「マーケティングオートメーションを導入したんだけど、ウチには合わなくて、解約したんですよね」
筆者の周辺では、そんな話を聞くことが増えています。
せっかく他社に先駆けて早期に導入したものの、成果が出ない企業には、いくつかの共通項が見えてきました。
本記事では、マーケティングオートメーション導入時の参考になるよう、失敗の原因や回避策を考えたいと思います。
マーケティングオートメーション導入が失敗する7つの原因
さっそくですが、マーケティングオートメーションの導入が失敗する7つの原因からご紹介しましょう。
- 前提の認識が間違っている
- 導入の意思決定に現場が絡んでいない
- 全体の戦略がない
- 運用担当者にマーケティングの素養がない
- マーケティングオートメーションの学習コストを見積もっていない
- コンテンツ制作のリソースを見積もっていない
- 真価を発揮する前に見限っている
1. 前提の認識が間違っている
1つめの原因は「前提の認識が間違っている」です。
マーケティングオートメーションについてよくある誤解は、
「マーケティングを自動的に行ってくれる」
というものです。
重要なポイントなので、詳しく説明させてください。
オートメーションの日本語訳「自動化」の語感から、"クルマの自動運転"をイメージする方がいます。
自動運転のクルマは、人間がハンドルから手を離し、運転操作を行わなくても、自動で走行できます。
しかし、(少なくとも現時点での)マーケティングオートメーションは、人間がハンドルを握っている必要があります。操縦するのは人間の仕事です。
「オートメーション」のニュアンスは、自動運転ではなく、"手作業のタスクを機械に置き換える"程度に捉えるのが妥当です。クルマにたとえるなら「マニュアル車とオートマ車の違い」です。
「中枢の頭脳プレーも含めて、マーケティング業務を自動的にやってくれるツール」とイメージしていると、つまずいてしまいます。実際はそうではないからです。
2. 導入の意思決定に現場が絡んでいない
2つめの原因は「導入の意思決定に現場が絡んでいない」です。
マーケティングオートメーションは、見込顧客へのアプローチやその後のコミュニケーション、顧客の重要度や優先順位の判断などを通して、ビジネス成果の拡大を目指します。
運用には、顧客とダイレクトに接している現場の担当者の意見が不可欠なのですが、マーケティングオートメーションは現場が絡まずに導入されるケースが少なくありません。
たとえば、システム部門が主導する、経営者が独断で決める、(営業部とは別の)マーケティング部が導入する、などが挙げられます。
結果として、自社のビジネスには適合しないプラットフォームを選択してしまい、成果をうまく出せないのです。
3. 全体の戦略がない
3つめの原因は「全体の戦略がない」です。
現場が関与していても、会社としての上位戦略との関連性なしに導入すると、成果の実感が得にくくなります。
たとえば、
「マーケティング部としてのKPIは追っているが、それが企業としての戦略や目標に対してどう影響しているのか、誰も紐付けていない状況」
が挙げられます。
マーケティングオートメーションの投資に対し、最終的にどれだけの収益が得られているのか、全体的なROI(投資対効果)を把握できていなければ、正しく成果を評価できません。
4. 運用担当者にマーケティングの素養がない
4つめの原因は「運用担当者にマーケティングの素養がない」です。
マーケティングの知識や技術を持っていない人がマーケティングオートメーションを扱うと、スムーズにいきません。
なぜなら、マーケティングオートメーションは、
「マーケティング業務をより早く・より精密に行うためのもの」
だからです。
マーケティング業務の経験がない人にとっては、ダッシュボードに出てくる用語ひとつ見ても難解で、ただただ取っ付きにくく感じてしまうでしょう。
5. マーケティングオートメーションの学習コストを見積もっていない
5つめの原因は「マーケティングオートメーションの学習コストを見積もっていない」です。
マーケティングに精通した担当者ならマーケティングオートメーションを使いこなせるのか?というと、そうともいえません。
マーケティングオートメーションは新しいテクノロジーであり、「マーケティングの素養」とは別に、「テクノロジーを使いこなすスキル」を習得しなければならないのです。
にもかかわらず、前述の「自動化」の印象が強いため、新たなスキルの学習コストを見積もっていないところに、うまくいかない原因があります。
6. コンテンツ制作のリソースを見積もっていない
6つめの原因は「コンテンツ制作のリソースを見積もっていない」です。
盲点となりやすいのですが、社内にライターやデザイナーが在籍している場合、彼ら彼女らの業務量は、マーケティングオートメーション導入によって大幅に増加します。
あるいは、制作会社に外注している場合には、発注量が増加します。
なぜなら、マーケティングオートメーションによって、コミュニケーションのパターンが倍増しても、その内容(コンテンツ)は自動生成されないからです。
たとえば、マーケティングオートメーションの主要な機能に、
「パーソナライズ(顧客一人ひとりに最適化してメッセージを出し分ける)」
があります。
導入前に、誰もが「これをやりたい」と思うものですが、ツールがメッセージを自動生成してくれるわけではありません。
誰かが制作しなければならないのです。
7. 真価を発揮する前に見限っている
7つめの原因は「真価を発揮する前に見限っている」です。
「私たちの業界には、合わない」
「ウチの会社の業務には、合わない」
と、マーケティングオートメーションを"ちょっとかじったところ"で切り捨てるケースが多いと感じています。
これは新しいテクノロジーの登場時にはよく見られる現象です。
身近な例を挙げれば、
「コーポレートサイトを作る」
「ネットでモノを売る」
「オウンドメディアを持つ」
といった今では当たり前のことも、黎明期には多くの企業が"ちょっとかじったところ"で「ウチには合わない」と切り捨てていました。
そんな企業を横目に、「自社にとっての取扱説明書」が見つかるまで粘った企業が先駆者となり、競争性優位を構築するのが常なのです。
マーケティングオートメーション導入を成功させるために必要なこと
失敗原因を踏まえつつ、どうすれば成功確率を上げられるでしょうか。5つのポイントをご紹介します。
- 運用期間ではなく「トライ&エラーの回数」で評価時期を決める
- 現場の担当者がカスタマージャーニーマップを作り企業目標と整合させる
- デジタルマーケティングを学ぶ
- マーケティングオートメーションを学ぶ
- コンテンツ制作のリソースを確保する
1. 運用期間ではなく「トライ&エラーの回数」で評価時期を決める
まず、運用期間ではなく「トライ&エラーの回数」で評価時期を決めることをご提案したいと思います。
▼ 例:
- ✕:6ヶ月後に継続判断をする
- ◎:施策を100本走らせた後に継続判断をする
たとえば、リサーチで「サンプルサイズ n=5」では誤差が大き過ぎて、信頼できるデータがとれないことは、イメージしやすいかと思います。
「6ヶ月後に継続判断」のやり方では、「ほぼ放置で時間だけが過ぎた」というケースが多く、適切な判断ができません。サンプルサイズが小さ過ぎるためです。
参考までですが、筆者自身は何事も「100回やると見えてくる」と考え、最初は四の五のいわず、まずは100回やって、評価はその後にしています。
マーケティングオートメーションでも「n=100」、あるいはそこまでいかずとも「n=30〜50」のサンプルサイズは準備してから、評価をするようにします。
ツールの導入期間ではなく、「トライ&エラーの回数」で評価期限を設定し、期間的なデッドラインは、そのトライ&エラーの回数を達成することに対して設けるとよいでしょう。
2. 現場の担当者がカスタマージャーニーマップを作り企業目標と整合させる
次に、現場の担当者が中心となってカスタマージャーニーマップを作り、なおかつ企業の上位戦略の目標と整合させることが重要です。
▼ カスタマー ジャーニー マップのイメージ
カスタマージャーニーとは、顧客の一連の経験を「旅」になぞらえて時系列で捉える概念で、それを可視化した図が「カスタマージャーニーマップ」です。
マーケティングオートメーションでは、基本的にカスタマージャーニーマップをベースにシナリオ設計を行いますので、カスタマージャーニーマップの精度が成功のカギを握ります。
カスタマージャーニーのゴールと企業目標の整合性が取れていれば、企業の収益に対する影響も測定しやすくなります。
3. デジタルマーケティングを学ぶ
「マーケティングオートメーションを使いこなすためには、マーケティングの素養が必要」
というお話をしましたが、具体的に何を学べばよいかといえば"デジタルマーケティング"に精通していると有利です。
本記事執筆時点でおすすめできる文献としては、2022年4月に日本語版が出版された『コトラーのマーケティング5.0 デジタル・テクノロジー時代の革新戦略』があります。
▼ 『コトラーのマーケティング5.0』目次
第1部 序論 |
| 第1章 マーケティング5.0へようこそ
|
第2部 デジタル世界でマーケターが直面する課題 |
| 第2章 世代間ギャップ |
| 第3章 富の二極化 |
| 第4章 デジタル・ディバイド
|
第3部 テクノロジー支援マーケティングのための新戦略 |
| 第5章 デジタル化への準備度が高い組織 |
| 第6章 ネクスト・テクノロジー |
| 第7章 新しい顧客体験
|
第4部 マーケティング・テクノロジー活用の新戦術 |
| 第8章 データドリブン・マーケティング |
| 第9章 予測マーケティング |
| 第10章 コンテクスチュアル・マーケティング |
| 第11章 拡張マーケティング |
| 第12章 アジャイル・マーケティング |
出所)朝日新聞出版「最新刊行物:書籍:コトラーのマーケティング5.0」
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23523
マーケティングオートメーションを扱う基礎知識として押さえたい内容が詰まっており、一読の価値があります。
4. マーケティングオートメーションを学ぶ
「マーケティングオートメーションのツールを扱うスキル」は、ツールの提供元であるベンダーや、そのユーザーコミュニティを通じて学ぶのが近道です。
ツールを選ぶ段階では、「ツール自体の学習コストがかかる」ことを念頭に比較検討することも重要です。
レクチャーの手厚さや、定着までのフォロー・サポート体制の充実性は、マーケティングオートメーション導入の成否に大きくかかわります。
「過去に導入したツールは、マニュアルレスでサクサク使いこなしてきた」
という優秀な企業でも、マーケティングオートメーションではつまずくケースがありますので、注意が必要です。
甘く見ずに、学習環境を整えておきます。
5. コンテンツ制作のリソースを確保する
最後に、制作のリソース確保についてです。
「思い描くマーケティングオートメーションを実現するためには、今までより多くのコンテンツが必要」
という前提のもと、担当メンバーの割当時間や、外注予算の確保を行なってください。
実際のところ、外注先を新たに開拓しないと、回らないケースも多いでしょう。
理想の外注先は、マーケティングオートメーションにかかわる案件の経験が豊富なチームです。
場合によってはベンダーから紹介を受けるなどして、自社と相性のよいチームを探します。
さいごに
本記事では「マーケティングオートメーションの失敗原因」をテーマにお届けしました。
筆者の肌感覚的には、あと数年もすると、マーケティングオートメーションを導入しているのが一般的な状態(導入していないと「珍しいですね」といわれる状態)になるのでは、と思います。
「自社には合わない」と切り捨てるのではなく、「使いこなせるようになるまで粘る」ことで、次のステージが見えてくるのではないでしょうか。参考にしていただければ幸いです。