フリーワード検索

アイネットブログ

ガソリンなぜ高騰? 石油価格はどうやって決まっているのか

2023年10月04日解説

ガソリン価格が高止まりし、各所から悲鳴が上がっています。

いつおさまるかわからないガソリン価格の高騰ですが、そもそもガソリンの値段とはどうやって決まっているのでしょうか。そこにはさまざまな要素が絡み合っています。

ガソリン価格の仕組みやいま起きていることについてご紹介します。

全国平均で180円超えが続く

資源エネルギー庁の調査によると、ガソリンなど石油製品の9月の価格推移は下のようになっています(図1)。

図1 ガソリン等店頭小売価格の推移
(出所:「石油製品価格調査」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl007/results.html
※「9月27日(水)結果概要版」をクリックするとダウンロードできるWordファイルです

やや下落しつつあるものの、依然として高止まりしていると言えます。

これから寒い時期がやってくると灯油の需要が増しますので、上記の統計のように下がり続けることは期待できないかもしれません。むしろ、年内にガソリン価格は200円台にのせる可能性もあると筆者は感じています。

今回のガソリン価格の高騰にはおもに2つの理由があります。

・円安
・ロシアのウクライナ侵攻による世界情勢の変化

まずそれぞれを見ていきましょう。

歴史的円安が致命傷に

まず「円安」です。日本ではここのところ円安が続いていると言われますが、1ドルいくらになれば「円安」「円高」なのでしょうか?

実はこれには、明確な区切りはありません。

ただ、いま歴史的な「円安」=「円の価値が下がっている状態」が続いているのは明らかです。
ドルに対する購買力だけを比べても、以下グラフのように下落しているしていることがわかっています(図2)。

図2 円の購買力の推移
(出所:「円の実質実効為替レートの歴史的な低下の意味 ~購買力平価による水準評価から考える円相場の現在地~」国際通貨研究所)
https://www.iima.or.jp/docs/international/2021/if2021.22.pdf p5


上のグラフの赤線がドルに対する円の「購買力」を示しています。
1970年半ばをピークに円の購買力は下がり続けていることがわかります。

実際、農林水産省によると、小麦の売り渡し価格は平成19年には1トンあたり48,430円だったものが、令和5年には76,750円となっています*1。
これは円の購買力低下による相対的な値上がりが多分に含まれています。

2023年8月には、円の実力は1970年を下回っています*2。
かつては東南アジアなど「ものが安く買える」という理由で海外旅行に出かける人は多くいたものですが、今はそうはいきません。

もちろん、石油を購入するにあたってもこの事情は同じです。

日本のエネルギー自給率

また、もとより日本はエネルギー自給率の低い国であることはご存じでしょう。

太陽光発電へのシフトなどの努力をしていても、2019年度でのエネルギー自給率は12.1%にすぎません(図3)。

図3 日本のエネルギー自給率
(出所:「日本のエネルギー 2021年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/001/

そしてこのうち、化石燃料の輸入先は以下のようになっています(図4)。

図4 化石燃料のおもな輸入先
(出所:「日本のエネルギー 2021年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」資源エネルギー庁)
https://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/energy2021/001/

原油、天然ガス、特に石炭についてはロシアが一定のシェアを占めていることがわかります。

なお、経済産業省は令和4年12月5日の閣議決定以降、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、上限価格を超える価格で取引されるロシアを原産地とする原油及び石油製品の輸入禁止措置を取っています。「国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため」としています*3。
こうした措置もまた、ガソリン価格に影響を及ぼしていると考えられます。
これについては、事態収拾の見通しは立っていません。

注目される「トリガー条項」とは

そこで現在注目されているのが「トリガー条項」の発動です。
ガソリン価格が「ガソリン税」と「暫定税率」の2重課税になっていることは皆さんご存じのことかと思います。

トリガーは英語にすると「trigger」で「銃などの引き金をひく、(装置などを)動作させる、(出来事を)引き起こす」などの意味を持ちますが、同様にガソリン価格が値上がりしたときに、それをストップしようとある仕組みを動作させることを指します。

総務省が発表する小売物価統計調査で、レギュラーガソリンの平均小売価格が1リットル当たり160円を3カ月連続で超えた場合、ガソリン税の上乗せ分(暫定税率=25.1円)の課税を停止し、その分を減税する仕組みです。

ただ現在のところ、税収への影響などを理由に発動が見送られています。

グリーン化の必要性

現在、石油の利用については2つの課題があるといえます。

ひとつは上に挙げた、国外情勢の変化による供給の不安定さです。
エネルギー自給率が低い日本の場合、外部要因によっていくらでも価格が左右されてしまいます。これは国としてはあまり良いこととは言えません。

また、もうひとつは今世界的に重視されている脱炭素の取り組みです。

脱炭素が進み、石油燃料に依存しない社会になれば日本はエネルギー価格の変動に強い国になれると言えます。

実際、業界団体でも将来に向けた行動計画が示されています*4。

数値目標としては、

2010年度以降の省エネ対策により、2030年度において追加的対策がない場合から原油換算100万キロリットル分のエネルギー削減量(省エネ対策量)を達成する

というものです。

これは、CO2約262万トンに相当します。

さらに2050年に向けては

CO2フリー水素、合成燃料、CCS・CCU(カーボンリサイクル)などの研究開発と社会実装に積極的にチャレンジすることで、事業活動に伴うCO2排出の実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すとともに、供給する製品の低炭素化等を通じて、社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献する

ともしています。

そこには石油業界自らの事業活動によるCO2排出量の削減、そしてバイオ製品の割合を増やすなど供給する製品におけるCO2排出削減、そして排出したCO2を回収する対策、と多くの技術を必要とします。

石油業界はこれまでの燃料供給という役割だけでなく、脱炭素に向けた技術開発に向けて舵を切りつつあります。


エネルギー業界向けソリューション




*1
「令和5年4月期の輸入小麦の政府売渡価格について」農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/boeki/attach/pdf/230314-1.pd p5

*2
「円の実力、過去最低に 円安など響き1970年を下回る」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2197A0R20C23A9000000/

*3
「ロシアを原産地とする原油及び石油製品の輸入について」経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/03_import/21_russia/import_russia.html

*4
「石油業界のカーボンニュートラル行動計画2022年度フォローアップ結果(2021年度実績)」石油連盟
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/shigen_wg/pdf/2022_001_05_01.pdf p4、p12

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

TOP