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若い人・優秀な人を採用するにはハイブリッドワーク? 円滑に推進するための施策とは

2023年11月15日解説

大規模調査によって、テレワークの実施率や実施意向は若い年代ほど高く、テレワーカーの大半がテレワークの継続を望んでいることがわかっています。

また、企業を対象とした調査では、テレワークは企業にも多くのメリットをもたらしていることがわかっています。

さらに、テレワーカーの出社日は週1日から4日が全体の6割以上を占め、テレワークと出社とを組み合わせたハイブリッドワークをしている人が多いことが窺えます。

こうした状況から、多様な働き方の1つとしてハイブリッドワークに注目が集まっています。
ではハイブリッドワークを円滑に推進するためにはどうしたらいいのでしょうか。そのための有益な方法を探ります。

ハイブリッドワークのポテンシャル

まずテレワークをめぐる状況から、ハイブリッドワークのポテンシャルを探っていきます。

人材獲得・定着

総務省による調査から、若い世代ほどテレワークの実施率が高く、実施意向も強いことがわかっています。

以下の図1は、テレワークの利用状況を年代別にあらわしたものです。*1

図1 年代別テレワークの利用状況
出所)総務省「令和4年版 情報通信分野の現状と課題 第2部 第8節(2)テレワーク」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd238220.html

この図をみると、利用率は20歳代が35.1%と各年代の中でもっとも高く、一方「必要としていない」と考えている人の割合は20歳代が最も低くなっています。

また、総務省の別の調査では、テレワーカーの86.9%が継続意向を示しており、その理由として、多くの人が「時間の有効活用」「通勤の負担軽減」を挙げています。*2

さらに、テレワ―カーは非テレワーカーと比べて、「フレックスタイム制」「短時間勤務制度」などテレワーク以外の多様な働き方を利用している割合も高いことがわかっています。

こうした状況から専門家は、若者や優秀な人材の獲得・定着のためには柔軟な働き方を重視する必要があると指摘しています。*3

テレワーク導入企業のメリット

テレワークは社員にだけでなく、企業にもさまざまな効果をもたらしていることがわかっています(表1)。*4

表1 テレワーク実施の効果

出所)東京商工会議所「「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」 調査結果」p.9
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1022367

表1から、テレワークを実施している企業はテレワーク実施の効果として、「働き方改革が進んだ」「業務プロセスの見直しができた」を挙げています。

また、テレワーク導入企業は、未導入企業と比較して新型コロナウイルス感染症拡大による株価の下落幅が小さかったこともわかっています。*5

このように、テレワークの実施は企業にも多くのメリットをもたらします。

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テレワークの多くはハイブリッドワーカー

テレワーカーの出勤日数をみると、ハイブリッドワーカーが多いことがわかります。

日本生産性本部が2023年5月から6月にかけて行った調査によると、テレワーカーの週当たり出勤日数は以下のようになっています。*6

図2 直近1週間の勤め先への出勤日数
出所)公益財団法人日本生産性本部「テレワークに関する意識調査 結果概要 テレワーカー対象の調査・管理職対象の調査」(2023年8月7日)p.17
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/appendix01_tele-work_report.pdf

図2をみると、最も割合が高いのは1~2日で33.3%、次いで3~4日が27.0%で、1~4日勤務のハイブリットワーカーはテレワーカーの60.3%に上っていることがわかります。

「より良い働き方」としてのハイブリッドワーク

ところが、日本生産性本部が行った別の調査によると、2023年1月のテレワーク実施率は16.8%で、緊急事態宣言直後の2020年5月の31.5%から14.7%低下していました。*7

ただし、テレワークにも出社にもメリット・デメリットがあることから、「テレワークか出社か」の二者択一ではなく、会社と社員が共により良い働き方を考えていくべきだという指摘もあります。*3

以上のような状況から、テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドワークには大きなポテンシャルがあることがわかります。

ハイブリッドワークの課題

ハイブリッドワークはテレワークの実施を前提とし、上述のようにテレワーカーの過半数がハイブリッドワーカーであることから、ハイブリッドワークを円滑に推進するためには、テレワークを実施しやすい環境を整えることが必須となります。

では、従業員は、勤務先がテレワークを普及させるために、どのような取り組みをする必要があると考えているのでしょうか。
また、企業はどのようなことをテレワークの課題と捉えているのでしょうか。

国土交通省による大規模調査「令和4年度テレワーク人口実態調査」(以下、「実態調査)と、総務省による「令和4年版 情報通信分野の現状と課題 データ集」(以下、「データ集」)から、課題を探っていきましょう。

社員が考える必要な取り組み

まず、「実態調査」から、テレワーカーが「勤務先のテレワーク普及のために必要だと考える取り組み」のうち、割合の高かった事項をみていきましょう。*2

・意識改革
最も高い割合を占めたのは、「意識改革」のうち「幹部の意識改革」(33.7%)です。
具体的には、「会社の方針として積極的にテレワークを活用」「役員や管理職等上司が積極的にテレワークを実施」となっており、テレワークを積極的に推進するという経営陣の意識がまずは必要だと考える従業員が多いことがわかります。

2番目に多くのテレワーカーが挙げたのは「従業員の意識改革(従業員のICT知識・スキルの向上等)」でした。

・テレワークに対する支援
テレワークに対する支援のうち割合が高かったのは「自宅の通信費・光熱費への補助」「施設・備品の貸与・補助(セキュリティ対策が施されたノートPC・通信機器の貸与、事務用品の貸与、机や椅子の購入費補助、等)」です。

・制度・仕組み等の導入
制度・仕組みの導入に関して割合が高かったのは、「ペーパーレス化」「仕事の進め方・割り当て方等の工夫」「テレワーク規定と合わせて、フレックスタイム等多様で柔軟な働き方を規定」です。

・テレワーク環境の整備
テレワーク環境の整備としては、「電子決済の導入、社内LANへのリモートアクセスサーバーやWeb会議用ソフトウェアの導入、等」を挙げたテレワーカーが16.0%います。

決済に関しては、印鑑を押す、あるいはもらうためだけに出社しなければならない社員がいることが以前マスメディアに取り上げられて話題になりましたが、ペーパーレス化とも連動させて改善していく必要があるでしょう。

企業が抱える課題

次に、「データ集」から、テレワーク導入の際に企業が抱える課題についてみていきます。*8

データ集に挙げられている事項は、上でみた「勤務先のテレワーク普及のために必要な取り組み」と重なるものが多いのですが、それ以外に以下のような労務管理・マネジメント上の課題も挙げられています。

  • テレワークをする社員の労働時間の管理
  • テレワーク業務に関する就業規則の整備
  • 個々の従業員による業務の進捗管理
  • テレワークをする社員への指示・指導・評価
また、「社内コミュニケーションの不足、情報共有の困難」も上位に挙がっています。

好事例にみる取り組み

総務省が公表した「令和4年度 テレワーク先駆者百選 取り組み事例」からハイブリッドワーク推進に有益な事例をみていきましょう。*9

<働く場所の選択>
社員が効率よく仕事ができるように、会社、自宅、サテライトオフィス、シェアオフィスなど、社員の状況に合った勤務場所を選択できるように環境を整備している。
テレワークを基本としながらも、個人のライフスタイルや業務内容などに応じて勤務形態(在宅勤務、オフィス勤務等)を選択できる勤務体制へと移行し、フレックスタイムのコアタイムを撤廃した。
 
<環境・制度整備>
場所にとらわれない働き方を実現するために、ペーパーレス化やクラウドサービスなどを活用し、オフィス勤務、在宅勤務、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務のいずれでも環境依存をなくした、ボーダレス環境を整備している。
社員が最適なリモートワーク環境で仕事に取り組めるよう、机や椅子などの備品を自宅でレンタルできるサービスを提供している。
社員が負担する光熱費・通信費を補助するリモートワーク手当を新設した。
通勤定期券代に替わり、オフィス出社時の交通費を実費で支給している。
 
<コミュニケーション>
日々の朝礼や会議をオンラインとオフラインのハイブリッド体制で行っている。
社内サークル活動の支援を実施し、リアルとリモートを組み合わせたハイブリットな交流によって、部署を超えたコミュニケーションの強化を図っている。
活発なコミュニケーションを行えるように、社員集会ほか各種イベントを積極的に実施している。
社員懇親会はオンラインでメタバースなどを活用し、その際の飲食は個別に宅配される飲食サービスを利用している。
月に1、2回程度リアルで集まってワークを行う「カフェワークデー」を実施している。
週2回以上出社とし、リアルなコミュニケーションがとれるようにしている。
 
<労務管理・マネジメント>
勤怠や過重労働チェックはソフトウェアを使い、自動的にチェックしている。残業が一定時間を超えそうになるとアラートが上がる仕組みで、管理職も確認している。
1人ひとりの業績を数値化し、毎週の定例ミーティングで報告してもらうことによって時間管理を緩やかにしてもしっかり成果を管理できるようにしている。また、毎年その達成状況を確認する上司面談を実施している。
始業・就業時にはその日のタスクについて必ずチャットで報告し、勤怠はオンラインツールで打刻している。
テレワークの場合も、必ず始終業ミーティングを行い、上司は部下の残業時間と業務内容をPCログと照合して把握している。

おわりに

さまざまなポテンシャルを秘めたハイブリッドワークは、ウィズコロナ時代の新たな働き方として注目を集めています。

事例にみられるように、課題に向き合い解決をはかりつつハイブリッドワークを推進していくことができれば、従業員にも企業にも多くのメリットがもたらされるでしょう。



資料一覧


*1
出所)総務省「令和4年版 情報通信分野の現状と課題 第2部 第8節 デジタル活用の動向(2)テレワーク」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd238220.html

*2
出所)国土交通省「令和4年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」(2023年3月)p.24, p.44, p.52
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001598357.pdf

*3
出所)讀賣新聞オンライン「人間関係を築ける「出社」か?効率良く私生活も充実の「テレワーク」か?」(2023年6月16日 10:30)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230615-OYT1T50189/

*4
東京商工会議所「「テレワークの実施状況に関する緊急アンケート」 調査結果」(2020年6月17日)p.9
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1022367

*5
出所)経済産業省「事務局説明資料」p.9
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/dgs5/pdf/003_03_00.pdf

*6
出所)公益財団法人日本生産性本部「テレワークに関する意識調査 結果概要 テレワーカー対象の調査・管理職対象の調査」(2023年8月7日)p.17
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/appendix01_tele-work_report.pdf

*7
出所)公益財団法人 日本生産性本部「第12回働く人の意識に関する調査 調査結果レポート」(2023年1月27日)p.16
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/12th_workers_report.pdf

*8
出所)総務省「令和4年版 情報通信分野の現状と課題 データ集 第3章 第8節 45. テレワークの導入に当たり課題となった点(複数回答)」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nf308000.html#d0308430

*9
総務省「令和4年度テレワーク先駆者100選 取り組み事例」(2022年11月30日)p.11, p13, pp.15-18, p.20, p.31
https://www.soumu.go.jp/main_content/000849418.pdf

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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