「Web3(Web3.0)」という言葉がバズワードになっています。
文字通り「Web1.0」「Web2.0」に続く次世代インターネットの概念ですが、従来のインターネットとは全く違う世界を提供するものとして期待されています。
インターネットの最新の動向として、ブロックチェーン、暗号資産、メタバース、NFTなどの技術開発が次々と進んでいます。これら近年の技術が集約されるのが「Web3.0」の世界です。
いったいどのような世界なのか、インターネットユーザーにどのような変化をもたらすのか、その基本知識をご紹介します。
「Web1.0」から「Web3.0」までの変遷
1990年代に黎明期を迎えたインターネットは、そこから姿を変えてきました。「Web1.0」「Web2.0」、そしてこれからやってくる「Web3.0」では、このような違いがあります(図1)。

図1 Web1.0〜Web3の変遷
(出所:「『Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会』事務局資料」総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000827944.pdf p5
まず、上の図をわかりやすくするため、それぞれをおさらいしていきます。
「Web1.0」の時代〜情報は一方向
1990年ごろから2000年代前半までのインターネットは、ダイヤルアップ接続、ISDN、ADSLのようなインターネット回線の進化の途中でもありました。
ダイヤルアップの電話代を気にしながらインターネットを利用していたという人も多いことでしょう。
またホームページを作る技術も限られており、情報の発信は一方向のものでした。
筆者も1990年代後半、大学生のときにHTMLとJavaScriptを本で勉強して自分のホームページを作ったことがありますが、今のような多彩なデザインができるわけでもありませんでした。
思ったように機能させるには何度も修正を加え、かなりの時間を要した記憶があります。
検索エンジンもそう便利なものではありませんでした。ポータルサイトから与えられたカテゴリの中で情報を選ぶだけという形式がメインであり、ネットユーザー同士の情報交換は電子メールが精一杯だったことでしょう。
最大の特徴は、ユーザーはただ「見るだけ」「読むだけ」しかできなかったという点です。
「Web2.0」の世界〜双方向性の誕生
その後、2000年代後半に誕生したのが「Web2.0」の世界です。
この世界のインターネットでは、Web1.0のように一部の限られた発信者の情報を「見るだけ」のものではなくなりました。
SNSなど無料のプラットフォームを介して誰でも気軽に情報を発信できるようになり、ユーザー同士が自由に情報共有できるようになったのです。検索エンジンも便利なものになりました。
スマートフォンの出現も流れを大きく変えますが、これはGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)が台頭した時代でもあります。
情報発信プラットフォームを無料で提供する代わりに大量の利用者情報を収集、分析して有効な広告配信を企業に提供するというビジネスの登場でもあります。
「Web3(Web3.0)」の世界〜巨大テック企業からの脱却
そして訪れようとしているのが「Web3」の世界です。
総務省は「Web3」について、このように説明しています*1。
少数のプラットフォーム事業者による寡占構造となったWeb2.0に対して、Web3のサービスは、プログラムやデータをパブリック型のブロックチェーンに登録することで「非中央集権的」になるとも言われているが、明確な定義が定まっているものではない。
さて、これではいまいちわかりにくい説明であるかと思います。
Web3を知るためには、その最大の基本になっている「ブロックチェーン」について知る必要があります。
Web3の土台「ブロックチェーン」
Web3というと「メタバース」を連想する人も多いことでしょう。しかし、最大のキーワードは「ブロックチェーン」であると筆者は考えています。
上の図1でWeb3が「分散型(分散管理により情報や権利が偏らない」あるいは総務省の説明で「非中央集権的」と表現されているWeb3の世界の土台は「ブロックチェーン」にあります。
仮想通貨とブロックチェーン
ブロックチェーンを理解するのに役立つのが、仮想通貨のしくみです。
ビットコインなど仮想通貨は、銀行を経由して取引する現実の通貨とお金の管理と取引方法が全く違います(図2)。

図2 ブロックチェーンの概念
(出所:「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/main/infographic/pdf/block_c.pdf p3
現実世界でのお金のやりとりは左側で、基本的に銀行という第三者を介して行われます。
しかし、ブロックチェーンに基づいてお金のやりとりができる仮想通貨の世界は、やりとりの記録を銀行という第三者だけが把握する世界とは違います。
コミュニティ内の全員が、全員のお金のやり取りの履歴を共有し、お金の流れを把握できるという違いがあるのです。
しかも、全員が共有している台帳は改ざん不可能です。
上の図の左のように、Xさんだけがお金の流れを把握していると、Xさんが不具合で動けなくなってしまった場合、全員のお金のやりとりが滞ります。銀行のシステムダウンなどがこれにあたります。
また、万が一Xさんが不正をしてしまうと、全員の資産に影響が及びます。
一方、ブロックチェーン上で行われる仮想通貨の世界では、全員が改ざん不可能な台帳を見ることができるため、一人がウソをついても他のメンバーにばれてしまいます。また、Xさんのような存在がないことで、誰かひとりがダウンしても、個人間のお金のやりとりは可能です。
やりとりの情報が「中央集権的」なのではなく、「分散型」であるのが仮想通貨の特徴です。そうすると、これまで金融機関に支払っていた手数料も不要になります。
同時に、改ざん不可能な台帳があることで、個人間のお金のやり取りにも透明感と信頼性が生まれるというわけです。
これがWeb全体の世界で繰り広げられる、というのがWeb3.0の基本にあります。
Web2.0の課題を克服
Web2.0の世界では誰もがSNSなどを通じて気軽に情報発信をできるようになりましたが、課題も存在しています。
ユーザー情報がXさんのような存在=プラットフォームを提供するGAFAMなど巨大テック企業に集中してしまっていることです。個人情報に対する意識が高まる中、こうした構造に不信感を抱いている人もいることでしょう。
しかし、個人間の情報共有にこれらの巨大プラットフォームは欠かせなくなっているのも事実です。
この状況とは違い、個人が独自のプラットフォームを作り、大手に頼ることなく信頼できるコミュニティを作り出すことができる、これがWeb3の基本概念です。
個人がプラットフォームを作って活動する組織はDAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)と呼ばれます(図3)。

図3 Web3.0におけるDAOの概念
(出所:「Web3.0の登場と期待される今後のインターネット世界」中小機構)
https://ittools.smrj.go.jp/info/feature/nl39t60000000yr9.php
また、仮想通貨や暗号資産などによる独立した経済圏を提供するプラットフォームは「DeFi(Decentralized Finance:ブロックチェーン技術を活用した金融仲介アプリケーション)」として注目されてきました。
Web3.0がユーザーにもたらすもの
Web3.0をビジネスにどう活用していくかはまさにアイデア次第です。
すでに実用化されている事例としてNFTが挙げられます。
例えば絵画の場合、業者を介入させずに、かつ模造品ではないというお墨付きをブロックチェーンによって与えられるため、個人間での信頼できる売買が可能になっています。
そして、メタバースの応用では、ユーザーが得られるメリットのひとつとして、このようなことが考えられます。
メタバースは自分のアバターで仮想空間での活動を可能にする世界です。その世界が特定の大手企業ではなく、信頼できる人が構築した場所であれば、身体や空間を超えてプライベートな個性をオープンにして活動することができるようになります。
例えばさまざまな悩みを抱えるマイノリティにとっては、現実世界と違う心地の良いサードプレイスを作り上げることができるでしょう。信頼できる人にだけ個人の情報や事情を共有できるのです。
多様性の時代では、一定の需要があることでしょう。
寡占的なプラットフォーム提供者から個人が独立し、思い思いの世界を構築できる。
これがWeb3.0の基本です。
どのようなビジネスモデルが生まれていくのか、今後の動向に注目したいものです。
*1
「『Web3時代に向けたメタバース等の利活用に関する研究会』事務局資料」総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000827944.pdf p5