フリーワード検索

アイネットブログ

産業用ロボットの新たな潮流「RaaS」は何をどう実現するのか

2022年12月22日DX

製造業社が迅速に競争力のある価格で商品を提供するためには、効率的な生産手段が必要です。そのため、ロボットは現在、製造業に不可欠な要素となっています。

日本は世界有数のロボット生産国であり、従業員数に対する稼働産業ロボット台数も世界の上位を占めています。
しかし一方で、中小企業ではロボットの導入・活用を阻む障壁が高いことが問題になっています。

そうした状況を打開するために、産業ロボットのサブスクリプション、さらに導入後の一連のサービスまで提供する「RaaS(ロボティクス・アズ・ア・サービス)」に注目が集まっています。

産業ロボットの新たな潮流、「RaaS」とはどのようなものなのでしょうか。

「ロボット大国」日本

日本は世界で最もロボット製造が盛んな国で、世界のロボットの47%が日本製です。*1
国内で稼働している産業ロボットの分野別割合は、電気および電子産業が34%、自動車産業が32%、金属および機械産業が13%を占めています。

「従業員数に対して稼働している産業用ロボットの台数」をロボット密度といいますが、ロボット密度も世界第3位です(図1)。

図1 世界各国のロボット密度
(引用)IFR(International Federation of Robotics)(2021)「ロボットレース:自動化が進む世界の上位10か国-国際ロボット 連盟による報告書」p.2
https://ifr.org/downloads/press2018/2021-01-27_IFR_press_releease_Robot_density-Japanese.pdf

ロボット導入のメリット

中小製造業者が抱える悩みのうち、「人手不足」「生産量・品質が安定しない」「過酷・危険な労働」といった問題を解決する手段の1つが、産業用ロボットの活用です。*2, *3

下の図2は、実際にロボットを導入した中小製造業の導入理由を表しています。*2

図2 中小製造業のロボット導入の理由
(引用)経済産業省近畿経済産業局「中小製造業のための ロボット導入促進ガイドブック」p.4
https://www.kansai.meti.go.jp/3jisedai/29_guidebook/guidebook.pdf

産業用ロボットには、高い再現性や高速性があります。また、人間と違って、24時間365日稼働しても疲れず、集中力不足によるミスも起こりません。*3
そのため、ロボットは、作業者の満足度を低下させる単調な作業の繰り返しによく使われます。さらに、ロボットは汎用性が高く、組立作業から品質検査、搬送・物流に至るまで、幅広い産業用途に活用することができます。

このような特徴をもつ産業用ロボットを導入・活用することは、製造業の中小企業にとってさまざまなメリットをもたらします。

ロボットの導入・活用を阻む障壁

一方で、ロボットの活用を阻む障壁が存在します。それは主に、コストの高さと専門知識の不足だといわれています。*3

ロボットを導入するためには、高い初期投資の他に、手作業による設置・設定作業が必要ですが、それは通常、専門家が行います。多くの中小企業は、社内にロボット工学の専門家がいないため、外部の専門家に頼むか雇用するかして、ニーズを満たすロボットをセットアップしなければなりません。

また、そのようなロボットシステムの構築には、最大で数ヶ月かかることもあり、長い立ち上げ時間のために、さらなるコストが必要になります。

さらに、ロボットシステムに必要なメンテナンスとサービスも無視できません。ハードウェアが故障した場合、交換し、システムを再調整する必要がありますが、そのためには熟練した技術者が必要です。

このように、中小企業がロボットを活用しようと思っても、それを阻む大きな障壁があるのです。

産業ロボットのサブスクリプションとRaaS

米国では産業用ロボットをサブスクリプション方式や従量制で「借りる」動きが、特に中小企業の間で加速しています。*4-1
その動向をみていきましょう。

産業用ロボットのサブスクリプション

産業用ロボットを、使った分だけ使用料を払う従量制で活用している事例をみてみましょう。*4-1

シカゴ南部の企業Polar Manufacturingは、2021年に初めて「ロボット従業員」を導入しました。
「従業員」として導入されたロボットアームは、人間と同じように、働いた時間数に応じて賃金が支払われる仕組みです。
このロボットのコストは時給8ドル(約910円)相当だといいます。ちなみに人間の従業員の最低賃金は時給15ドル(約1,700円)です。

ロボットを配備することで人間の作業員は別の作業ができるため、全体の生産量を増やすことができます。
中小企業は新しいテクノロジーに投資できないことで苦境に陥ることがありますが、こうしたレンタルなら、手軽に活用することができます。

さらにその先のRaaS

RaaSは、ロボット本体だけでなく、運用に必要な制御システムや遠隔監視プログラム、メンテナンスやソフトウェアのアップデートといった機能を、インターネット上のサーバーからサービスとして利用するモデルです。*5

そのため、従来のロボット導入と比較して、初期費用を大きく抑えることが可能です。RaaSは、月額定額課金のサブスクリプションモデルや、従量制の課金モデルなどで提供されるため、作業量に応じてロボットを追加することも容易です。

RaaSなら常に最新モデルが低価格で利用できることも魅力です。ロボットを制御するソフトウェアや、クラウドサービスの機能がアップグレードされれば、すぐに利用することができますが、アップデートはサービスを提供するベンダーによって行われるため、運用負担もありません。

一方、ベンダーにとってもメリットがあります。ロボットの稼働状況に関するデータを入手でき、そのようなデータを分析することによって、ロボット本体やサービスの改善につなげることができるからです。

国内の事例

サブスクリプションや従量課金制に加えて、「成果報酬型」のモデルでRaaSを提供する企業も登場しています。*5

日本のinaho社は、世界で最も早くRaaSによる農業用収穫ロボットのレンタル・サービス事業を行ってきました。*6
同社のサービス利用料は、市場価格を参考に「収穫高x一定の割合」です。ロボットの台数や稼働時間ではなく、収穫量に応じた価格体系のため、ロボットを導入しても、農家の経営を圧迫することがありません。*5
このように最新型のロボットを合理的な料金で利用できるRaaSサービスは、日本でも既に提供されているのです。

RaaSが新たな潮流に

これまでみてきたように、RaaSの利用料金は予想可能で無理なく支払えるため、利用者にとっては大きなメリットのあるサービスです。*3

中小企業がロボットを導入する際に障壁となりがちな多額の初期投資も、ロボットのプログラム、メンテナンス、ハードウェア、安全性などに関する専門知識も必要ありません。
必要なときには台数を増やし、必要なくなったらレンタルを止めることもできるため、柔軟な利用が可能です。

現在のロボットを取り巻くこうした状況を、パーソナルコンピューターが増え始める前のコンピューター界の状況に喩える人もいます。プログラミングやメンテナンスに膨大な専門知識を必要とする巨大なコンピューターシステムに投資できたのは、当初は資本力のある企業だけでした。*4-2
その後、コンピューターが安価で使いやすいものになったことで、パーソナルコンピューターの幅広い利用が可能になりました。
ロボットに関しても、それと同じような時代に入りつつあるというのです。

ロボットの性能が向上し、安価に利用でき、コストも安くなったことで、米国では最近、さまざまな作業を請け負うロボットが増えています。

サブスクリプション方式のソフトウェアを通じて利用された産業用ロボットの数は2016年は4,442台でしたが、2026年には130万台に増加し、RaaSベンダーの売上は、2016年の2億1,700万ドルから、2026年には340億ドルにまで急増するという予想もあります。*5

RaaSはロボット活用の新たな潮流となりつつあるのです。



資料一覧


*1
(引用・参考)IFR(International Federation of Robotics)「ロボットレース:自動化が進む世界の上位10か国-国際ロボット 連盟による報告書」p.1
https://ifr.org/downloads/press2018/2021-01-27_IFR_press_releease_Robot_density-Japanese.pdf

*2
(引用・参考)経済産業省近畿経済産業局「中小製造業のための ロボット導入促進ガイドブック」p.4
https://www.kansai.meti.go.jp/3jisedai/29_guidebook/guidebook.pdf

*3
(参考)Achim Buerkle, William Eaton, Ali Al-Yacoub, Melanie Zimmer, Peter Kinnell, Michael Henshaw, Matthew Coombes, Wen-Hua Chen, Niels Lohse(2022) "Towards industrial robots as a service (IRaaS): Flexibility, usability, safety and business models"(ScienceDirect)View PDF p.1, p.2, p.3
https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S0736584522001661?token=374CB654C0542DAAEB1BDAD5889FE92F305942944435ACD42B1345C45C4772D37695FA44373A69952F519494BF5A75B0&originRegion=us-east-1&originCreation=20221128012304

*4-1
(参考)THE SANKEI NEWS「産業用ロボットにも「サブスク」の波がやってくる」(2022年2月13日)p.1
https://www.sankei.com/article/20220213-RUZNQYC2G5IYXDOVJNHDNZARIM/
*4-2
(参考)同 p.2
https://www.sankei.com/article/20220213-RUZNQYC2G5IYXDOVJNHDNZARIM/2/

*5
(参考)製造DXチャンネル「ロボットもサブスクで利用する時代がやってくる―RaaSのインパクトとは」(2022年7月15日)
https://www.va-intl.co.jp/man/2022/07/15/%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%82%E3%82%B5%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%A7%E5%88%A9%E7%94%A8%E3%81%99%E3%82%8B%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%8C%E3%82%84%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%82%8B/

*6
(参考)inaho「ハードウェア・機械のサブスク化、RaaS化サポートサービス」
https://inaho.co/solution

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

TOP