副業・兼業を希望する人は年々増加傾向にあります。
厚生労働省も原則、副業・兼業を認める方向が適当であるとして、副業・兼業を推奨しています。
ただし、企業が副業・兼業を導入する際には、留意すべきことがあります。
本稿では厚生労働省によるガイドラインを基に、企業が副業・兼業を導入する際のポイントを示し、同省のヒヤリング結果から、推進企業の運用状況を明らかにします。
従業員の副業・兼業は原則、禁止できない
厚生労働省は、従業員の希望に応じて、原則、副業・兼業を認め、それを就業規則にも記しておくことが適当であるという見解を示しています。*1
それはなぜでしょうか。
副業・兼業に関する裁判例
副業・兼業を原則認めるという厚生労働省の見解は、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である」という裁判例を根拠としています。*1
従業員が副業・兼業に関する相談や自己申告を行った場合、会社は従業員にとって不利益な扱いをすることはできません。*2
副業や兼業にはさまざまな形態がありますが、ここでいう「副業・兼業」には、他の会社に雇用される場合や従業員が事業主となるもの、請負・委託・準委任契約によって行うものが含まれます。
なお、労働契約であるか否かは実態に基づいて判断されます。
労働基準法(以後、「労基法」)の労働時間規制や労働安全衛生法の安全衛生規制を逸脱するような形態は認められません。また、合理的な理由なく労働者の不利益になるように労働条件を変更した副業・兼業も禁止されています。
違法な偽装請負や、請負であるかのようにみせかけて、実態は労働契約だとみなされる場合は、就労の実態に応じて、労基法の適用を受けます。
モデル就業規則
厚生労働省は2018年にモデル就業規則を改訂しました。 *1
それ以降のモデル就業規則には、副業・兼業について、以下のように記されています。 *2
表1 モデル就業規則 令和5年7月版
出所)厚生労働省「モデル就業規則 令和5年7月版」p.90
https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
上の就業規則の①~④は、判例で示された、例外的に労働者の副業・兼業を禁止または制限することができる要件です。*1
就業規則ができたら、従業員からの届出に基づいて副業・兼業の有無や内容を確認する仕組みを設けておくことが望ましいとされています。*3
上のモデル就業規則の第2項では、労働者からの事前の届出により労働者の副業・兼業を把握することを規定しています。
副業・兼業導入の際の留意点
厚生労働省は、副業・兼業をする際の留意点をまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」、およびそのガイドラインの「わかりやすい解説」を公表しています。
その「解説」から、企業が副業・兼業を導入する際のポイントをみていきましょう。
就業規則の整備と公表
上述のように、副業・兼業を認める方向で就業規則を見直すことが導入の第一歩です。*3
労基法は、労働者を1人でも雇用する事業場に適用されますが、常時10人以上の労働者を雇用する事業場は、就業規則を作成または変更するとき、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法第89条)。*2
なお、就業規則は、企業単位ではなく事業場単位で作成しなければなりません。
企業は副業・兼業を許容しているかどうか、条件付き許容の場合はその条件について、自社のウェブサイト、採用パンフレット、会社案内などで公表することが推奨されています。*3
内容の確認
企業は、副業・兼業が従業員の安全や健康に支障をもたらさないか、禁止または制限しているものに該当しないかなどの観点から、次のような事項を確認することが望ましいとされています。*3
表2 副業・兼業に関する確認事項
出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」p.10
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
(※1)に関しては、従業員が行う副業・兼業の形態によっては、企業は従業員の副業・兼業先の労働時間も通算して管理する必要が生じるため、副業・兼業の内容を事前に労使双方でしっかり確認することが大切です。
副業・兼業の内容を確認して問題がない場合は、副業・兼業の開始前に「副業・兼業に関する合意書」(以下、「合意書」)を作成し、労使で合意をしておけば、安心です。以下は厚生労働省が公表している様式例です。
厚生労働省「副業兼業に関する合意書」様式例
原則的な労働時間管理の方法
副業・兼業における労働時間管理の方法には、原則的なものと、管理モデルによるものとがあります。
まず、原則的なものをみていきます。
「合意書」で副業・兼業の内容を把握したら、それに基づいて、自社と副業・兼業先の所定労働時間を通算し、時間外労働となる部分があるかどうかを確認します(図1)。*3
図1 所定労働時間の通算例
出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」p.15
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
所定労働時間を通算した結果、自社の労働時間制度での法定労働時間を超える部分があれば、その超えた部分が時間外労働となります。
その場合、時間的に後から労働契約を締結した企業(副業・兼業先の企業)が自社の36協定にしたがって、その時間外労働を行わせることになります。
管理モデルの導入
次に、管理モデルについてみていきましょう。*3
副業・兼業の日数が多い、あるいは自社と副業・兼業先双方で所定外労働(残業)がある場合は、労働時間の申告や労働時間の通算管理に関する負荷が重くなることが予想されます。
管理モデルの導入は、そのような場合に、労使双方の負担を軽くするとともに、労基法に定める最低労働条件を遵守しやすくする方法です。
まず、副業・兼業の開始前に、時間的に先に労働契約を締結していた企業の事業場における法定外労働時間と、副業・兼業する企業における労働時間(所定労働時間と所定外労働時間)を合計します。
そして、時間外労働の上限である、単月100時間未満、複数月平均80時間以内の範囲内で、各々の企業の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定します(図2)。
図2 管理モデルのイメージ
出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」p.16
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
このモデルが導入されるのは、副業・兼業を行う従業員に管理モデルにしたがって副業・兼業することを求め、従業員や従業員の副業・兼業先がそれに応じた場合です。
厚生労働省「管理モデル導入(通知)」様式例 p.19
運用状況
厚生労働省は2022年、副業・兼業に取り組む企業11社に対してヒアリングを行い、その結果を公表しています。*4
その資料から、企業の運用状況をみていきましょう。
導入の背景
副業・兼業の解禁の背景は、企業によってさまざまです。
「多様な働き方を認める」という趣旨のものが多くみられましたが、「社員のニーズ」「トップダウン」「ボトムアップ」といったものもあり、「副業・兼業の解禁は多様な人材から選ばれる企業になる上でも重要だ」と考える企業もありました。
制度・労働時間管理
ヒアリングを実施した全ての企業で、本業に支障のある副業・兼業、競業や利益相反に当たる副業・兼業を原則禁止と定めています。
また、副業・兼業の実施にあたっては申請書または誓約書の提出を求め、人事部などで審査、承認を行っています。
雇用による副業・兼業を認めている企業では、原則的な管理(自己申告に基づき労働時間を通算管理)をしている企業もみられましたが、管理モデルを導入している企業も4社ありました。
健康管理
健康管理として、非雇用による副業・兼業の場合でも、副業・兼業の実施実績を定期的に自己申告するよう求めている企業も5社ありました。
また、本業での労働時間と副業・兼業の時間を通算して、その時間数を基準に、医師の面接指導を実施している企業もみられました。
おわりに
副業・兼業は、企業、従業員双方にさまざまなメリットをもたらすといわれています。*1
従業員にとっては所得の増加、スキルや能力の向上、キャリア形成などが期待できます。
一方、企業にとっても従業員の自律性・自主性の促進、優秀な人材の獲得・流出防止、従業員が社外から得た知識・情報や人脈の活用など、さまざまなメリットがあります。
ただし、これまでみてきたように、導入する際には留意すべきポイントがあります。
それらを考慮しつつ副業・兼業を導入・推進するのは、従業員にとっても企業にとっても有益な取り組みではないでしょうか。
資料一覧
*1
出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(2022年7月改定)p.3, p.8, pp.3-4
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
*2
出所)厚生労働省「モデル就業規則 令和5年7月版」p.90, p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/001018385.pdf
*3
出所)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン わかりやすい解説」p.5, pp.10-11, p.15, p.16, p.19
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
*4
出所)厚生労働省「副業・兼業に取り組む企業の事例について」p.1, p.3, p.4, p.5
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001079974.pdf