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「AI寿司」が誕生? 食生活をIT化する「スマート漁業」「スマート農業」とは

2022年06月21日DX

魚の養殖や目利きには、長年の経験が必要なのではないかと思うかもしれません。
しかし、その常識を覆す技術が登場しています。
その一例が、すしチェーンの「くら寿司」が2022年3月に全国で販売を始めた「AI桜鯛」です。

愛媛県で育てたマダイを使用したものですが、普通のマダイと一体何が違うというのでしょうか。

また、漁業だけでなく農業分野でもAI技術を駆使している事例もあります。

AIはわたしたちの食卓にどのような影響を与えていくのでしょう。

「スマート養殖」で生まれた新しい寿司

くら寿司が3月に限定販売した「AI桜鯛」は「スマート漁業」によって生まれた寿司です(図1)。愛媛県産のマダイを使い、一貫110円(一部店舗除く)で提供されました(図1)。

図1 くら寿司の「【愛媛県産】AI桜鯛」
(出所:「くら寿司の新戦略!持続可能な漁業の実現に向けた『スマート養殖』 ~AIなどを駆使した「スマート養殖」で人手不足や労働環境を改善!大手外食チェーン初「AI桜鯛」も新登場!~」くら寿司)
https://www.kurasushi.co.jp/author/003377.html

前年の4月から実証実験として育てたマダイで、見た目もごく普通ですが、その養殖方法は従来の漁業とは大きく異なります。
AIやIoTを駆使して育てたのです。

「スマート漁業」とは、漁師の経験や知見をAIに機械学習させて魚の状態をスコア化し、餌の量やタイミングを最適化することで理想的な魚の養殖に繋げることです(図2)。


図2 餌の管理状況
(出所:「くら寿司の新戦略!持続可能な漁業の実現に向けた『スマート養殖』 ~AIなどを駆使した「スマート養殖」で人手不足や労働環境を改善!大手外食チェーン初「AI桜鯛」も新登場!~」くら寿司)
https://www.kurasushi.co.jp/author/003377.html

スマート漁業には様々なメリットがあります。

まずは人材育成の効率化、そして、餌を無駄にならないように与えることで余分な餌代のカットにつながります。
そして将来的には、担い手不足が懸念される漁業の持続性を期待できるというわけです。

くら寿司はこのマダイをきっかけに、漁業部門の子会社を立ち上げています。

マグロの目利きもAIで?

また、経験が必要とされるマグロの目利きをAIで行う技術も生まれています。

電通が開発した「TUNA SCOPE」というマグロ品質判定AIは、2020年に水産庁の補助事業に採択されました*1。

マグロの尾の断面には味や食感、鮮度、味のノリといった、マグロの品質を示すあらゆる情報が詰まっています。その断面の画像をもとにAIがマグロの品質を判定するというしくみです(図3)。


図3 「TUNA SCOPE」
(出所:「マグロ品質判定AI『TUNA SCOPE』を活用した輸出事業が水産庁補助事業に採択」電通)
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0424-010044.html

AIによる目利きで最高品質と選別したマグロはニューヨーク、シンガポールで提供されました。
また、最高ランクに判定されたマグロの約9割が、職人とAIで一致したということです*2。

農業部門でも進むICT、IoT活用

また、農業部門でもAIやIoTの活用が始まっています。
特にオランダの農業はその最先端として注目されています。

オランダの農地面積は日本の半分以下しかありませんが、おもな野菜の面積当たりの収穫量は日本の数倍に達しています(図4)。

図4 オランダと日本の農業の比較
(出所:「IT融合新産業の具体的例」経済産業省)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/innovation/ict/4kai/siryo5-betten1.pdf p8

これは、施設での野菜栽培に「スマート農業」を導入している結果です。
野菜にとって最適な光の量や湿度などを機械的に管理し、人手が少なくて済むようにしているのです(図5)。
また、コスト管理までIT化されています。「確実性の高い農業」であることもまたポイントでしょう。


図5 オランダの「スマート農業」
(出所:「IT融合新産業の具体的例」経済産業省)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/innovation/ict/4kai/siryo5-betten1.pdf p9

農業についても、日本では将来の担い手不足が懸念されているところです。

日本でも徐々に、農業にAIやIoTを導入する研究が進んでいます。病害虫の発生状況や遺伝子情報をビッグデータ化することで、不慣れな生産者でも的確に把握できるようなシステムの開発などです(図6)。


図6 AIを活用した研究課題の例
(出所:「スマート農業の展開について」農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-26.pdf p20

AIやIoTがもたらすのは「食料生産の持続可能性」

農水産省は、スマート農業の特徴を環境負荷の観点からも分析しています*3。

ひとつは、農薬や肥料のピンポイントでの適切な利用によって農薬や肥料の量を最適化できるということです。必要とする資源の削減に繋がります。

また、サプライチェーンの管理によって輸送を最適化し、輸送段階で生じるCO2の排出量削減にも寄与するというものです。これによってフードロスの削減も期待されます(図7)。


図7 フードチェーンの最適化
(出所:「スマート農業の展開について」農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-26.pdf p25

食料安全保障は、日本にとっては重要な問題です。
デジタル技術による食料生産の最適化で、食料安全保障と環境問題への対応を同時に目指すこれらの取り組みには、今後ますます注目が集まりそうです。



*1
「マグロ品質判定AI『TUNA SCOPE』を活用した輸出事業が水産庁補助事業に採択」電通
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2020/0424-010044.html

*2
「TUNA SCOPEを大連に導入。日本の熟練の職人と判定結果を比べてみた。」TUNA SCOPE
https://tuna-scope.com/jp/report/report03.html

*3
「スマート農業の展開について」農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-26.pdf p23-25

清水 沙矢香

福岡県出身。2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や統計分析を元に各種メディアに寄稿。

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