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再エネ電力利用の新たな形 「デジタルグリッド」とは?

2023年01月25日解説

現在、大手電力会社だけでなく、家庭で太陽光パネルなどを利用して発電し、余剰分を売電している人もいます。
ただ、大手電力会社の送電網に入ってしまうと、電気には色もなく、目で見ることもできません。よって使う人からすればその電気がどこまで再生可能エネルギーによる電力なのかを把握することはほぼ不可能です。

一方で再生可能エネルギーを事業に取り込みたいと考える企業が存在するのも事実です。

こうした課題を解決するために、デジタル技術によって電力を「見える化」し、再エネ電力の供給者と需要家をマッチングさせようとする取り組みが始まっています。

再生可能エネルギー電力の行き場

現在、家庭で太陽光パネルなどによる発電をし、自分の家で使うだけでなく余剰分を大手電力会社に売電できる「固定価格買取制度(FIT)」が順次終了しつつあります。
住宅用太陽光発電電力の余剰電力は、固定価格での買取期間が10年と定められているためです。

そこで資源エネルギー庁は、制度終了後は発電家に対し、2種類の余剰電力の利用方法を提案しています(図1)。

図1 再生可能エネルギー電力の買取制度終了後の選択肢
(出所:「どうする?ソーラー」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar-2019after/

発電の余剰分は自家消費するか、小売電力事業者などに対し自由契約で売電するか、という選択肢です。この場合の電力の買い手には、いわゆる新電力会社も含まれています*1。
もちろん、現在の売電先に売電を続けることも可能です。
そして、買取価格は電力会社によって異なります。

実際、固定価格買取制度には課題がありました。
電力買い取りにかかる費用は「再エネ賦課金」として国民が払う電気料金に上乗せされています。
発電家が増えるにあたって、この賦課金が大幅に増えてしまうのです。

このまま固定価格買取制度を続けていると、将来的に下のように賦課金が増大する見込みです(図2)。

図2 賦課金単価の推計
(出所:「2030年における太陽光発電導入量・買取総額の推計と今後の制度設計のあり方」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/026_04_00.pdf p12

再エネの導入と国民負担の抑制を両立させることは困難な状況に陥っているのです。

「FIT」から「FIP」へ

そこで、再エネ電気の買取については、2022年4月から、これまでの「FIT」制度に変わる「FIP(=Feed-in Premium)制度」が始まっています。

従来のFITは電力需給にかかわらず、電力会社が再エネ電気を固定価格で買い取るというシステムでした。これが電気利用者全体の負担を押し上げる要因でしたが、FIPは需給に応じた価格に一定のプレミアム価格をつけて電力を買い取るというシステムです(図3)。

図3 FIP制度での再エネ電力買取価格
(出所:「再エネを日本の主力エネルギーに!『FIP制度』が2022年4月スタート」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/fip.html

高く売れる時期もあれば、そうでもない時期もある、という仕組みに変化しています。

しかし、再エネ電力の売電については、デジタル技術を用いた新しい選択肢が広がりつつあります。

再エネ電力を「売りたい」「欲しい」のマッチング

新しいデジタル技術で可能になったのが、再エネ発電家と、再エネ電力を使いたいという需要家の適切なマッチングです。
企業価値向上などのために再エネ電力を積極的に使いたい、という需要家は少なくありません。中でも、特定の場所や特定の人とつながりのある再エネ電力となると魅力を感じる需要家もいます。

とはいえ、発電家と需要家を直接電線で繋ぐというのは無理があります。

そこでDXの登場です。

ブロックチェーンを用いた再エネ電力の売買

2019年には、環境省のモデル事業でこのような実証が行われました*2。

「家庭で発電した太陽光電力を、レンタル電動バイク事業で使う」というものです。それも、発電家は再エネで発電するだけでなく利用することで「環境価値」を創出しているとの考えのもと、これらの「価値」をも売買の対象にしようという試みでした。

具体的には、全国100軒ほどの家庭で生まれる再エネ発電・消費で生まれる環境価値を、神奈川県と沖縄県にあるレンタル会社に販売し、電動二輪車等の充電に利用するというものです。電動二輪車の利用者に、環境にやさしい乗車体験を提供するビジネスに活用するのです。
発電家は自由に値段をつけることができ、購入側はいくらで欲しいかを設定するため、その需給と価格がマッチすれば取引を開始できるというしくみです(図4)。

図4 家庭での再エネ発電による価値の売買イメージ
(出所:「『ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業』における成果の社会実装・商用利用に向けたC2C取引プラットフォーム実証の開始について」環境省)
https://www.env.go.jp/press/107117.html

この売買方法の特徴は、ブロックチェーン技術です。独立した帳簿を作ることで、電力の売買状況を追跡可能にしているのです。

どこに住んでいる誰がどこでどのくらいの環境価値を創出したか、需要家にリアルタイムで知らせることができます。また、同時に価値を販売する家庭には、いつどこでどのように価値が使われたのかがリアルタイムに分かるようになっているため、発電家・需要家ともに、電力の売買をよりリアルに感じられるというものです。

売りたい人は自分の環境価値に自由に値段を付けることができ、買いたい人は、ブロックチェーンを用いた取引プラットフォーム上に表示される、値段や属性の異なる多様なメニューの中から自分の好きな環境価値を選ぶことができるようになるのです。

また、著名人が発電によって創出した環境価値をリアルタイム購入できるとなると、そこに新しいビジネスが生まれることにもなるでしょう。

「デジタルグリッド」の誕生

そして一歩進んだ、「デジタルグリッド」のサービスが利用されはじめています。

デジタルグリッド社は、発電家と需要家を自動的にマッチングさせるシステムを構築し、再エネ電力の流通を進めています(図5)。

図5 デジタルグリッド社のプラットフォームのイメージ
(出所:「Service」デジタルグリッド株式会社)
https://www.digitalgrid.com/service

また、需要家はどのような種類の電気かを選んで購入することができるようになっているうえ、電力に限らずFIT非化石証書やJ-クレジット、グリーン電力証書など、さまざまな環境価値を購入することもできます。

小口の発電家が参入しやすいのもまた特徴です。

そして、発電家・需要家にこのようなメリットが生まれるといいます*3。

<発電家>
  • 『インバランスリスクからの解放』=計画値と実績値の乖離に応じて生じるインバランスリスクが解消される
  • 『小口電源の集約』=小規模な再エネ電源を集約したうえで、直接需要家に販売できる
  • 『安定的な販路の確保』=大手企業を始めとする大口需要家と長期で相対契約を締結できる

<需要家>
  • 『コスト削減』=需給調整の自動化による電気代の削減が見込まれる
  • 『再エネ調達』=電源を識別し、再エネのみを選択して調達することが可能
  • 『個別メニューの作成』=需要家ごと、供給地点ごとに、ニーズに合ったメニューの作成が可能

環境価値の「見える化」が新たなチャンスに

上記いずれの取り組みも、発電家が生み出す再エネ電力を無駄なく回収し利用することができるだけでなく、再エネ電力の「価値」までも可視化できるという特徴を持っています。

従来の固定価格買取制度では、再エネ電力を「いくらで売りたいか」「いくらでなら購入できるか」といった個別の事情を反映することは難しかったといえます。しかしここでは、さまざまな発電家と需要家の間にさまざまなメニューを設定する柔軟さもあります。

デジタル技術を通じて、新しい顧客体験を生み出す。
まさにDXの本来の目的が、再エネ分野で実現されつつあるのです。




*1
「売電できる事業者」資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/solar-2019after/retail_electricity_utility.html

*2
「『ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値創出モデル事業』における成果の社会実装・商用利用に向けたC2C取引プラットフォーム実証の開始について」環境省
https://www.env.go.jp/press/107117.html

*3
「Service」デジタルグリッド株式会社
https://www.digitalgrid.com/service

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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