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混同しがちなサステナビリティ、SDGs、ESG 共通点と違いとは?

2023年02月22日解説

サステナビリティ、SDGs、ESGは共通したコンセプトを含んでいるため、混同されやすく、その区別が難しいものです。

本記事では、ビジネスとの関連に注目し、最新動向を探りながらそれぞれの概要を押さえた上で、共通点と相違点を整理します。

サステナビリティとは

「サステナビリティ(Sustainability)」とは、環境・社会・経済の3つの観点から社会を持続可能にしていくという考え方のことです。*1

コーポレート・サステナビリティ

サステナビリティは広い概念ですが、その中で企業活動に関連するものを「コーポレート・サステナビリティ(Corporate Sustainability)」と呼びます。

コーポレート・サステイナビリティとは、自然環境や社会システムの中で企業活動を長期的に持続・成長させるという考え方であり、環境や社会を企業活動の前提条件と捉えています(図1)。*2:p.9

図1 コーポレート・サステナビリティと自然環境・社会システム
出典:PwC「コーポレートサステナビリティ 日本企業の長期的価値創造に向けて」p.9
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2019/assets/pdf/corporate-sustainability1907.pdf

サステナビリティのテーマ

サステナビリティの範囲の大枠を知る上で役に立つのは、「サステナビリティ報告」の国際的なスタンダード「GRIスタンダード」です。*1
サステナビリティ報告とは、企業の社会的な取り組みをまとめ、社会に対して発信するために作られる報告書で、現在では多くの企業が毎年、発表しています。*3

以下の表1はGRIスタンダードがサステナビリティの要素として挙げている33テーマです。

表1 GRIスタンダードによるサステナビリティのテーマ

出典:Sustainable Japan「【戦略】サステナビリティ(CSR)とは何か? ー定義とその意味ー」
https://sustainablejapan.jp/2014/02/02/what_is_corporate_sustainability/8288

このように、サステナビリティは、社会、環境、経済のさまざまな分野に関わる広範な概念です。

SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、2030年までに持続可能でよりよい世界の実現を目指す、17の国際目標です。*4

SDGsは、上述のサステナビリティのために何をすべきかを、より包括的に、また具体的に示したものともいえます。

17の国際目標

国連は2001年にミレニアム開発目標(MDGs)を策定し、極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げました。それらの目標は、2015年までにある程度達成されたものの、未達成の課題も残されていました。*5, *6:p.2

SDGsは、その後継として、2015年9月の国連サミットで、加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されています。
「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という印象的なスローガンをご存じの方も多いのではないでしょうか。*4

図2はおなじみのアイコンですが、これら17の目標の下に、169のターゲットが決められています。

図2 SDGsのアイコン
出典:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202206.pdf

図3は、SDGsの特徴をまとめたものです。*6:p.2

図3 SDGsの特徴
出典:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202206.pdf

持続可能な開発

では、SDGsのSD(Sustainable Development:持続可能な開発)とはどのようなことを指すのでしょうか。

それは「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「Our Common Future」の中心的な考え方で、「将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことです。*7, *8:p.16

この概念は、環境と開発を相反するものではなく、共存し得るものとして捉え、環境保全を考慮した節度ある開発が重要であるという考えに基づいています。

ポイントは以下の3つ。*9

  • 先進国と開発途上国の格差を考えること
  • 将来世代のことを考えること
  • 経済と環境の調和にプラスして、社会問題も考えること

SDは、SDGsの根幹をなす考えです。

"SDGsウォッシュ"に陥らないために

最近ではSDGsの認知度が高まり、企業戦略に取り入れられたり、イベントに絡めてアピールされるなど、SDGsを目にし耳にすることが増えてきました。*9

しかし、その一方で、その取り組みが表面的な導入に終わっているところが目立ち、「このままだと"SDGsウォッシュ"になってしまうのでは?」と懸念する声も聞こえます。
"SDGsウォッシュ"とは、「グリーンウォッシュ」にひっかけて、「SDGsに配慮しているように見せかけて、ごまかすこと」を指します。
"SDGsウォッシュ"に陥らないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか。

SDGsのゴールは、世界のすべての国々が合意できるほど基礎的な問題の解決を目指すものです。つまり、「当たり前」のことであって、それを掲げて企業のブランディングに使ったり、他社との差別化をアピールしたりできるほど強力な価値があるものではありません。

また、SDGsは、国際社会が最低限解決しなければいけないリストであって、これがすべてでもありません。
各国で起こっている問題や、2030年以降、深刻になりうる問題(例えば、日本の人口減少、高齢化問題など)は含まれていません。
そのため、SDGsの目標達成を目指しつつ、各国が抱える問題にも取り組む必要があります。

目標期限はあるものの、SDGsは未来志向です。100年先を見据えて、これまで誰も取り組んでこなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかがSDGs経営の本質だと、経済産業省は指摘します。*10:p.8

協働もポイントです。SDGsという共通言語があれば、17の目標に向かって、ジャンルや立場に関係なく、力を合わせて一緒に取り組むことができます。業種や専門が違っても、コラボレーションしながら一緒にゴールを目指すことで、新たな取り組みが可能になります。*9

ESGとは

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス:企業統治)の頭文字をとった言葉で、企業が長期的成長を目指すために必要な観点です。*11

ESG経営

ESGは投資活動から始まった概念ですが、最近は企業経営においてもESGに配慮するESG経営が重視されており、投資に限定されるものではありません。*12

気候変動問題や人権問題など、さまざまな社会課題が顕在化している中、企業は長期的成長を目指す上でESGを重視すべきだと考えられています。そうした視点に欠ける企業は、投資家から企業価値を疑われ、リスクを抱えているとみなされます。*11

そのため、ESGに配慮した取り組みを行うことは、長期的な成長を支える経営基盤の強化につながると考えられています。

ESG投資

「ESG投資」とは「ESGに配慮した企業に対して投資を行うこと」です。*11

ESGが投資で重視されるようになった契機は、国連が2006年に「責任投資原則(PRI)」を提唱したことです。
PRIは投資家に対して、企業分析・評価を行う際に長期的な視点を重視し、ESG情報を考慮した投資行動をとることを求めています。そのため、投資家が投資先に対してESGへの配慮を求める動きが拡大しました。 *13:p.2

PRIに署名している機関は、2020年8月時点で世界全体では3,332機関、合計資産残高は約10,340兆円(103.4 trillion US$)に上ります。

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って各国中央銀行が金融緩和を行い、それを背景として、ESG投資は世界的に大幅に拡大しました。*14

図4 世界のESG投資規模(通貨別)
出典:三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向 GX推進を契機にESG投資の拡大へ」
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html

図中の「グリーン」とは環境問題を解決することに特化した投資、「ソーシャル」とは社会課題を解決することに特化した投資、「サステナビリティ」とは環境問題と社会課題の双方を解決することを目的とした投資を指します。

2015年末時点で662億ドルだった世界全体のESG投資額は、2021年末には9,281億ドルに増加しました。
一方で、日本のESG投資の規模は欧米や中国と比べて低水準です。日本にはESG投資余地が多く残されているといえるでしょう。

サステナビリティ、SDGs、ESGの共通点と相違点

最後にサステナビリティ、SDGs、ESGの主な共通点と相違点を整理します。

まず、共通点は、以下のようにまとめられます。
  • 持続可能な発展、長期的成長を目指していること
  • 環境、社会、経済を考慮した活動を行い、課題解決を目指していること
  • 国際的な取組みに関わるものであること
次に相違点として、以下のことが挙げられます。
  • SDGsは目標であるのに対して、他の2つはコンセプトや活動であること
  • SDGsには期限があるのに対して、他の2つには期限がないこと
  • サステナビリティ・ESGに関連した活動はSDGsを達成するための手段となること
  • ESG活動は経済活動に特化したものであるのに対して、他の2つに関わる活動は広範であること
以上のように、共通点も相違点もあるサステナビリティ、SDGs、ESGですが、どれにも大変重要なコンセプトが通底しています。
ただし、これらに関する理解それ自体が有益であるわけではありません。それを実際の行動にどう結びつけていくかが最重要だといえるでしょう。




資料一覧 *1
Sustainable Japan「【戦略】サステナビリティ(CSR)とは何か? ー定義とその意味ー」(2014年)
https://sustainablejapan.jp/2014/02/02/what_is_corporate_sustainability/8288

*2
PwC「コーポレートサステナビリティ 日本企業の長期的価値創造に向けて」(2019年)p.9
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2019/assets/pdf/corporate-sustainability1907.pdf

*3
Sustainable Japan「Dictionary サステナビリティ報告書」(2016年)
https://sustainablejapan.jp/2016/06/19/sustainability-report/22533

*4
外務省「JAPAN SDGs Action PlatformPlatform 」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html

*5
外務省「ODA>ミレニアム開発目標(MDGs)」(2019年)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

*6
外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」(2022年)p.2
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202206.pdf

*7
外務省「地球環境>持続可能な開発」(2015年)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/sogo/kaihatsu.html

*8
"Report of the World Commission on Environment and Development: Our Common Future"(1987年)p.16
https://sustainabledevelopment.un.org/content/documents/5987our-common-future.pdf

*9
国立環境研究所「知ってる?本当の「SDGs」活用法-押さえておきたい"4つのポイント"」
https://taiwa.nies.go.jp/colum/sdgs_4points.html

*10
経済産業省「SDGs 経営ガイド」(2019)p.8
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190531003/20190531003-1.pdf

*11
野村総合研究所「用語解説 ESG(環境・社会・ガバナンス)」
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/esg

*12
内閣府「令和2年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組み状況調査報告書>2 国外調査>2.2 ESGの概要>2.2.1 ESGとは何か」
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/r02kokusai/h2_02_01.html

*13
国土交通省「参考資料4-1 ESG投資の動向 ー不動産分野におけるESG-TCFD実務者WG第1回資料5-1のアップデートー」p.2
https://www.mlit.go.jp/common/001362975.pdf

*14
三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向 GX推進を契機にESG投資の拡大へ」(2022年)
https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20221125.html#:~:text=ESG%

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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