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IoT時代に注目されるエッジコンピューティングとは?クラウドコンピューティングと何が違う?

2022年02月09日解説

IoTの進化で様々なデバイスがインターネット接続されるようになり、サーバーと端末との通信量はどんどん増えています。
オンプレミスでのデータ管理ではハードウェアの購入・保守管理費用がかかりすぎるようになり、近年はデータやシステムをクラウドに移行する企業が増えています。

しかし、クラウドにも課題が出つつあります。
この課題を解消するために注目されているのが「エッジコンピューティング」です。どのようなものなのか、なぜ注目されるかをわかりやすく解説していきます。

クラウド利用率は年々上昇

総務省の「令和2年情報通信白書」によると、全社的あるいは一部でクラウドサービスを利用している企業の割合は年々増加しています(図1)。

図1 クラウドサービスの利用状況
(出所:「令和2年情報通信白書」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252140.html


その理由としては、以下のようなものが挙げられています(図2)。

図2 クラウドサービスを利用している理由
(出所:「令和2年情報通信白書」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252140.html

費用面だけでなく、場所や機器を選ばずに利用できるという点では、働き方の変化もまたクラウドへの移行を後押ししているようです。

データの大容量化とエッジコンピューティング

ただ、IoTの進化を背景に、様々な社内システムやサービスで用いられるデータは大容量化し、今後さらなるデジタル化を進めるにあたって課題も出てきています。

それは、データと端末の「距離」です。

クラウドサーバーに多くのデータを置き、様々な端末からアクセスできるのがクラウドサービスのメリットですが、無線区域が長くなりすぎるとデータ送受信のスピードが落ちるうえ、クラウドサーバーの負荷も大きくなってしまいます。データが増えると契約料金は高額にもなります。

そこで生まれたのが「エッジコンピューティング」の考え方です(図3)。

図3 エッジコンピューティングの概念
(出所:「第66回IPネットワーク設備委員会プレゼン資料」総務省資料)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000747869.pdf p10

まず、現在の一般的なネットワーク構成では、クラウドサーバーにあるシステムやデータに有線・無線で各端末からアクセスして様々なシステムが稼働しています。

一方でエッジコンピューティングは、各業務やサービスごとに小さなサーバーを儲け、遠いクラウドにアクセスせずともとりあえずこなせる、というタスクはクラウドの手前に置いたサーバーでひとまず処理しようという考え方です。

下のように表現することもできます(図4)。

図4 エッジコンピューティングのコンセプト
(出所:「​​IoT 時代における ICT 産業の構造分析と ICT による経済成長への多面的貢献の検証に関する調査研究報告書」総務省
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h28_01_houkoku.pdf p104

ここで得られるメリットは、大きく2つです。

①クラウドサーバーへの負担軽減(通信量の削減)
②データ処理の速度向上、低遅延

データ処理の速度については、次のような実証実験が行われています。

「コネクティッドカー」での各種実験

ICT端末としての機能を持つ「コネクティッドカー」が世界で市場を拡大させつつあります(図5)。通信機能を利用して車両の状態や道路状況などの様々なデータをセンサーで取得し、ネットワークを介して集積・分析することで様々なサービスを受けることができる車です。

例えば事故発生時の緊急通報システム、盗難に遭ったときの車両追跡などが可能になっています。

図5 コネクティッドカーの世界市場予測
(出所:「平成27年版 情報通信白書」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc241210.html

車両から送られてくるデータは膨大な量です。

トヨタとNTTデータはコネクティッドカーを管理する基盤を共同開発しています。トヨタ自動車は、トヨタのコネクティッドカーはグローバルでは2025年頃には2000万台を超えると見込んでいます*1。この場合、トヨタだけでも利活用されるデータ量は「EB」(=エクサバイト。10の18乗バイト)、一般的なハードディスク100万台分のデータに相当すると言います*2。

これだけのデータ網のなかで、いかに各車両とのリアルタイムでのデータをやり取りするのか、そこでエッジコンピューティングを利用した実証実験が行われています。

障害物検知システムについての実験です(図6)。

図6 コネクティッドカーでの障害物検知のリアルタイム性評価
(出所:「コネクティッドカー向けICT基盤に関する技術資料」トヨタ自動車・NTTグループ)
https://group.ntt/jp/topics/2021/11/29/pdf/technical_document_ictpf_jp.pdf p22

車両が障害物を検知後、周囲の車両に通知するまでの時間短縮は事故防止のためには非常に大切な要素です。その場合に、「リアルタイム性重視(#1)」情報処理をするのか、「精度重視(#2)」の情報処理をするのか、どちらが良いのかという実験です。

リアルタイム性重視のために導入されたのがエッジコンピューティングです。まずエッジの部分で障害物があることを大雑把にでも通知することを重視したものです。

上の図では、#1と#2のデータ処理内容や順序が異なることがわかります。

その結果の一例として、下の数字が示されています(図7)。

図7 エッジコンピューティングを利用したリアルタイム通知までの時間
(出所:「コネクティッドカー向けICT基盤に関する技術資料」トヨタ自動車・NTTグループ)
https://group.ntt/jp/topics/2021/11/29/pdf/technical_document_ictpf_jp.pdf p23

情報の精度よりも、少し大雑把であってもリアルタイム性を重視した結果、最速結果が図7で、複数回の試験を実施した結果、いずれも目標としていた7秒以内を達成したということです*3。

もちろん、第一報において認識した物体が本当に障害物であるかどうかの精度はある程度必要です。そのバランスが今後求められますが、通知を早めることができた、というのがエッジコンピューティイングのひとつの成果です。

エッジコンピューティングの可能性

このように見ると、エッジコンピューティングは人間組織でいう「適度に権限を委譲された中間管理職による現場での即決即断」のようなものに似ていると感じます。この考え方は人間組織でも重要なことかもしれません。

ところで先日筆者は終電を逃してしまい、近くのビジネスホテルに飛び込んだところ、客室は空いているものの「社内のシステム更新中なのでご案内が遅くなります」と言われてしまいました。

とりあえず受付だけでも店舗単位でできないのか・・・と、思わずエッジコンピューティングのことを考えてしまいました。

また、エッジコンピューティングによって情報を分散管理させるという手法を取れば、セキュリティ向上につながるという可能性もあります。

ひとつのサーバーが攻撃を受けたときに広い範囲で支障が出てしまう、大量の情報が流出してしまうという事態を防ぐことができそうです。

今後、市場はクラウドとの使い分けやエッジへの移行かという議論もありますが、エッジコンピューティング技術に必要な「マイクロサーバー」の出荷台数は増えつつあり、市場は熱を帯びています(図8)。

図8 マイクロサーバー市場の推移と予測
(出所:「平成28年版 情報通信白書」総務省)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/html/nc122320.html


システム設計に柔軟性を与える意味でも、エッジコンピューティングの今後を注目したいものです。


*1、*2
「トヨタとNTTグループが描く、コネクティッドカーが実現する社会」
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/0311/

*3
「コネクティッドカー向けICT基盤に関する技術資料」トヨタ自動車・NTTグループ
https://group.ntt/jp/topics/2021/11/29/pdf/technical_document_ictpf_jp.pdf p23

清水 沙矢香

福岡県出身。2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や統計分析を元に各種メディアに寄稿。

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