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知っていますか?宇宙ごみの恐ろしさ 落下事故の可能性や回収対策を画像とともに解説

2023年04月05日解説

1957年に旧ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げて以降、地球上から宇宙に向けて多くの衛星やロケットが打ち上げられ続けています。

技術開発が進み宇宙開発が盛んになるにつれその数は急増していますが、これらを回収するすべはほとんどありません。
そのため、多くの衛星やロケット、その破片などが大量に「スペースデブリ(宇宙ごみ)」として宇宙空間に残されています。

かつては宇宙空間は広大なため、物体同士が衝突する可能性は極めて稀だと言われていました。
しかし近年、スペースデブリ同士が衝突するというアクシデントも起きているほか、スペースデブリの落下によって地上で死傷者が出る可能性も指摘されています。

「混雑している」地球の周辺はいま、どんな状態になっているのでしょうか。

宇宙ごみの落下が地上に死傷者を出す可能性

地球から打ち上げられ、運用を終えても軌道上に残り続けている衛星やロケットの残骸などは、即回収されるということはありません。
宇宙空間に「ごみ」として漂い続けることになります。

そして宇宙開発の急発展に伴い、近年では比較的低予算で小型衛星を打ち上げることが可能になりました。
その一方で、スペースデブリ(宇宙ごみ)の数は急増しています。

スペースデブリには数ミリ単位のものからバス程度の大きさのものもあり、ESA(=欧州宇宙機構)の2022年のレポートによると、現在、地球に近い宇宙空間には約3万のスペースデブリが残されています(図1)。


図1 スペースデブリの数
(出所:「ESA's Space Environment Report 2022」欧州宇宙機関)
https://www.esa.int/Space_Safety/Space_Debris/ESA_s_Space_Environment_Report_2022

なかでも、凡例にある

RM(Rocket Mission Related Debris、ロケット打ち上げミッションに関するもの)
PF(PayLoad Fragmentation Debris、人工衛星の破片など)

が非常に多くなっています。
特に、地表から350~550キロメートルの低軌道にデブリが集中しており「混雑状態」になっているといいます*1。

実際、どれくらいのサイズのものを「スペースデブリ」とみなすかは難しいところですが、剥がれた塗料の破片などミリ単位の大きさのものを含めると総数は1億個を超えるともされています*2。

なおESAなどによると、軌道にある人工物体のうち運用中の衛星はわずか6%で、残り94%が「ごみ」として宇宙空間を漂っている状況です(図2)。


図2 軌道上の人工物体の割合
(出所:「スペースデブリに関する最近の状況」JAXA)
https://www.env.go.jp/content/900442397.pdf p2

地上から打ち上げられた人工物質のほとんどが「ごみ」と化しているのです。

「ビッグ・スカイ」理論の終焉

かつては宇宙空間について「ビッグ・スカイ」理論が支持されていました。宇宙のような広大な3次元空間では、2つの物体が偶然ぶつかることは極めて稀でしかない、というものです。

しかし近年、スペースデブリどうしの衝突事故が起きています(図3)。


図3 宇宙空間でのスペースデブリ衝突事故
(出所:「スペースデブリに関する最近の状況」JAXA)
https://www.env.go.jp/content/900442397.pdf p4

「ビッグ・スカイ」理論はもはや通用しなくなっているのです。

スペースデブリは秒速数キロというスピードで移動しています。よって、ミリ単位のものでも、何かに衝突すれば凶器になり得ます。

こうしたスペースデブリの衝突は大量の破片を生み出し、さらにスペースデブリの数を増やすだけでなく、有人のISSに衝突した場合は大惨事になりかねません。

また、宇宙空間に存在するISSだけでなく、地上にも危険が及びそうです。

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学が2022年にまとめた分析結果では、スペースデブリが今後10年間で、地上に落下して死傷者を出す可能性が10%にのぼるとしています*3。
これまでスペースデブリの落下リスクについては無視できるレベルとされていましたが、ロケットの打ち上げが増加し、リスクが蓄積されているのです。

「ケスラー・シンドローム」とは

人工衛星は基本的に、運用を終えた後はなるべく早く大気圏に突入させて燃やす、という対策が取られています。

しかし、すぐに大気圏に到達するわけではありません。

地球表面から数百キロメートルの比較的低い軌道にあるものでも数年から数十年の時間を必要とします。
また、地球表面から数千キロメートルといった高軌道にある衛星の場合、数百年以上も地球の周辺を回り続けるのです*4。

現在、「ケスラー・シンドローム」という現象が懸念されています。

ケスラー・シンドロームとは、すでに軌道上にあるスペースデブリ同士の衝突でデブリが増える「自己増殖」のことです。スペースデブリの自己増殖が始まってしまうと、いずれ地球の周辺はベルト、あるいは膜のようにスペースデブリに取り囲まれる状態になってしまいます。

この自己増殖に人が手をつけられる術は現在のところありません。そして、ひとたびケスラー・シンドロームが発生すると、今後ロケットなどの打ち上げを一切やめたとしても、デブリの増加を止めることはできなくなってしまうのです*5。

国際的な規制の動き

もちろん、このような事態に対して、国際的な枠組みがないわけではありません。
これまで、宇宙開発に関してはいくつかの条約が結ばれてきました(図4)。

図4 スペースデブリなどに関する国際条約の一部
(出所:「COPUOSにおけるスペースデブリに関する議論」外務省)
https://www8.cao.go.jp/space/taskforce/debris/dai2/siryou2.pdf p1

ただ、上図にありませんが1979年に結ばれた⽉協定採択以降以降は、法的拘束力を持つものではありません*6。

「宇宙ごみ」回収への取り組み

そこで、スペースデブリを少しでも減らそうと、世界の団体や企業が「直接デブリを回収する」技術開発に乗り出しています。

ひとつは、スイスの企業です。
ロボットアームを搭載した衛星を打ち上げ、狙ったデブリを回収し、ともに大気圏に突入させるというプランです(図5)。

図5 宇宙ごみ捕獲のイメージ
(出所:ClearSpace) 48秒付近
https://www.youtube.com/watch?v=h-8k25yhTr0&t=48s


また日本国内に拠点のあるスタートアップ企業(アストロスケール)では独自のデブリ除去時術を開発し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や各国の様々な機関と協力しながら、実用化に向けて技術検証を行っています。
こちらは磁力でデブリを捕獲し、大気圏に突入させるプランで、2021年3月に打ち上げられた捕獲衛星(ELSA-d)では磁力による捕獲実験が実施されています。

図6:宇宙ごみ捕獲のイメージ
(出所:ADRAS-J ConOps video - Phase I)2分36秒付近
https://astroscale.com/ja/services/active-debris-removal-adr/

アストロスケール導入事例>

そしてもうひとつのアプローチは、「軌道を変更させ、大気圏に導く」というものです。ここでは、日本企業が先陣を切っています。

スカパーJSATホールディングスが発表したのは、レーザーを搭載する人工衛星を打ち上げ、スペースデブリにレーザーを照射することで軌道をただちに変更させ、大気圏への突入を促すという技術開発です(図7)。

図7 レーザーによるスペースデブリ誘導のイメージ
(出所:「世界初、宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発」スカパーJSATホールディングス)
https://www.skyperfectjsat.space/news/detail/sdgs.html

制御不能になった使用済みの人工衛星などに直接方向性を与え、自然に任せた長期間滞在を防ぐための技術です。

宇宙ごみの回収はひとつのビジネスチャンスにもなりつつあります。

宇宙環境にも持続可能性を

スペースデブリの軽減や回収は急務となっています。

地球と同様に、「宇宙にやさしい」開発をしなければすぐに持続不可能なものになってしまうでしょう。
先に紹介した「ケプラー・シンドローム」が先か、技術の向上による問題解決が先か、といった切羽詰まった状況にあることは間違いありません。

一方で人工衛星によってわたしたちは、インターネット通信や気象予報、GPSなど数々の恩恵にあずかっているのも事実です。

人の生活に必要な技術開発を、持続可能なものにしていく。
まさに「SDGs」の精神が、宇宙環境にも求められています。



*1
「ESA's Space Environment Report 2022」欧州宇宙機関
https://www.esa.int/Space_Safety/Space_Debris/ESA_s_Space_Environment_Report_2022

*2、5
「スペースデブリに関してよくある質問(FAQ)」JAXA
https://www.kenkai.jaxa.jp/research/debris/deb-faq.html

*3
「宇宙ごみで死傷確率10%、カナダの大学推定 リスク累積」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE200FF0Q2A820C2000000/

*4
「使い終わった人工衛星はどうなるのですか?」JAXA
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/334.html

*6
「COPUOSにおけるスペースデブリに関する議論」外務省
https://www8.cao.go.jp/space/taskforce/debris/dai2/siryou2.pdf p1

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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