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災害大国日本、「防災DX」でどこまで被害を減らせるか?

2024年08月29日DX

日本は災害大国です。

また、風水害など、その規模が年々巨大化しているものもあります。

一方でSNSによって誰もが広く情報を発信できる環境にあり、善意のものだけではなくデマ情報が多く拡散される時代でもあります。

防災にあたっては、発生時に正しい情報に基づいて早期避難を呼びかけ、最短で安全な場所に人を誘導できるかどうか、その段階でどこに人が集中しているのかを把握し避難を効率的にすること、その後も適切な場所に適切な物資を届けることが欠かせません。

そこで、情報が混乱しがちな災害現場において、「防災DX」を進めている事例があります。効果はどのくらいあるのでしょうか。

防災に対する意識、被災経験と対策

2021年の国土交通白書によれば、自然災害の発生件数や規模について、6~7割近くの人が「多くなっている」「大きくなっている」と感じています。

災害の件数、規模の変化に対する意識
(出所:「国土交通白書2021」国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1224000.html

それに伴って、自分なりの災害対策を行っている人も少なくありません。

最近2年から3年に行っている自然災害への対策、被災経験の有無
(出所:「国土交通白書2021」国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1224000.html

上の図の赤線は被災経験がある人、グレーの線は被災経験のない人の回答を示していますが、被災経験のある人ほど「何もしていない」という人は少なくなっています。

また、被災体験の有無にかかわらず対策として多いのは、

・ハザードマップや避難場所、経路の確認
・家具などの転倒防止
・食料、水等の備蓄や非常時持ち出しバッグ等の準備

といった項目です。

一方で、事前学習やデジタルの活用についてはまだ意識は浸透していません。

防災・減災の実現に重要と考えること
(出所:「国土交通白書2021」国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r02/hakusho/r03/html/n1224000.html

しかし、DXで防災、減災を加速する試みが始まっています。

情報、手続き方法の一元化がない世界

現在、大災害の発生時には、このような姿が見られます。

・大勢の帰宅困難者が駅やバス停などに押し寄せ情報を待っている
・逃げ遅れによる死傷
・避難所に集まる物資の需給ギャップ
・デマの拡散

つまり「大災害に遭遇したらどう行動するか」の意識が徹底されていないこと「正確な情報をリアルタイムで把握できていないこと」が原因です。

デマの拡散が混乱をもたらすのも、「どこの情報を信じれば良いのかわからない」ことが根底にあります。パニック状態で藁にもすがる思いの被災者は、どんな小さな情報でも求め、それを選別するという余裕はありません。

南海トラフ地震、首都直下地震の懸念が高まっているいま、「どう行動するか」は今すぐにでもプランを立て従業員に徹底すべきでしょう。

そして「正確な情報をリアルタイムで把握すること」にはまだまだ大きな課題があります。

これを改善していくために立ち上がったのが「防災DX官民共創協議会」です*1。

「データの一元化」という基礎中の基礎

どのような組織であれDXにおいて最も強調されているのは、まずは「データの一元化」です。

防災分野でのデータの一元化については、2011年6月から「Lアラート」が運用されています。

「Lアラート」の仕組み
(出所:「「今後のLアラートの在り方検討会」報告書について」総務省)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai46/siryo4.pdf p2

2016年の熊本地震ではNHKのデータ放送やヤフーアプリなどを通じて避難勧告・指示、避難所情報等を932件、行政手続きや被災者支援、ライフラインなどの生活支援情報を403件配信しています*2。

2018年8月の台風20号では、NHKはLアラートの情報をそのまま表示しています。

実際のテレビ放送画面
(出所:「「今後のLアラートの在り方検討会」報告書について」総務省)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai46/siryo4.pdf p12

ただ、今後は取得可能な情報を増やし、かつ、リアルタイム性のあるものを内閣府は求めています。

防災分野でのデジタル化が目指す方向
(出所:「防災分野におけるデジタル化の取組」内閣府資料)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/dai10/shiryou11.pdf p3

また、デジタルの駆使によって、下のような効果が期待されています。

デジタルによる新たな防災・レジリエンスの可能性
(出所:「ハイレジリエントな未来を共創する」NTTデータ
https://www.nttdata.com/jp/ja/-/media/nttdatajapan/files/industries/resilience/nttdata_resilience.pdf p12

発災から災害中、そしてその後のフォローまでを適切に行えるというものです。

コロナ療養者情報とハザードマップのデータ統合も

2021年にデータ統合連携基盤を導入した横浜市は、2023年2月に災害時の避難所での受付などの業務をデジタル化する実証実験を行っています*3。

横浜市は市独自のスマートフォンアプリを開発し、避難者がこのアプリを使って2次元コードを読み取り、接続したサイトに氏名や住所、連絡先などを入力して受け付けを済ませるというものです。

避難所入り口で手書きする従来の登録方法では行列が発生するため、これを緩和するほか、避難者の属性をリアルタイムで把握できれば、効率的な支援物資の調整や避難所の増設が可能になります。

「いまは食料よりも生理用品が欲しい」などという支援物資の需給ギャップはよく目にするところです。

また、コロナの流行を受け、神奈川県は、自宅療養者情報とハザードマップのデータを統合する試みを始めています。洪水や高潮危険地域内で自宅療養している人をピックアップし、災害発生時に市町村等が療養者をサポートできるようリスト化するというものです*4。

自力での避難が難しい環境にある人をいち早く把握することで減災につながることでしょう。

なお神奈川県はコロナの療養証明書の出力作業を自動化する機能を一部先行利用しています。手作業で行っていた申請データを自動で読み込み、療養者基本情報との突合を自動化することで、処理可能件数が2倍に増えたといいます*5。

避難所でのアレルギー対応などにも期待

さらにデジタル庁は、スマートフォンの位置情報を活用して災害時の捜索救助を高度化する検証、避難所では避難者ひとりひとりのアレルギーの有無、その日の体調をアプリで避難者が直接伝えることもできるとしています*6。

タブレットやマイナンバーカードを用いた入所手続きでは、入退所手続きにかかる時間が大幅削減されました。

避難所でのデジタル活用実証実験の結果
(出所:「防災分野におけるデジタル庁の取組みについて」デジタル庁)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000918055.pdf p25

災害時、信頼できる情報源に基づいた行動は被災者を最短距離で安全な場所へ誘導するともいえるでしょう。

マスメディアなどから流れる情報を「待つ」のではなく、被災者自身が自分に必要な情報だけを効率的に得られることは、被災者の安心、パニックの軽減にもつながります。

また、被災者の位置情報把握やドローンの利用などは、救助にあたっての2次災害の軽減も可能にすることでしょう。

防災DXは、大きな可能性を秘めています。
もちろん、それぞれが災害について平時からしっかり学習しておくことが大前提です。



*1
防災DX官民共創協議会
https://ppp-bosai-dx.jp/

*2
「「今後のLアラートの在り方検討会」報告書について」総務省
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/resilience/dai46/siryo4.pdf p5、p13

*3
「軽井沢中学校の地域防災拠点開設・運営訓練で 避難所受付のデジタル化に向けた実証実験を実施します! 」横浜市記者発表資料
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/nishi/2022/0213modelward_nishi.files/0001_20230209.pdf

*4、5
「本県のデジタル化の取組~データ統合連携基盤の整備に向けて~」神奈川県
https://www.pref.kanagawa.jp/documents/82676/shiryou3.pdf p7、p8

*6、7
「防災分野におけるデジタル庁の取組みについて」デジタル庁
https://www.soumu.go.jp/main_content/000918055.pdf p15、p23

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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