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「10万ドルで移住」計画も? 世界で火星ビジネスが加速する理由とは

2024年05月21日解説

生命は存在するのか、存在していたのか?水や大気はどうなっているのか?

現在、世界の研究機関や企業が注目しているのが「火星探査」です。アメリカやロシアだけでなく、中国、UAE、ドイツ、フランス、そして日本も含めてさまざまなアプローチが進んでいます。

じつは火星については、環境や資源の調査だけでなく、人類が移住する先としての興味も高まっています。

世界の火星探査はどこまで進んでいるのか、どのようなビジネスが展開されているのかご紹介していきます。

火星に米中の探査機が着陸

火星までものを飛ばす宇宙探査の歴史は、1960年代にさかのぼります。

アメリカがマリナー4号を火星の近傍に到達させたのが1964年のことです。その後1971年にマリナー9号が火星の周回軌道に乗り、多くの画像を撮影したほか、大気の分析に成功しました*1。

当時は火星には生命体が存在すると期待されていましたが、その後1976年にアメリカのバイキング1号、2号が火星に着陸して生命体についての期待が薄れると、その後20年ほど火星へ探査機を飛ばす試みはなされなかったといいます*2。

しかしいま、火星にはかつて水が存在していたのではないか、生命体は存在していたのではないかということをさまざまな研究結果が示すようになり、再び火星探査が盛り上がりを見せています。

NASAは初の火星サンプルを採取

NASAは2012年に探査機「キュリオシティ」を火星に着陸させることに成功し、その後2017年に、キュリオシティが撮影した古代のオアシスと見られる写真を公表しました*3。

出所:NASA「Possible Mud Cracks Preserved in Martian Rock」
火星探査機「Curiosity」が撮影した古代オアシスの痕跡(NASA/JPL-Caltech/MSSS)
https://www.jpl.nasa.gov/images/pia21261-possible-mud-cracks-preserved-in-martian-rock

水路のような亀裂は、30億年以上前の泥層の乾燥によって形成された可能性があり、湿潤期から乾燥期へ移行したものと考えられています。

また、その後着陸した探査車「パーシヴィアランス」は2021年9月に火星ではじめて岩石のサンプルを採取しました*4。


出所:NASA「NASA's Perseverance Rover Successfully Cores Its First Rock」
「Perseverance」が穴を開けた岩石(NASA/JPL-Caltech)
https://mars.nasa.gov/news/9027/nasas-perseverance-rover-successfully-cores-its-first-rock/

火星のサンプルは、2033年に地球に届く予定です*5。

中国の探査機も水の存在を示唆

また、中国初の火星探査機「Zhurong」は2021年5月に火星に着陸、レーダーによる地下物質の調査を行っています。


中国の火星探査機「Zhurong」
(出所:「Chinese Scientists Find Mars Ground Possibly Shaped by Water」中国科学院)
https://english.cas.cn/newsroom/cas_media/202209/t20220928_320845.shtml

2022年9月には水の活動の痕跡や地下に氷が存在する可能性があることを発表し、論文は科学誌ネイチャーに掲載されました*6。

インド、UAE、ドイツ、フランス、日本も

また、インドも2014年に火星探査機「マンガルヤーン(Mangalyaan)」を火星の周回軌道に投入することに成功しています。マンガルヤーンは火星の表面や大気の調査を行い、8年後の2022年にこのミッションを終了ました*7。

そしてUAEは火星探査機「Hope」を種子島宇宙センターから打ち上げ、2021年に火星の周回軌道に到達させました*8。火星全球の気候を調査することなどが目的です。


UAEの火星探査機「Hope」
(出所:「Emirates Mars Mission」UAE Space Agency)
https://www.emiratesmarsmission.ae/
※トップ画面のスライドショー内に動画があります。


日本も火星探査に参入します。

ドイツ、フランスと共同で準備が進んでいる「MMX(=Martian Moons eXploration)」計画は火星が持つ衛星のひとつである「フォボス」の表層物質を採取して地球に回収する想定です。


MMXイメージ図(©︎JAXA)
出所:「MMX探査機イメージ_2019」JAXA
https://jda.jaxa.jp/result.php?lang=j&id=841b57c403f168749bc812d15a847a96

打ち上げは2026年度を予定しており、太陽系や火星の起源に関する研究だけでなく、火星圏への往復技術、通信技術の獲得なども目的に含まれています。また、将来人間が活動できる場所があるかを探る計画でもあります。

アイネットの宇宙事業

なぜここまで熱を帯びるのか

「移住費用が10万ドルならば、誰でも行けるようになる」。

イーロン・マスク氏率いるスペースXもまた火星探査に挑むプレイヤーで、2050年までに100万人が火星に移住するという大胆な構想を掲げています*9。

マスク氏は隕石の衝突といった地球に人類が住めなくなる事態を想定していますが、これはマスク氏に限ったことではありません。

地球の歴史をさかのぼれば、約6500万年前には彗星もしくは小惑星がメキシコのユカタン半島近くに衝突し、恐竜を含む地球上の75%の生物が絶滅したと考えられているほか*10、太陽は約50億年後に膨張を始め、いずれ水星や金星、地球を飲み込むとの予測があります*11。

その時のために、火星は人類が居住できる場所なのかどうかを調査するという意味合いも、火星探査が熱を帯びている背景にあると考えられます。

実際、NASA、ASI(イタリア宇宙庁)、(CSA)カナダ宇宙庁とJAXAは火星の氷や水の分布を調査するミッション「MIM(=Mars Ice Mapper)」を推進する意向表明書に署名しています*12。水は人類が生きていく大前提でもあります。

また、UAEは2117年までに火星に人類が住める最初の都市を建設する計画を公表しています*13。

「月から火星へ」

なお現在、火星と同時に月の探査計画も世界で進められていますが、月探査は火星探査への足がかりでもあると言えます。

NASAが打ち出している「アルテミス計画」は月面探査とその後の火星有人着陸を目指したもので、NASA、ESA(欧州宇宙機関)、JAXAがそれぞれ役割分担を決めています。


アルテミス計画の概要
出所:「月周回有人拠点 Gateway利用概要説明資料」JAXA
https://humans-in-space.jaxa.jp/news/item/003547/gateway_overview.pdf p3

アルテミス計画については現在、当初の2025年12月から2026年9月に有人月面着陸が延期されたところですが*14、世界を巻き込んだプロジェクトが進行していることは事実です。

火星という場所で人類がどのような生活を強いられるかは想像できませんが、火星は人類の未来の居住地として現実的に検討されているのです。

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*1、2 「ここがすごい!「マーズ2020」火星探査計画」日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/227278/111400066/
https://business.nikkei.com/atcl/report/15/227278/111400066/?P=2

*3
「Possible Mud Cracks Preserved in Martian Rock」NASA
https://www.jpl.nasa.gov/images/pia21261-possible-mud-cracks-preserved-in-martian-rock" target="_blank

*4
「NASA's Perseverance Rover Successfully Cores Its First Rock」NASA
https://mars.nasa.gov/news/9027/nasas-perseverance-rover-successfully-cores-its-first-rock/

*5「MARS Sample Return Mission」NASA
https://mars.nasa.gov/msr/#Facts"

*6
「Layered subsurface in Utopia Basin of Mars revealed by Zhurong rover radar」nature
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05147-5

*7
「Goodbye Manglyaan:Netizens bid aideu to Mars orbiter」The Economic Times
https://economictimes.indiatimes.com/news/new-updates/goodbye-mangalyaan-netizens-bid-adieu-to-mars-orbiter/articleshow/94634809.cms

*8
「Emirates Mars Mission」UAE Space Agency
https://www.emiratesmarsmission.ae/

*9
「10万ドルで火星移住」スペースX、常識破りの開発進む」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN26BPS0W2A221C2000000/

*10
「NEO Basics」NASA
https://cneos.jpl.nasa.gov/about/life_on_earth.html

*11
「Our Sun」NASA
https://solarsystem.nasa.gov/solar-system/sun/in-depth/

*12
「NASA, International Partners Assess Mission to Map Ice on Mars, Guide Science Priorities」NASA
https://www.nasa.gov/solar-system/nasa-international-partners-assess-mission-to-map-ice-on-mars-guide-science-priorities/

*13
「Mars 2117」UAE
https://www.mbrsc.ae/service/mars_2117/

*14
「NASAのアルテミス計画、有人月面着陸を26年に延期 開発難航」ロイター
https://jp.reuters.com/world/us/3DVZ3JGTOFKFZN63EAIKJ4IOOY-2024-01-10/

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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