢の一つになる可能性がある。

日本は地震や台風などの自然災害のリスクが非常に大きい国である。
諸外国と比較して大雨や台風、土砂災害などの自然災害が多く、地震に関してはマグニチュード6以上の地震の約20%が日本で発生している[*2]。

さらに気候変動による異常気象が増えており、これまでに経験したことのない大雨や台風が高頻度で発生している。先進国の中でもダントツに停電時間が短いことを誇っていた日本だが、近年は自然災害による停電が増えているところにも注目したい。

2018年の北海道胆振東部地震発生時には、日本で史上初のブラックアウト(エリア全域の大規模停電)を経験した。
2019年に千葉を直撃した台風15号では、停電の長期化が問題となったことは記憶に新しいだろう。
真冬や真夏の停電は人命にも関わることであるが、その危機は予測できるものではない。

蓄電池や制御可能な分散型電源などから構成される、災害に強い電力インフラを有するスマートシティであれば、それらリスクを低減できる可能性が高い。
さらに、災害状況のリアルタイムな情報共有や災害時の家族の位置情報把握など防災機能に特化することで、より安心して住める街となるはずだ。

ダイレクトに「命を守れる暮らし」を、訴求すること。
それが日本版スマートシティの魅力を高める方向性であり、生活者が求める街づくりの姿なのではないだろうか。

[引用・出典]

*1
内閣府ホームページ「スマートシティ」
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.html

*2
一般財団法人 国土技術研究センター「国土を知る/意外と知らない日本の国土」
https://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary09

石上 文

1985年生まれ。フリーライター。
広島大学でエネルギー工学を学び修士号を取得、株式会社東芝でエネルギーシステム開発を経験。退職後は二児の母として「育児」「エネルギー」「環境問題」などをテーマにライターとして活動中。

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