ChatGPTの登場によって、これまでどこか遠い存在だったAIがぐっと身近なものとなりました。
専門知識がなくても誰でも気軽に利用できるChatGPTは、凄まじいスピードでユーザーを獲得していき、現在ではすっかり市民権を得ているのではないでしょうか。
ChatGPTの台頭によって、「AIが人間の仕事を奪う」「AIによって多くの失業者が出る」など、以前から囁かれてきた生成AIの驚異が、現実味を帯びてきています。
実際に生成AIが雇用に与えるインパクトをさまざまな専門家が指摘しており、その影響はどんな職種であっても無視できるものではないかもしれません。
2022年11月のリリース以降進化を続けるChatGPT、現在はどれほどの実力を持ち合わせているのでしょうか。
2022年リリースから瞬く間に普及したChatGPT
ChatGPTは、2022年11月に人工知能を研究する民間団体であるOpenAI社によって、リリースされました。
ユーザーが質問を入力すると、質問の意図に沿った適切な答えを返してくれる会話型AIサービスで、一部のサービスは一般向けに無償で提供されています。*1
ChatGPTでは、人間が書いたり、話したりする言葉をコンピュータで処理する自然言語処理をおこなうため、プログラミングなどの専門知識がなくても、誰でも手軽に利用することができます。
ChatGPTはリリース直後から急速に普及し、公開2ヶ月でユーザーが1億人を超えました。*2
2024年9月に実施された野村総合研究所の調査によると、日本国内でのChatGPTの認知率は72.2%、利用率は20.4%で、前回の2023年6月の調査と比較しても増加しています。
性別・年代別の利用率をみてみると、男性中高年層や女性若年層の利用率が大きく伸びており、利用者の幅が広がっていることがわかります。(図1)*3

図1:ChatGPTの性年代別<利用率>の変化(関東地方満15~69歳)
(引用)NRI「日本のChatGPT利用動向(2024年9月時点)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2024/cc/1016_1
業務でChatGPTを利用する用途としては、「文章の作成」「情報収集」が多く、「文章の要約」に使用する人も増えています。
「文章の要約」での使用が増加しているのは、ChatGPTの特性上、誤った情報が出力される可能性が低いためです。
次に紹介するのは、NTTドコモモバイル社会研究所が2024年1月に実施した、職業別でのChatGPTの利用動向に関する調査です。(図2)*4

図2:職業別 ChatGPTの認知と利用
(引用)モバイル社会研究所「学生の4割超・教職員の約3割がChatGPT利用:どの世代でも男性のほうが女性よりもChatGPT利用」
https://www.moba-ken.jp/project/service/20240610.html
この調査によると、学生の約4割、教職員の約3割がChatGPTを利用しており、生成AIが教育現場でも普及していることがわかります。
このように、ChatGPTはリリースからわずかな期間で、認知度と利用率を急速に拡大し、利用者の年齢層も広がりつつあります。
司法試験や医師国家試験にも合格?ChatGPTの実力は?
ChatGPTは、2022年11月に公開されたGPT-3.5から、GPT-4、GPT-4-turbo(ターボ)とバージョンが刷新され、2024年5月には、GPT-4o(フォーオー)がリリースされました。*5 *6
バージョンによって性能や効率性が異なり、GPT-4の場合、GPT-3.5よりも精度が高く、一貫性のある回答が得られます。GPT-4-turboは、GPT-4と性能は同じですが、処理速度が向上しており、よりスピーディーな応答が可能です。*5
さらにGPT-4oでは、従来と比較して処理スピードが2倍になり、音声で話しかけても人間と同じ反応速度で自然に会話することができるようになりました。50の幅広い言語に対応し、文字、画像、音声のすべてを認識可能です。*6
ユーザーが入力したテキストだけでなく、人間の表情やグラフの読み取りなどもできるようになり、さらに人間に近づいている印象です。
試しに、現行モデルであるGPT-4oにいくつか簡単な質問をしてみました。(図3)

図3:GPT-4oのリリース時期について質問した場合の回答
まるで人間が作成したような自然な文章が瞬く間に作成され、GPT-4oの性能の高さが窺えますが、GPT-4oのリリース時期などの誤情報が含まれています。
さらに、同じ質問に対して答えが変化するというChatGPTでよくみられる現象も発生しました。

図4:ChatGPTの最新バージョンについて質問した場合の回答
ChatGPTが作成した文章にも「最新情報は公式サイトで確認することをお勧めする」という旨のエクスキューズがついているように、ChatGPTを使用する際に忘れてはいけないのが、回答が本当に正しいかどうかをユーザー側が判断しなければならないというところです。
ChatGPTなどの大規模言語モデルは、膨大な学習データから、文章がどのようにつながっていくのかを学習し、「この単語の次にはこの単語がつながるだろう」という確率をもとに文章を作成するという仕組みになっています。(図5) *7

図5:大規模言語モデルとは
(引用)産総研マガジン「自然言語処理とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230621.html
つまり、自然でもっともらしい文章は出力されますが、人間のように質問の意味を理解し、信頼できるエビデンスを参照して回答しているわけではありません。
大規模言語モデルの性質上、正しい回答や正解に近い回答が得られることはあっても、回答の正しさが常に担保されるものではないということを意識しておかなければなりません。
このような欠点はありながらも、ChatGPTは大規模言語モデルの性能向上によって、推論能力を高めています。
では一体、現行のChatGPTでは、どのくらい正しい回答が得られるようになっているのでしょうか。
OpenAI社は、GPT-4に米国の模擬司法試験を解かせたところ、受験者の上位10%前後の成績で合格するスコアが取れたことを報告しています。
GPT-3.5では、受験者の下位10%前後のスコアしか取れていなかったことと比較すると、GPT-4は、専門的な知識が必要となる分野における正確性が高まっていることがわかります。*8
さらに、金沢大学が企業と実施した共同研究では、ChatGPT-4に日本の医師国家試験を解かせるために最適化されたプロンプトを開発し、最低合格得点率を上回ることに成功しています。
プロンプトとは、人間が生成AIに入力する指示内容のことで、このプロンプトを調整することで、回答の精度を高めることができます。*9
ChatGPTが労働市場に与えるインパクト
生成AIは急速に進化しており、これまでAIの適用が難しいと考えられていた分野でも活用できるようになるかもしれません。
ChatGPTに期待される用途は非常に幅広く、今後ますます機能が強化されることで、多くの業種に影響を与えるでしょう。(図6)*10

図6:ChatGPTに期待される用途の簡易マッピング
(引用)厚生労働省「生成AIの技術動向と影響」p.10
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001125241.pdf
2023年3月にOpenAI社とペンシルバニア大学が発表した論文では、米国の80%の労働者が大規模言語モデルの影響を受けるとしています。
これまで参入のハードルが高いとされていた証券、金融、保険、ITなどの高収入な職業が大きな影響を受けると予測されています。*10
ゴールドマンサックスのレポートでは、生成AIは10年間で世界のGDPを約7%引き上げる一方で、フルタイム労働者3億人の仕事が自動化の影響を受けると報告されています。
具体的に仕事を奪われるリスクが高い職種として、事務系職種や弁護士、金融、マネジメントなどが挙げられています。*10
ホワイトカラーの多くの職種が影響を受けるとされている一方で、雇用そのものが失われる可能性は限定的であるという分析もあります。*10
過去の産業革命などでも、これまでの職業がなくなり、新しい職業に移り変わってきたように、生成AIによって創出される新しい仕事に移行していく必要があるのかもしれません。
ChatGPTがない世界にはもう戻れない
ChatGPTは、私たち人間の想像を超えるスピードで進化を続けています。
リリース当初は「回答が嘘ばかり」「会話に一貫性がない」「使い道がわからない」と敬遠された方も、大きく進化した現行モデルの性能の高さや用途の幅広さに驚かれるかもしれません。
ChatGPTは現在抱えている課題や欠点をどんどん克服し、これからも成長していくでしょう。
その成長に取り残されないためにも、ChatGPTをツールとしてどのように使いこなしていくのかを模索することが、私たち人間に求められる能力になるかもしれません。
参考文献
*1
出所)NRI「用語解説 ChatGPTとは」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/chatgpt
*2
出所)NRI「日本のChatGPT利用動向(2023年4月時点)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2023/cc/0526_1
*3
出所)NRI「日本のChatGPT利用動向(2024年9月時点)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/report/lst/2024/cc/1016_1
*4
出所)モバイル社会研究所「学生の4割超・教職員の約3割がChatGPT利用:どの世代でも男性のほうが女性よりもChatGPT利用」
https://www.moba-ken.jp/project/service/20240610.html
*5
出所)MatDaCs「ChatGPT」
https://mat-dacs.dxmt.mext.go.jp/list/97
*6
出所)日本経済新聞「ChatGPTを2倍高速に 米OpenAI、ヒトの反応速度で会話」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN13D7F0T10C24A5000000/
*7
出所)産総研マガジン「自然言語処理とは?」
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20230621.html
*8
出所)OpenAI「GPT-4」
https://openai.com/index/gpt-4-research/
*9
出所)金沢大学「最適化されたプロンプトとGPT-4によりChatGPTが日本の医師国家試験に合格可能な成績を達成!」
https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/141750/
*10
出所)厚生労働省「生成AIの技術動向と影響」p.10, p.15, p.16,.p.19
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001125241.pdf