急速な少子化への対策が重要度を増す中で、2022年には二回にわたる育児休業制度の改正が行われます。
特に男性の育児休業取得率が低迷しているところ、今回の制度改正によって、男女問わず育児休業を取得しやすくなることが期待されます。各事業主は、改正内容を踏まえた育児休業制度の整備へ早期に着手しましょう。
今回は、2022年4月・10月に施行される、改正育児・介護休業法の変更ポイントを解説します。
男性の育児休業取得率は、依然として低迷中
出典:
「令和2年度雇用均等基本調査」の結果概要 18頁|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r02/07.pdf
上記のグラフは、厚生労働省の調査に基づく、1996年から2020年までの男女別育児休業取得率の推移を表しています。
女性の育児休業取得率は、2007年以降80~90%程度で推移しており、比較的高い水準にあります。これに対して男性の育児休業取得率は、年々増えてきてはいるものの、2020年時点で12.65%にとどまっています。
男女共同参画の考え方が社会的に広く受け入れられた一方で、実態としての育児休業取得率に未だ大きな男女差があることは、日本の雇用情勢が抱える大きな問題点と言えるでしょう。
2022年に施行される改正育児・介護休業法では、男性を含めたすべての労働者が、柔軟に育児休業を取得できるような雇用環境の整備を目的として、さまざまな制度変更が行われます。
現行の育児休業制度の概要
改正育児・介護休業法の変更ポイントを紹介する前に、現行の育児休業制度の概要を確認しておきましょう。
●育児休業を取得できる労働者の範囲
育児・介護休業法5条に基づき、すべての無期雇用労働者には、育児休業を取得する権利が認められています。
また、有期雇用労働者についても、子が1歳6か月に達するまでに、労働契約(更新される場合は、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでなければ、育児休業を取得することが可能です。
●育児休業の期間
育児休業の期間は、原則として、子が1歳に達するまでです(育児・介護休業法5条1項)。
ただし、以下の場合には育児休業期間の延長が認められます。
① | パパ・ママ育休プラスを利用する場合 |
| 両親ともに育児休業を取得する場合、子が1歳2か月に達するまで育児休業期間を延長できます(同法9条の2第1項)。
ただし、父・母それぞれの育児休業期間は、原則として最長1年間です。
(例)母は子の出生後1歳に達するまでの1年間、父は子が2か月に達した時から1歳2か月に達するまでの1年間、それぞれ育児休業を取得する
|
② | 保育所等に入れない場合 |
| 保育所等の利用を希望し、申込みを行っているものの、当面保育が実施されない場合には、最長で子が2歳に達するまで育児休業を延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条1号、6条の2)。
|
③ | 配偶者が育児に参加できない場合 |
| 子の育児に常時携わる予定だった配偶者について、以下のいずれかの事由が発生した場合には、最長で子が2歳に達するまで育児休業を延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条2号、6条の2)。
- 死亡した場合
- 負傷、疾病、身体上または精神上の障害により、子を養育することが困難な状態になった場合
- 離婚などによって、子と同居しないことになった場合
- 6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)に出産する予定である場合、または産後8週間を経過しない場合
|
●会社独自の育児休業制度が設けられている場合がある
上記の育児休業制度は、育児・介護休業法によって会社に実施が義務付けられている、いわば「最低ライン」です。
実際には会社が独自に、法律上の要請を上回る育児休業制度を設けているケースもあります。その場合は、育児休業の取得は社内規程等のルールに従います。
2022年4月1日施行|3つの育児休業促進策
2022年4月1日から、従来の育児休業制度をおおむね踏襲しつつ、さらに育児休業の取得を促進するため、改正法に基づく以下の3つの制度変更が行われています。
●育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
事業主には、労働者による育児休業の申出が円滑に行われるようにするため、以下のいずれかの措置を講ずることが義務付けられました(育児・介護休業法22条1項、同法施行規則71条の2)。
- 育児休業に関する研修の実施
- 育児休業に関する相談体制の整備
- 社内での育児休業取得事例の収集、提供
- 育児休業に関する制度や、育児休業の取得促進に関する方針の社内周知
●育児休業制度に関する個別周知・意向確認
労働者本人または配偶者が妊娠または出産した旨の申出があった場合、労働者に対して以下の事項を個別に周知し、育児休業を取得するかどうかの意向確認を行うことが事業主に義務付けられました(育児・介護休業法21条1項、同法施行規則69条の3)。
- 育児休業に関する制度
- 育児休業申出の申出先
- 雇用保険法に基づく育児休業給付に関すること
- 労働者が育児休業期間について負担すべき社会保険料の取扱い
●育休取得要件の緩和|有期雇用労働者が対象
有期雇用労働者については、従来は同一の事業主に1年以上継続雇用されていることが、育児休業取得の要件とされていました。
2022年4月1日以降、上記の要件は撤廃されました。したがって、子が1歳6か月に達するまでに労働契約(更新される場合は、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでなければ、継続雇用期間が1年未満の有期雇用労働者であっても、育児休業を取得できます(育児・介護休業法5条1項)。
2022年10月1日施行|柔軟な育休取得を可能とする2つの新制度
2022年10月1日には、さらに柔軟な育休取得を可能とする新制度として、「出生時育児休業」と「育児休業の分割取得」の2つが改正法に基づき導入されます。
●出生時育児休業|通常の育休とは別に取得可能
出生時育児休業とは、子の出生後8週間以内に最長4週間まで取得できる、通常の育児休業とは別枠の制度です。
男性の育児休業取得を促進することを主要な目的としており、以下のように柔軟な育児休業取得が可能となっています。
① | 休業開始日の2週間前まで申出可(通常の育児休業は1か月前まで) |
② | 2回まで分割取得が可能(初回の取得時に、分割取得の旨を申し出る必要あり) |
③ | 出生時育児休業期間中の就業も可能(労使協定を締結している場合に限る) |
●育児休業の分割取得
従来は、育児休業はまとめて1回の取得に限られていましたが、2022年10月1日以降、最大2回までの分割取得が認められるようになります。
出生時育児休業と合わせると、最大4回まで育児休業の分割取得が可能です。仕事や家庭の状況に応じて、より柔軟に育児休業を取得できるようになることが期待されます。
まとめ
夫婦が揃って育児休業を取得すれば、育児の負担が一方の親に偏ることを防げます。また、二度と訪れない子どもが幼い時期に、家族全員で一緒に過ごす貴重な経験を得ることができるでしょう。
改正育児・介護休業法に基づく制度の柔軟化により、育児休業はいっそう取得しやすくなります。特に、これまで育児休業の取得を考えたこともなかった男性の方は、この機会に育児休業の取得を検討してみてはいかがでしょうか。