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里親・特別養子縁組制度とは? すべての子どもの幸福のために今こそ考えたい社会的養育の重要性

2022年02月02日制度・法律

この社会には、親と死に別れたり虐待を受けたりするなど、何らかの事情で実の親と一緒に生活できない子どもたちがいます。

しかし、全ての子どもはその境遇にかかわらず、適切に養育され、生活を保障され、愛され、保護されるべきことが法で定められています。*1
そして、全ての国民には、子どもの最善の利益が優先して考慮され、心身ともに健やかに育成されるよう努めることが法的に求められています。

ところが、日本は欧米に比べて里親などの委託率が極めて低く、要保護児童の大半が施設で生活をしているという現実があります。
もちろん、施設で生活することが悪いわけでも、施設での生活が不幸だというわけでもありません。
ただ、「社会的養育」の在り方という観点からは、考えなければならないことがあるかもしれません。

厚生労働省は2022年春から不妊治療を行う夫婦に対して、里親・特別養子縁組の情報提供を強化すると報道されています。*2

本記事では、里親や養子縁組など家庭的環境での養育制度についてわかりやすく説明し、その現状と課題解決について考えてみたいと思います。

社会的養育の重要性

私たちの社会には、保護者のいない児童や虐待を受けている児童など、家庭環境上養護を必要とする児童がいます。そうした子どもたちに対しては、公的な責任として社会的な養護が行われています。

なお、児童福祉法では「児童」を「満18歳に満たない者」としていますが、本稿でもその定義に従います。*1:第一章総則 第二節定義

保護児童の現状

保護を必要としている児童はどのくらいいるのでしょうか(図1)。*3:p.4

図1 要保護児童数(全体)の推移
出典:厚生労働省(2021)「社会的養育の推進に向けて」p.4
https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

このグラフ中の5本の折れ線は、下から「ファミリーホーム」「乳児院」「里親」「児童養護施設」「要保護児童全体」をそれぞれ表しています。

このうち「ファミリーホーム」は2009年度から事業化が始まった新しい制度なので、耳慣れないかもしれません。
これは「小規模住居型児童養育事業を行う住居」のことで、養育里親の経験者や乳児院、児童養護施設などで養育の経験がある人が養育者となり、その家庭に子どもを迎え入れて養育を行います。ただし、ふつうの家庭とは違い、小規模施設として事業化されているもので、定員は5~6名です。*4:pp.3-4、*3:p.12

保護を必要としている児童は2019年に43,650人いました。
以下の図2はそうした子どもたちの生活環境を表していますが、日本では、2020年3月末時点で、要保護児童のうち約9割が施設に入所しているという厳しい現実があります。*3:p.12

図2 要保護児童子の生活環境
出典:厚生労働省(2021)「社会的養育の推進に向けて」p.12
https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

児童の権利と大人の責任

冒頭でも述べましたが、「児童福祉法」には児童の権利とともにその権利を保障する立場の国民や地方自治体、国の責務が示されています。

この児童福祉法に定められている児童の権利は国際条約「児童の権利に関する条約」の精神に依るものです。*1、*5

児童福祉法の第一章総則の第一条には、以下のように明記されています。

第一条 児童の権利に関する条約の精神にのつとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。

また、同第二条には全ての国民に対して、上記のような子どもの権利と利益を守る努力義務が記されています。

さらに、同第三条の二には、国および地方公共団体の責務として、要保護の子どもが「できる限り良好な家庭的環境において養育されるよう、必要な措置を講じなければならない」と定められています。

つまり、すべての子どもが「できるかぎり良好な家庭的環境」で養育されることが望ましいとされているのです。
このことと先ほどみた要保護児童が実際に置かれている生活環境を考え合わせると、胸が痛むのは筆者だけではないでしょう。

里親制度と特別養子縁組制度

2016年に児童福祉法が改正され、子どもが権利の主体であること、実親による養育が困難であれば、里親や特別養子縁組などで養育されるよう、家庭養育優先の理念が規定されました。*6:p.1

そこでここでは、要保護児童にとって重要な意味をもつ里親制度と特別養子縁組制度についてみていきたいと思います。

里親制度

里親委託には次のような効果が期待できることから、社会的養護では里親委託を優先して検討することになっています。*3:p.23

  • 特定の大人との愛着関係の下で養育され、安心感の中で自己肯定感を育み、基本的信頼感を獲得できる
  • 適切な家庭生活を体験する中で、家族のありようを学び、将来、家庭生活を築く上でのモデルにできる
  • 家庭生活の中で人との適切な関係の取り方を学んだり、地域社会の中で社会性を養うとともに、豊かな生活経験を通じて生活技術を獲得できる

ところが、日本は欧米に比べて里親委託率が低く、2020年3月末時点で、要保護児童のうち里親の元で、あるいはファミリーホームで生活している子どもは合わせてわずか21.5%に過ぎませんでした(図3)。*3:p.29

図3 各国の要保護児童に占める里親委託児童の割合(2018年前後)(%)
出典:厚生労働省(2021)「社会的養育の推進に向けて」p.29
https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

こうした状況から、国は里親制度を推進しようとしています。
では、この制度はどのようなものなのでしょうか。

里親には以下のようなタイプがあります(表1)。*7:裏表紙

表1 里親制度の種類

参考:厚生労働省「広げよう『里親』の輪」裏表紙の表を基に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/000676357.pdf

この他に、子どもの両親以外の親族が育てる「親族里親」や、次のセクションで取り上げる特別養子縁組を前提とした「新生児里親」もあります。
里親になった人には、以下のように必要な費用が支給されます。

  • 里親手当:1人あたり9万円/月
  • 生活費:乳児 約6万円/月、乳児以外 約52,000円/月
  • その他:教育費、医療費、防災対策費など

では、里親になるためにはどうしたらいいのでしょうか。
そのためには、以下のようなステップを踏む必要があります(図4)。

図4 里親になるまでのステップ
参考:厚生労働省「広げよう『里親』の輪」裏表紙の図を基に筆者作成
https://www.mhlw.go.jp/content/000676357.pdf

里親は、委託解除後も関係を持ち、いわば実家的な役割を担うことができることから、不遇な状況におかれた子どもたちの人生において、心の拠り所となることが期待されます。

特別養子縁組制度

次に特別養子縁組制度についてみていきましょう。

養子縁組制度には以下の2種類があります。*8:p.1
  • 普通養子縁組:戸籍上において養親とともに実親が並記され、実親と法律上の関係が残る縁組形式
  • 特別養子縁組:子の福祉を積極的に確保する観点から、戸籍の記載が実親子とほぼ同様の縁組形式

特別養子縁組制度は、家庭裁判所の審判によって成立します。縁組が成立すると、それまでの親子関係はなくなり、養親子は原則として離縁をすることができなくなります。*8:p.1

これは「菊田医師事件」を契機に1987年に成立した縁組制度です。この事件は、1973年に菊田医師が、望まない妊娠によって生まれた子を養親に実子としてあっせんしたことを自ら告白したことで発覚しました。

こうした背景をもつ特別養子縁組は、社会的養育が必要な子どもに温かい家庭を与えるとともに、唯一で強固な親子関係を築き、子どもに法的な安定性を与える点に大きな特徴があります。

では、特別養子縁組制度はどの程度普及しているのでしょうか(図5)。*8:p.2

図5 特別養子縁組の成立件数
厚生労働省「普通養子縁組と特別養子縁組について」p.2
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000637049.pdf

この図から、2013年(平成25年)以降は成立件数が増加しているものの、542件という件数をみるとまだまだ推進する必要性があることがわかります。

ところが、特別養子縁組制度は制度上利用しにくい点があるとの指摘がありました。
そこで、国は民法を改正し、この制度をより活用しやすい環境を整えています。*9:p.1

改正のポイントは以下の2点です。
  • 養子となる子どもの年齢の上限を6歳未満から15歳未満に引き上げ
  • 裁判手続の合理化

家庭的環境での養育推進に向けて

これまでみてきたように、国は児童福祉法や民法の改正を行い、里親制度や特別養子縁組制度など家庭的環境での養育を推進しようとしています。

では、そのためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

好事例からの学び

里親等の委託率は、自治体間の格差が大きいことがわかっています。先ほどみたように、全国平均は21.5%ですが、最も割合が高い新潟県は、過去10年間で22.2%から60.4%にまで上昇させることに成功しています。*3:p.23、p.25

このように里親等委託率を増加させている自治体では、以下のような工夫・努力をしています。
  • 児童相談所への専任の里親担当職員の設置
  • 里親支援機関の充実
  • 効果的な広報:体験発表会、市町村との連携、NPOや市民活動を通じた口コミ

こうした事例に学び、より効果的な取り組みをする必要があるのではないでしょうか。

不妊治療前の情報提供強化

冒頭で触れたとおり、厚生労働省は2022年春から、不妊治療を行う夫婦を対象に、子どもを迎える選択肢の1つとして里親・特別養子縁組の情報提供を強化すると報道されています。*2

これは、2022年4月から不妊治療が公的医療保険の対象になり、不妊治療を受ける人の増加が見込まれることが契機となっています。

不妊治療を受ける人は年々増え、体外受精の実施件数は年間約46万件に達しますが、治療しても子どもを授からない夫婦も多く、治療期間が長期化した場合の心身の負担が課題になっています。
そのため、不妊の夫婦に治療の中止や別の選択肢を示す必要性が指摘されてきましたが、その取り組みは進んでいませんでした。

では、不妊治療を受けている人は社会的養育についてどのような意識をもっているのでしょうか(図6)。*10:p.21

図6 不妊治療を受けている人の里親制度・養子縁組に関する意識
出典:厚生労働省(2021)「令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 概要版」p.21
https://www.mhlw.go.jp/content/000775160.pdf

この図をみると、「養子縁組制度や里親制度に関心はあったが、情報収集は特に行っていない/行わなかった」と回答した人が男女とも3割弱いることがわかります。

こうした人々に働きかけることによって家庭的環境での養育が拡がることが期待されていますが、課題もあります。
それは、里親制度や特別養子縁組制度は、本来的に、不妊治療がうまくいかなかった場合の代替手段ではないということです。

すべての子どもがその境遇にかかわりなく家庭的環境で安心安全に暮らすための責任は社会全体にあります。したがって、現状を改善するためには社会全体の意識変革が必要ではないでしょうか。

「家族」の定義が多様化している現在、まずはこの問題について現実を受け止め、1人ひとりが自分事として考える。そんなところから始めてみるのはいかがでしょうか。


エビデンス

*1
e-Gov「児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)施行日: 令和三年四月一日(令和二年法律第四十一号による改正)」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000164

*2
読売オンライン(2021)「【独自】子ども迎える選択肢、里親・養子縁組もあります...不妊夫婦への情報提供に指針」(2021/11/24 09:09配信)
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20211124-OYT1T50049/

*3
厚生労働省(2021)「社会的養育の推進に向けて」
https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf

*4
厚生労働省(2014)「ファミリーホームの設置を進めるために」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000074598.pdf

*5
外務省「児童の権利に関する条約」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html

*6
厚生労働省(2017)「新しい社会的養育ビジョン」
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000173888.pdf

*7
厚生労働省「広げよう『里親』の輪」
https://www.mhlw.go.jp/content/000676357.pdf

*8
厚生労働省「普通養子縁組と特別養子縁組について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000637049.pdf

*9
法務省「特別養子縁組の制度が利用しやすくなります」
https://www.moj.go.jp/content/001317826.pdf

*10
厚生労働省(2021)「令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 概要版」
https://www.mhlw.go.jp/content/000775160.pdf

横内美保子(よこうち みほこ)博士(文学)

総合政策学部などで准教授、教授を歴任。日本語教育、教師養成、教材開発、外国人就労支援、リカレント教育などに取り組む。
Webライターとしては、エコロジー、ビジネス、就職、社会問題など多岐にわたるテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon

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