フリーワード検索

アイネットブログ

体育の授業でも! 教育現場のDXはここまで進んでいる

2024年01月10日解説

文部科学省は、1人1台端末を前提に、子どもたち1人ひとりの資質・能力を確実に育成し、教師と児童生徒の力を最大限に引き出すための教育ICT環境の実現を目指しています。

その一環として、スポーツ庁は「児童生徒の1人1台のICT端末を活用した体育・保健体育授業」を推進しています。

教育現場でのDXに関する先進的な取り組みとはどのようなものでしょうか。
有益なサービスとあわせてご紹介します。

体育科・保健体育科の授業とICT活用

まず、学校教育とICTの活用についてみていきましょう。

文部科学省は、1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することによって、多様な子どもたち1人ひとりの資質や能力がより確実に育成できるような教育ICT環境の実現を目指しています。*1

同省は、全国のどの地域で教育を受けても一定の水準の教育を受けられるようにするために、学校教育法などに基づき、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めています。これが「学習指導要領」です。*2

学習指導要領の「解説」では、体育科・保健体育科における情報機器の具体的な活用方法を挙げています。*3

  • 体育では、学習に必要な情報収集やデータの管理・分析、課題の発見や解決方法の選択などにICTを活用する。
  • 保健では、健康情報の収集、健康課題の発見や解決方法の選択に情報通信ネットワークを活用する。
  • 運動の実践では、補助的手段として活用するとともに、効果的なソフトやプログラムの活用を図るなど、活動そのものの低下を招かないよう留意する。
  • 情報機器の使用と健康との関わりについて取り扱うことにも配慮する。

ICT活用の実態と課題

では、体育・保健体育の授業におけるICT活用の実態はどうでしょうか。
2021年に文部科学省が全国の国公立・私立小・中・高・特別支援学校などの教員と管理職を対象に行った大規模なインターネット調査の結果をみていきましょう。*4

取り組み状況と活動分野

取り組み状況は「学校で取り組んでいる」が56.0%である一方、「(教員)個人で取り組んでいる」は43.3%、「自治体で取り組んでいる」は39.0%でした。

次に、活用したことがある領域は以下の図1のとおりで、活用領域が偏っていることが窺えます。


図1 ICTを活用したことがある領域
(引用)スポーツ庁「令和3年度スポーツ庁委託事業児童生徒の1人1台のICT端末を活用した体育・保健体育授業の事例集>第2章 体育・保健体育授業におけるICT活用の実態と課題」p.17
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220309-spt_sseisaku02-000020993_2.pdf

活用方法は、「見本動画や教師のプレゼンテーション」が88.0%と最も割合が高く、次いで「学習評価情報を効果的に収集するための授業の振り返りや課題の入力」33.4%、「児童生徒がいつでも学習可能な授業映像や課題の配信」28.0%が続いています。
このことから、活用方法にも偏りがあることがわかります。

ICT活用の有効性に対する意識と活用拡大のカギ

ICT活用が有効と捉えている回答者の割合はどの程度でしょうか。
有効だとする回答は97.8%に上り、資質や能力の育成に関する全ての項目について有益であるという肯定的回答が見られます。

一方、上述のように、教員個人でICTの活用に取り組んでいるという回答は半数以下であり、ICT活用が有益であると認識しながらも活用に踏み切れていない教員が相当数いることがわかります。

では、ICT活用はどうしたら拡大するのでしょうか。
実は、回答者の93.4%が「体育・保健体育授業で活用可能なアプリケーションソフトの開発提供が必要だ」と回答していることから、誰もが扱いやすいアプリケーションソフトの開発が、体育・保健体育授業の充実につながると指摘されています。

活用事例

次に、ICT活用の事例をみていきましょう。

動きの目標把握と思考を深める活用事例

まず、北九州市立篠崎中学校第2学年のハードル走に関連した事例です。*5

ICTの活用は以下の3段階で行いました。
(1)知識・技能の提示:オリエンテーションでハードル走の目標イメージの映像提示、実際の動きの観察では見つけづらいコツやポイントを紹介

手本は高校生の陸上部員で、ハードルを越える動き、課題に応じた練習方法、試技者の視線を捉えた映像、ドローンなどによる視点を変えた映像を準備し、授業中に生徒たちが観るだけでなく、クラウドに保存していつでも閲覧できるようにした。

(2)思考力、判断力、表現力の育成:動きの分析や練習方法の選択の際に、撮影・蓄積した各自の動きの映像を参考にし、考えたことや自己の動きの変化について気づいたことをプレゼンテーションソフトによって提出

毎時間、ペアあるいはグループで動きの撮影をし、気づいたことを伝え合うようにした。撮影の際には、音声入力も行った。また、タブレットを交換して撮影し、それぞれ自分の映像を自分のタブレットに保存した。

(3)学習評価:機会ごとの生徒の動きや考えの記録と変化の収集、教師の評価材料の収集

自分の映像から、意識した動きや課題を見つけ、プレゼンテーションソフトを活用してコメントを書き込み、教師に提出した。

こうした取り組みの成果として、以下のような成果が得られたということです。

  • さまざまな視点から撮影したイメージ映像を観ることで、体の動かし方を意識して意欲的に練習に取り組めた。
  • 撮影することによって、繰り返し観たり、以前の動きからの変化に気づけた。また、撮影時に気づいたことを音声入力したことによって、生徒たちが自分の考えを伝え合うことが容易になった。
  • 教師は資料配布や提出物の回収のための時間を短縮することができ、学習活動を効率的に行うことができた。また、生徒からの提出物は、思考・判断・表現に対する評価のための参考資料となった。

運動学習支援アプリを使った取り組み

次にご紹介するのは、スマホアプリを活用した取り組みです。

株式会社MIZUTORIは、ISTソフトウェア(株式会社アイネットグループ) と共同で開発した運動学習支援アプリ「スポテク」を使った器械運動指導に力を入れています。*6

同社は令和4年度に続き、スポーツ庁の「令和5年度 令和の日本型学校体育構築支援事業」を受託し、ICTを活用した体育授業の新たなスタンダードモデルを確立するために、以下の4つの課題に取り組んでいます。*7
  1. 「個別最適な学び」を支援するICTの活用
  2. 「協働的な学び」を支援するICTの活用
  3. ICT活用授業における運動時間の確保
  4. ICT活用による資質能力育成の支援
実施協力校は9校ですが、その取り組みの1つをご紹介します。

帝京大学小学校では、3年生の体育の授業でこのアプリを活用しています。*8
跳び箱ではモデル動画を見て、自分の動画と見比べて、どうしたらモデル動画のようになれるのか、児童が自分たちで考えながら、取り組む活動を行ってきました。

たとえば、翌日、開脚跳びをやる場合には、「開脚跳びのイメージ作り」に活用し、授業中に技の映像と自分の実際やった映像を見比べて課題を発見します。
子どもたちは自由に映像をみたり、自分たちの映像を撮り合ったりしながら、問題を発見し解決していくという学習ができているといいます(図2)。

図2 「スポテク」を使った跳び箱の様子
(引用)スポテク「導入事例 導入事例:帝京大学小学校」
https://portal.spo-tec.com/?p=we-page-menu-1-4&category=24993&key=25013&type=contents

また、子どもが書いた振り返りに対して教師がフィードバックすることが容易にできるソフトなので、器械運動だけでなく表現運動でも、映像を撮って振り返りに活用しています。

映像があるため家庭でも隙間時間でも振り返ることができますし、高学年では3分あれば自分の映像について気づいたことをタイピング入力することもできます。

これは「身体活動を通じて物事を達成する力を育てる」をベースデザインとして設計されたスマホアプリで、以下のような機能・効果があります。*9
  • 文部科学省学習指導要領で例示されている器械運動の全ての技を収録
  • 日本体操協会監修認定
  • いつでも、どこでもスマートフォンで使用可能
  • ロジカルシンキングや創造力など思考力を育むフレーム設計
  • 予備運動と発展技の紐づけによる直感的自己学習の推進
  • クイズや予備運動などを活用して自ら調べ学習を行うことで教員の負担が軽減
  • 生徒ごとの技の習得/未習得、コンディション、日誌の一元管理
  • 生徒の取り組みを動画で先生へ送り、採点・アドバイスをもらえる「技能チェック」
  • クラス内の取り組みを共有

スポテクの詳細はこちら>

おわりに

ICTの活用は、既に学校教育のスタンダードです。
上述のように、体育・保健体育授業に携わる教員の多くが、ICT活用の有効性を認識していており、誰もが扱いやすいアプリの開発が、体育・保健体育授業の充実につながると指摘されています。

革新技術は教育現場のDXを支えつつ、さらなる発展のカギともなるでしょう。



資料一覧


*1
(参考)スポーツ庁「児童生徒の1人1台のICT端末を活用した体育・保健体育授業の事例集」
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop04/list/1398875_00001.htm

*2
(参考)文部科学省「学習指導要領「生きる力」>学習指導要領とは何か?」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/idea/1304372.htm

*3
(参考)文部科学省「【保険体育編 体育編】高等学校学習指導要領(平成30年告知)解説」(2018年7月)p.226
https://www.mext.go.jp/content/1407073_07_1_2.pdf

*4
(引用・参考)スポーツ庁「令和3年度スポーツ庁委託事業児童生徒の1人1台のICT端末を活用した体育・保健体育授業の事例集>第2章 体育・保健体育授業におけるICT活用の実態と課題」pp.16-23
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220309-spt_sseisaku02-000020993_2.pdf

*5 (引用・参考)スポーツ庁「令和3年度スポーツ庁委託事業児童生徒の1人1台のICT端末を活用した体育・保健体育授業の事例集>第4章 ICT端末の実践」pp.62-65
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220309-spt_sseisaku02-000020993_4.pdf

*6
(参考)アイネット「事例紹介 株式会社MIZUTORI」
https://www.inet.co.jp/product/case/mizutori.html

*7
(引用・参考)スポテク「新着情報 スポーツ庁委託「令和5年度令和の日本型学校体育構築支援事業」実施について」
https://portal.spo-tec.com/?p=we-page-menu-1-2&category=24987&key=25016&type=newsgroup&subkey=498531

*8
(参考)スポテク「導入事例 導入事例:帝京大学小学校」
https://portal.spo-tec.com/?p=we-page-menu-1-4&category=24993&key=25013&type=contents

*9
(引用・参考)アイネット「運動学習支援アプリ「スポテク」」
https://www.inet.co.jp/product/dx/spo-tec.html

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

TOP