SDGs(持続可能な開発目標)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が2015年に国連サミットで採択されて以来、企業にもSDGsの達成に向けた努力が求められてきました。
それはなぜでしょうか。また、企業は実際にどのような取り組みをしたらいいのでしょうか。
環境省はすべての企業が持続的に発展するためのSDGs活用ガイドを公表しています。
当ガイドに沿って、SDGsを見すえた企業の取り組みについて考えます。
SDGsとは
SDGsとは、2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標です。*1
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す目標で、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。
下の図1のような17のゴール(目標)の下に、169のターゲットと231の指標が決められています。*2
図1 SDGsの17の目標と特徴
出所)外務省「持続可能な開発目標(SDGs)」(2024年3月)p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf
図1の右側に載っている特徴のうち、「参画型」は「全てのステークホルダーが役割を担う」ことを指しており、企業もそのステークホルダーに含まれています。
環境省によるガイドブック
環境省は、2020年に「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版)(以下、「活用ガイド」)を作成、公表しました。*3
その内容をみていきましょう。
企業が置かれている状況
1990年代以降、地球温暖化などの環境問題への取り組みが企業に求められるようになりました。*4
そうした状況を背景に、2000年代には「企業の社会的責任(CSR)」という⽤語が社会に浸透しました。
そして、2010年代になると、企業経営を経済性・社会性・環境性の3つの視点から考えることが企業の持続可能性に必要であるとの認識が形成されました。
投資の意思決定においても、それらを重視する「ESG投資」が拡がりつつあります。
ESGとは、環境、社会、ガバナンスを考慮した経営・事業活動を指します。*5
さらに、SDGsと気候変動枠組条約「パリ協定」が採択・策定された2015年以降は、持続可能な社会に向けた企業の役割はますます⼤きくなりました。*4
投資の条件として、収益だけではなく、ESG投資の一環として、SDGsに取り組んでいるかどうかもみられる時代になってきています。*6
現在は世界中の各国政府をはじめ、NGO、NPO、研究機関、⼤学などとともに、企業もSDGsの達成に向けて動き始めており、それがビジネスのあり⽅にも⼤きな影響を与えています。
こうした状況の下、社会課題解決の新しいプレーヤーとして企業が注⽬されているのです。
SDGsがもたらす可能性
SDGsは企業活動にどのような変化をもたらしているのでしょうか。
SDGsが示したポテンシャル
SDGsは潜在的なマーケットを顕在化させました。*6
SDGsは2030年の未来像を⽰すものですが、その未来像と現在のギャップを埋めるためにはイノベーションが必要です。
SDGsが掲げる169のターゲットは、今後、変化が起きる領域であり、ビジネスにおいても新たな需要があると捉えることができます。
SDGsによって、今後、何が必要なのかが可視化されたため、世界には巨⼤な潜在的マーケットがあることが⽰されたのです。
SDGsによってもたらされる市場機会の価値は年間12兆ドル、2030年までに世界で創出される雇用は約3億8,000万人と推計されています。
SDGsによって拡大する可能性
企業が⾏う多くの事業活動は、環境に何らかの影響を与えています。
そのため、事業者が環境の持続可能性を意識した取り組みを実践することは、企業を持続可能なものとする上で不可欠です。*4
ちなみに、アイネットグループ(株式会社アイネットと子会社および関連会社)は、地球環境問題への真摯な取り組みの一環として、バリューチェーン全体における温室効果ガス排出量ゼロの達成目標年度を2050年度から2040年度に前倒しで実現することを宣言しています。*7
また、同社グループによる温室効果ガスの排出量を2030年度までに2022年度対比で33.6%以上削減するという目標を設定していましたが、50%以上削減することに上方修正しました。
社会が抱える課題が包括的に網羅されているSDGsは、企業にとってリスクとチャンスに気付くためのツールとして⽤いることができます。
さらに事業活動の内容とSDGsの各項⽬とを紐づけすれば、事業活動の中にSDGsに対する潜在的なプラス要素が含まれていることが把握でき、今までみえなかった企業価値が明らかになる可能性もあります(図2)。
図2 SDGsの取り組みによって明らかになる企業にとってのリスクとチャンス
出所)環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版」p.10
https://www.env.go.jp/content/900498955.pdf
取り組み手順
では企業は、SDGs達成に向けて、どのように取り組んだらいいのでしょうか。
「活用ガイド」に沿ってみていきましょう。*4
リスクとチャンスの具体化を目指すPDCAサイクル
「活用ガイド」は、PDCAサイクルによる活動手順を示しています(図3)
図3 PDCAサイクルによるSDGsの取り組み⼿順
出所)環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版」p.17
https://www.env.go.jp/content/900498955.pdf
それぞれの手順ごとに、先駆的な取り組み事例をみていきましょう。
手順1:話し合いと考え方の共有
「活用ガイド」には3つの取り組み事例が挙げられていますが、以下のように、企業によってさまざまな方向性がみられます。
- 社⻑によるトップダウンで始まり、社⻑に選任された担当者がリーダーとなって進めた。部⾨⻑が集まる経営会議や商品開発会議などで各部⻑に伝え、社員へは部⾨ごとの部会で伝えた。
- 副代表からの情報共有によってメンバー全員でSDGsについて勉強し、全員で考えながら取り組んだ。SDGsを理解するために動画を視聴し、LINEやクラウドストレージを活⽤し、いつでも情報の確認やアイデアの共有ができるように工夫した。
- 環境活動の責任者である社員が取り組みを提案し、社⻑の理解を得て、パート社員を含めた全社員を巻き込みながら取り組んだ。環境活動の⼀環として継続的に⾏ってきたクイズ形式の社内テストでSDGs問題を出題するなど、⽇頃からSDGsに触れる機会を設けて浸透させていった。
⼿順2: ⾃社の活動内容の棚卸を⾏い、SDGsと紐付けて説明できるか考える
ケーススタディとして、「来ハトメ⼯業株式会社」の取り組みが取り上げられています。
同社では、既に設定されていた環境活動計画の内容について、担当者がSDGsのゴール・ターゲットを読みながら紐付けを⾏いました。
また、紐付けられたゴールを集計して、ゴール毎にどれくらいの数の活動が関連しているのかを視覚的に分かりやすく整理しました(図4)。
図4 環境活動計画と紐付けされたゴールの集計結果(取り組み初年度)
出所)環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版」p.20
https://www.env.go.jp/content/900498955.pdf
この整理によって、特に多く関連する分野と、1つも活動内容が該当しないゴールがあることが把握できました。
⼿順3: 何に取り組むか検討し、取り組みの⽬的、内容、ゴール、担当部署を決める
「活用ガイド」では、以下の表1のような例が示されています。
表1 SDGsの使い⽅と取り組みの動機・⽬的(例)
出所)環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版」p.22
https://www.env.go.jp/content/900498955.pdf
表1のうち、一番上の「コスト削減」の例として、事業活動に必要となるエネルギーの使い方を見直すことが挙げられます。
たとえば、年商1億円、年間の光熱費が売上の3%の企業の場合、年間光熱費を10%削減すると、売上を1,500万円伸ばしたのと同じ効果が得られます。
こうして削減された分を製品やサービスの改善に投資すれば、新たな付加価値の創出につなげられる可能性があります。
⼿順4:取り組みを実施し、その結果を評価する
「活用ガイド」は、住友化学グループの取り組みを挙げています。
同グループは、2016年から、温暖化対策や環境負荷低減を含む9つの要件から⾃社の製品や技術を「Sumika Sustainable Solutions」(以下、「SSS」)として認定し、積極的に情報開示しています。
2022年度時点で認定製品・技術数は71、売上収益は約6,828億円に上りますが、2030年度までにSSS認定製品の売上収益を1兆2,000億円とすることを目指しています(図5)。*8
図5 SSS認定製品の売上収益
出所)住友化学「サステナビリティ データブック 2023」p.31
https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/information/library/files/docs/sustainability_data_book_2023.pdf
⼿順5: ⼀連の取り組みを整理し、外部への発信にも取り組んでみる
この手順の外部への発信について、「活用ガイド」は以下のような例を挙げています。*4
- ⾃社の他の事業所や他社に、取り組みスキームを紹介する
- 新製品発売の際に、SDGsとのつながりもアピールする
- イベントなどでの展⽰にSDGsの取り組みを加える
- 営業⽤のパンフレットにSDGsに関する活動レポートを掲載する
- ISOなどの既存の活動にSDGsの観点を追加する
おわりに
「活用ガイド」の資料編には、ガイドライン・ツール集や各種支援制度、企業の取り組みとSDGsの紐付け、取り組み事例の紹介など、有益な資料が記載されています。*9
SDGs活用ガイド資料編
こうした「活用ガイド」に目を通せば、SDGsを見すえた事業活動がもたらす新たなポテンシャルがみえてくるのではないでしょうか。
資料一覧
*1
出所)外務省「持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取組 パンフレット」p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf
*2
出所)外務省「持続可能な開発目標(SDGs)」(2024年3月)p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_mokuhyou.pdf
*3
出所)環境省「総合環境政策>持続可能な開発目標(SDGs)の推進>持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」
https://www.env.go.jp/policy/sdgs/index.html
*4
出所)環境省「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド 第2版」p.1, p.10, p.17, p.20, p.22, p.26, p.27
https://www.env.go.jp/content/900498955.pdf
*5
出所)内閣府「令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況調査報告書>2.2.1 ESGとは何か」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/r02kokusai/h2_02_01.html
*6
出所)環境省「すべての企業が持続的に発展するために -持続可能な開発目標(SDGsエスディージーズ)活用ガイド- [第2版]概要版」p.1, p.2
https://www.env.go.jp/content/900498954.pdf
*7
株式会社アイネット「環境宣言」
https://www.inet.co.jp/sustainability/declaration/
*8
住友化学「サステナビリティ データブック 2023」p.31
https://www.sumitomo-chem.co.jp/sustainability/information/library/files/docs/sustainability_data_book_2023.pdf
*9
環境庁「すべての企業が持続的に発展するために -持続可能な開発目標(SDGsエスディージーズ)活用ガイド- 資料編[第2版]」(2020年3月)
https://www.env.go.jp/content/900498956.pdf