昔ながらの「通販」と「紙媒体」は、切っても切り離せない関係として、共存を続けてきました。
しかしながら、近年の環境問題に対する意識の高まりとデジタル化の波のなか、ペーパーレスが推進されるシーンも増えています。
筆者自身、通販ブランドのマーケティング担当として、取り組みを行っていました。
その経験から、通販(とくにシニア向け)の場合、紙をゼロにするのではなく、それぞれのシチュエーションに合わせて、"工夫すること" が大切だと考えています。
通販と「紙」にまつわるジレンマ
最初に、通販と紙にまつわるジレンマについて、筆者の経験を共有させてください。
通販と「紙」の切り離せない関係
メーカーあるいは販売者として通販事業に携わるとき、大量の紙と対峙することになります。
発送用の段ボール、緩衝材、送り状、お買い上げ明細書、お礼状、ダイレクトメール、カタログ、商品の化粧箱・内箱・外箱......、という具合です。
多種多様な資材の在庫管理と、入稿・増刷・改版の業務に、日々追われている担当者の方も多いのではないでしょうか。
紙を減らせばコスト削減になるけれど...
一方、数十年前と比較すれば、インターネットの発展により、多くの部分をデジタル化できるようになりました。
紙の削減は、環境負荷に対する貢献はもちろん、企業にとってビジネス上のメリットも大きくなります。
原稿の制作費・印刷費・用紙代から倉庫保管料まで、大幅なコスト削減になるからです。
しかしながら、取り組みのなかで気付いたのは「ペーパーレスと良質な顧客体験を両立する難しさ」です。
ペーパーレスにするほど顧客満足度が低くなる
「ペーパーレスにしても、お客様の期待に応えられるのか?」を確認するために、こんなテストをしたことがあります。
通販でご購入いただいた商品を発送する際、同梱物を変えた2つのグループを作りました。
Aグループは、従来どおりの同梱物です。お買い上げ明細書、お礼状、(購入商品によっては)使い方などを記載したパンフレットが同梱されます。
Bグループは、できる限りペーパーレスでの発送です。ほぼ、"購入商品が入っているだけ" の状態で発送しました(必要情報は、QRコードやURLからWebサイトへ誘導)。
結果、顧客満足度が高かったのは、Aグループのほうです。ペーパーレスが過ぎれば、「期待したサービスが提供されていない」と受け取られることが、示唆されました。
焦点は「必要か・必要でないか」
では、同梱物をぜいたくに増やすほど、顧客満足度は高くなるのか?といえば、そうではありません。
テストでは、ある地点から、顧客満足度が低くなっていきました。
同梱物を増やし過ぎると、今度は「無駄なものは入れないでほしい」「もったいない」といった意見が増えます。
その"地点"とは、「そのお客様にとって、必要か・必要ではないか」です。これが、通販と紙媒体を考えるうえでのキーとなります。
考えてみればシンプルな話ではありますが、人は、自分にとって必要なもの、あるいはうれしいものであれば、無駄とは思いません。
必要なお客様にはしっかり届ける
企業やブランドによってさまざまな考え方があるかと思いますが、筆者が担当していたチームでは、「必要なお客様には、しっかり紙媒体を届ける」という方針に決めました。
お客様にシニア層が多かったこともあり、紙媒体が必要(デジタル化されると困る)というお客様が多く存在していました。
このとき、筆者の念頭にいつもあったイメージは、「大切な人からの年賀状」「家族からの手紙」「愛読書」です。
お客様にとって無駄になり、環境負荷となる紙の消費は避けなければなりません。
その一方で、"人肌が感じられ、温かさを届けられる絆ツール" としての紙媒体の存在は、大切にしたいと考えました。
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印刷業界や製紙業界のカーボンニュートラルの取り組みを知る
「必要な分、紙を使う」となったら、その前提で、できる限り環境負荷を少なくする工夫を考えます。
知っておくと役立つのは、印刷業界や製紙業界が取り組むカーボンニュートラル計画(※1)です。
※1 カーボンニュートラルとは:温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
*1
以下は業界団体の取り組み資料からの抜粋です。
▼ 印刷業界のカーボンニュートラル
*2
出所)日本印刷産業連合会「印刷産業における地球温暖化対策の取組」p.9
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/2022_001_06_01.pdf
▼ 製紙業界のカーボンニュートラル
*3
出所)日本製紙連合会「2022年度カーボンニュートラル行動計画フォロ-アップ調査結果」p.4
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/2022_001_04_01.pdf
取引先や仕入先を選定する際には、品質・価格・納期といった基本的な要素に加えて、
「カーボンニュートラル実現のために、どのような取り組みをしているか?」
という点も、評価基準とするとよいでしょう。
カーボンニュートラルの実現は、世界的な課題となっています。その取り組みを取引先選定の一環として考慮することは、社会的責任といえます。
環境ラベルの情報を見る
より具体的な用紙や印刷を選ぶ際には、「環境ラベル」(※2)がひとつの参考になります。
※2 環境ラベルとは:商品やサービスがどのように環境負荷低減に資するかを教えてくれるマークや目じるしのことです。製品や包装などについており、環境負荷低減に資するモノやサービスを買いたいときに、とても参考になるマークです。
*4
環境ラベルがついている製品は、環境省のWebサイト
「環境ラベル等データベース」にて、確認できます。
以下では、通販資材とも相性がよい、3つの環境ラベルを抜粋してご紹介します。
(1)FSC®認証制度(森林認証制度)
適切な森林管理が行われていることを認証する「森林管理の認証(FM認証)」と森林管理の認証を受けた森林からの木材・木材製品であることを認証する「加工・流通過程の管理の認証(CoC認証)」の2種類の認証制度です。NPOであるFSC(Forest Stewardship Council®:森林管理協議会)が運営する国際的な制度です。
*5
(2)植物油インキマーク
植物油を含有した印刷インキで、マーク使用基準を満たしたものに貼付できる。大豆油に限定せず、全ての植物油を対象。再生可能資源で、環境負荷を大幅に低減。また、該当インキで印刷した印刷物にも添付可能。
*6
(3)非木材グリーンマーク表示
地球温暖化防止に心がけ、森林資源を節約し、CO2の吸収源である非木材植物を使用した紙・紙製品、産業資材並びに非木材植物関連製品を普及・開発するために設定した。 サトウキビバガス、オイルパーム空果房、タケ(バンブー)、アシ(ヨシ)、ケナフ、コットンリンターなどの非木材を使用した製品にマークを使用することができる。
*7
さいごに
現代は、紙媒体とデジタルの移行期であり、特有の難しさを抱えていると感じます。
20〜30代の若い企業担当者は、紙媒体の使用を「無駄」とみなし、デジタルへの完全移行を急ぎがちです。
しかし、お客様の声を直接聞くと、デジタルに適応しづらい世代や環境の方々が、混乱している現実があります。
こうした背景を踏まえると、紙媒体とデジタルの適切なバランスを見極める必要性を、ひしひしと感じるところです。
デジタル化は進歩と効率化をもたらす一方で、すべての層に適合するわけではありません。デジタル技術へのアクセスが難しい方々にとって、紙媒体はまだ重要な役割を果たしています。
環境負荷を軽減しながら、紙媒体をうまく活用することで、幅広い層のニーズに応えられるのではないでしょうか。
注釈
*1
出所)環境省「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
*2
出所)日本印刷産業連合会「印刷産業における地球温暖化対策の取組」p.9
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/2022_001_06_01.pdf
*3
出所)日本製紙連合会「2022年度カーボンニュートラル行動計画フォロ-アップ調査結果」p.4
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/seishi_wg/pdf/2022_001_04_01.pdf
*4
出所)環境省「環境ラベル等データベース 環境ラベルとは」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/seido.html
*5
出所)環境省「環境ラベル等データベース FSC認証制度(森林認証制度)」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_14.html
*6
出所)環境省「環境ラベル等データベース 植物油インキマーク」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_47.html
*7
出所)環境省「環境ラベル等データベース 非木材グリーンマーク表示」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_31.html