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データセンターの消費電力はドイツ1国分に 投資家からも注目される「TCFD」の重要性

2025年08月14日データセンター

データセンターの使用電力量予測がいよいよ大きなものになり、データセンターの新設についてより厳しい基準を定めたり、新設そのものを制限したりする国が出てくるようになりました。

もとより温暖化が懸念される現代にあって、省エネは必須です。

また、需給バランスが崩れて発電量の不足が起こり得るだけでなく、異常気象によって電力の供給がストップするという事態がすでに発生しています。

データセンターの電力消費量は世界的な課題であり、関係各社が投資家から正当な評価を受ける必要があります。気候変動が企業活動を崩壊させないよう、現在は「TCFD」に関する取り組みも、企業にとっては急務となっています。

2026年にはドイツ1国分の年間電力使用量に匹敵

IEA(=国際エネルギー機関)が今年に入って公表した報告書では、AIおよび暗号通貨取引によってデータセンターで消費される電力量について3つのシナリオが示されています。



AIと暗号通貨取引によりデータセンターで消費される電力予想
(出所:「Electricity 2024 Analysis and forecast to 2026」IEA)
https://iea.blob.core.windows.net/assets/18f3ed24-4b26-4c83-a3d2-8a1be51c8cc8/Electricity2024-Analysisandforecastto2026.pdf p31

最多シナリオ(High case)では年間で1,000テラワットを超え、これはドイツで1年に消費される電力使用量に匹敵します*1。

さらに2030年には、データセンターの消費電力は3,000テラワットにのぼるというレポートもあります*2。これは、電気自動車普及の3倍に相当する電力需要が将来発生する可能性を示唆しています*3。

データセンター市場は今後も拡大 再エネ利用の模索始まる

こうした背景のもと、米巨大テックをはじめ世界のIT企業は、データセンターへの再エネ導入を進めています。

今年4月には、マイクロソフトがUAEのAI大手「G42」に15億ドルを投資しています*4。これは自社のAプラットフォームAzureを中東やアフリカに普及させる狙いもありますが、その後、G42と共同でケニアに10億ドル規模の投資を決めています*5。
これは、ケニアで地熱エネルギーのみで稼働するデータセンターを設立するというのがひとつの条件になっています。

また、メタも米国内のデータセンター向けに地熱発電の電力を購入する計画を電力会社と締結しました*6。まず150メガワット規模のプロジェクトを2027年までに稼働し、その後規模を大幅に拡大する方針です。

国内のデータセンター新設事情

データセンターの増加による電力需給の逼迫は、日本も例外ではなくなる可能性があります。

国内でもデータセンターへの投資は年々膨らみ、市場規模は右肩上がりです。


日本のデータセンターサービス市場規模
(出所:「情報通信白書令和4年版」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd236700.html

実際、2024年以降、国内でのデータセンター新設計画は全国に多数存在しています。


国内のデータセンター新設計画
(出所:「電力需要について」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2024/056/056_005.pdf p13

多くが東京圏・大阪圏に集中しています。電力網の敷設が整っているといった点が大都市圏の魅力のひとつになっていると考えられます。

一方で大都市圏は人口が多く日常的に電力需要の高い地域であり、データセンターの乱立は、災害など有事の際にはデータセンターの稼働だけでなく一般の生活にも大きな影響を与えそうです。

よって、どんな企業にでもデータセンター新設を許可していると、限界は近いかもしれません。今後は省エネ技術を持っており、説明責任を果たせる企業に絞り込まれる可能性も出てくるでしょう。
そのような中、「TCFD」が企業の環境問題への取り組みをはかる大きな基準として各市場で重要視されるようになっています。

各企業の取り組みを示す「TCFD」とは

東京証券取引所は2023年の4月から、プライム市場上場企業に対して「TCFD」の開示を求めています。

TCFDとは、G20の要請を受けて設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。気候変動関連リスクなどに対して企業がどうリスク評価をしているか、対策しているかという非財務情報の開示を国際的に推奨するものです。



TCFDの開示内容
(出所:「気候変動等に関わる金融面の取組み」金融庁)
https://www.fsa.go.jp/singi/scenario_data/siryou/20221222/04.pdf p4

こうした情報開示基準は、EUではESRSがあるほか、アメリカではSEC(米国証券取引委員会)が気候関連の開示規則を採択するなど、異なるルールで運用されています。
そのためISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が開示基準を示すなど、国際基準となる規則の運用が模索されています*7。

省エネと投資家の意識

実際、TCFDのような気候変動・環境問題を解決するための資金調達に関して、投資家は積極的な意欲を見せています。

環境問題などの解決に取り組む企業への「ESG投資」が進む中、海外ではTCFDの非開示に厳しい目を向ける投資機関もあります。

フランスの資産運用大手のアクサ・インベストメント・マネージャーズの担当者は「TCFDに沿った開示をしていない場合は株主総会で報告書や会計の承認に反対票を投じる可能性がある」と語っています。*8

また、イギリスのリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメントでは2016年から「クライメート・インパクト・プレッジ(気候影響誓約)」と呼ぶ取り組みを開始しています。

投資先企業の気候変動への取り組みを、「ガバナンス」「シナリオ分析」「指標と目標」「リスクと機会」「戦略」の5項目について100点満点で評価し、対策が十分でないと判断した企業に対しては議決権の行使などを通じて働きかけるというものです。*8

企業の持続性こそ重視される時代に

データセンターを始め世界的なエネルギー需要の高まりは、電力料金が上がる、といった単純なことでは済まず、各企業の事業がどれだけ持続性のある計画を立てているかが試される局面に入ってきました。

気候変動のリスクを正しく分析し、早期から省エネや再エネ利用に取り組んでいる企業は、エネルギーをめぐる事情が変化しても事業を続けられることでしょう。そして持続性のある企業に投資が集まるのもうなずけることです。

長期的なビジョンなしに、世界の変化を乗り越えていくのは難しいことでしょう。


*1
「Electricity 2024 Analysis and forecast to 2026」IEA
https://iea.blob.core.windows.net/assets/18f3ed24-4b26-4c83-a3d2-8a1be51c8cc8/Electricity2024-Analysisandforecastto2026.pdf p31

*2
「情報化社会の進展がエネルギー消費に与える影響(Vol.2)-データセンター消費エネルギーの現状と将来予測および技術的課題-」国立研究開発法人科学技術振興機構
低炭素社会戦略センター
https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2020-pp-03.pdf p12

*3
「AIのエネルギー消費に関する雑感(その1)」国際環境経済研究所
https://ieei.or.jp/2022/07/expl220701/

*4
「マイクロソフト、UAEのAI企業G42に15億ドル投資へ-取締役派遣」ブルームバーグ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-16/SC0MLXT0G1KW00

*5
「Microsoft and G42 announce $1 billion comprehensive digital ecosystem initiative for Kenya」マイクロソフト
https://news.microsoft.com/2024/05/22/microsoft-and-g42-announce-1-billion-comprehensive-digital-ecosystem-initiative-for-kenya/

*6
「メタ、米国内データセンター向けに地熱発電利用契約」ロイター通信
https://jp.reuters.com/markets/commodities/YMPLGQXZJ5KTXPQLPAT2TFXLGI-2024-08-26/

*7
「サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内でのサステナビリティ開示基準の公開草案を公表―基準の内容、そして日本企業がすべきこととは―」PwC
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/sustainability-disclosure-standards/vol01.html

*8
「投資家がTCFD非開示に「ノー」脱炭素戦略で企業を選別」日経ESG
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00009/061700021/
https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00009/061700021/?P=2

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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