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急拡大の生成AIは導入してもいい? 先進事例のセキュリティはどう担保されている?

2023年12月27日解説

ChatGPTの勢いは止まらず、ChatGPTだけでなく生成AIを実際の業務に取り入れる企業が相次ぐようになりました。

一方でChatGPTの利用を禁止している企業もあり、現在のところその扱いには企業によって大きな差があります。

ここでは導入の先進事例をご紹介するとともに、導入企業はセキュリティをどう担保しているのかについても解説したいと思います。

金融業界ではChatGPTを利用した顧客アドバイスも

金融業界は、処理しなければならない文書やデータが膨大にのぼるだけでなく、ChatGPTの大きな特徴である「自然な言語でのやりとり」が活躍する場所です。

社内マニュアルですら専門用語が多く、また商品の約款は特に膨大なものになりやすいため、ChatGPTの存在は大きなものになりつつあります。

日本の金融業界ではこうしたマニュアルの整理などで今年から利用を始めたり実証実験をスタートさせた事例もあります*1。一方で利用自体をまだ検討しているという企業も多いようです*2。

海外でも各社の扱いには温度差があります。情報漏洩防止の観点からChatGPTの業務での利用を禁止している企業が多いのが現状ですが*3、積極的に利用しているケースもあります。

モルガン・スタンレーがその好事例です*4。
自社が持つ投資、ビジネス一般、投資プロセスに関する資料から10万点を選んでGPT-4に組み込み、社内のファイナンシャルアドバイザーに顧客への助言の中で遭遇する重要事項に関する知識を正確かつ簡単にアクセスできるようにしています。

正確さをどう担保するのか

さて、AIといえども100%正確というわけではありません。
これに対してモルガン・スタンレーは可能な限りの手段を打っています。まずユーザーへの公開前に人間の評価者によって入念に検証され、300人のファイナンシャルアドバイザーで試験運用を実施しています。

また、システムに変更が加えられても正確性に変化がないかどうかをチェックする「黄金の質問」を400個準備しています。この400個の質問に答えられるかどうかで正確性がわかるというのです。

建設業界では画像生成AIの導入も

建設業界でも生成AIの利用が始まっています。

例えば特定のコンセプトを入力し、そこから建物の外観デザインを生成するという利用方法です5*。

それだけでなく、Adobeの生成AIには何もない場所の写真に建物を生成し、全体のイメージを掴みやすくする「オブジェクトの生成」機能が搭載されています。

Adobe Photoshop でのオブジェクト生成
(出所:「生成塗りつぶしで Photoshop の未来を体験」Adobe)
https://helpx.adobe.com/jp/photoshop/using/generative-fill.html

上の写真の場合、もともとの画像は何もない海辺ですが、そこに灯台のような建物をAIで生成し重ね合わせています。

また「生成塗りつぶし」の機能もあります。

Abobe Photoshop での「生成塗りつぶし」
(出所:「生成塗りつぶしで Photoshop の未来を体験」Adobe)
https://helpx.adobe.com/jp/photoshop/using/generative-fill.html

上の写真の場合、もとの画像はやや縦長になっています。
しかしこの写真の横幅を広げたいときには、画像には存在しなかった部分を自動生成し自然な形で補ってくれるという機能です。

こうしたイメージの生成だけでなく、将来は生成AIによって仕様書なども作成できるのではないかと期待されています*6。生産性を大きく向上させることでしょう。

導入企業のセキュリティ対策

さて、多くの企業が生成AIの導入に慎重になるのは、情報漏洩への懸念からです。

この問題に対し、国内でよく使われているChatGPTの導入形式は以下のようなものです。日清食品ホールディングスも業務でChatGPTを利用している企業のひとつで、環境はこのようになっています。

日清食品HDでのChatGPT利用環境
(出所:「日清食品グループにおける生成AI活用の現在地」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/010_02_00.pdf p8

日本マイクロソフトの「Azure(アジュール) OpenAI Service」のなかに企業専用のクラウド環境を持ち、その閉鎖的なクラウド環境の中でChatGPTなどOpenAIのサービスを利用しています。

Azureのプライベート領域内でChatGPTを利用するか、直接OpenAIにアクセスするかでは大きな違いがあります。

Azure環境下でのChatGPT利用のメリット
(出所:「ChatGPTとは? Azure OpenAI Serviceとの違いも分かりやすく解説」ソフトバンク)
https://www.softbank.jp/biz/blog/business/articles/202305/chatgpt-business-azureopenai/

大きな違いはOpenAIのサーバーとの接続方法と、学習データにあります。

特にAzureの中でChatGPTを利用する場合、入力したデータはChatGPTの再学習には利用されません。
こうした違いをどこまで安全と捉えるかどうかで導入具合に各社の温度差が出ているものと考えられます。

「DX」の意味と照らし合わせる

今後、生成AIが産業の中に当たり前に存在する時代は避けられないことでしょう。

現時点でChatGPTの業務利用をしていない日本生命保険も、「生成AIの活用は不可逆の流れ」と捉えています*7。

いまはどこまで信頼するか、どこまで業務に取り入れるかの分岐点にあるといえます。

ただ、「DX」が「デジタルトランスフォーメーション=デジタルでどれだけ新しい顧客体験を提供できるか」という意味である以上、無関心でいるわけにはいきません。
もちろん、完全にAI任せというわけではなく、人との「協業」が前提にあることは言うまでもありません。




*1
「ChatGPT がリテール金融ビジネスに及ぼす影響」大和総研
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/it/20230706_023882.pdf p9

*2、7
「ChatGPT対応に温度差、メガバンクなど大手金融7社が明かすAIへの取り組み」日経クロステック
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02423/041000002/

*3
「ChatGPT がリテール金融ビジネスに及ぼす影響」大和総研
https://www.dir.co.jp/report/research/capital-mkt/it/20230706_023882.pdf p9-10

*4
「自社独自のデータで生成AIを訓練する方法」ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9810?page=2

*5、6
「ChatGPT産業革命」日経BPムック p22、p25

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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