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2022年4月から対象企業が大幅拡大|女性活躍推進法の注意点を弁護士が解説

2022年04月13日制度・法律

「男女同権」の考え方が社会の「常識」になって久しい一方で、日本における職業の実態に注目した場合、男女の間で機会均等が図られているとは言い難い状況です。
こうした実態に鑑み、男女間の職業的な格差を是正し、男女同権を推進するために制定されたのが「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)」です。

女性活躍推進法では、一定規模以上の事業主に対して「一般事業主行動計画」の作成を義務付けていますが、2022年4月より、義務の対象となる企業の範囲が大幅に拡大されます。

新たに義務の対象となる企業は、改正法に対応した行動計画策定の準備を進めましょう。
また、義務の対象外である企業も、社会的意義があり、かつ対外的なアピールにも繋がる女性活躍の推進へ積極的に取り組むことをお勧めいたします。

今回は、女性活躍推進法に基づく「一般事業主行動計画」について、作り方や作成後の取り組み、優良事業主の認定制度などをまとめました。

「一般事業主行動計画」とは?

「一般事業主行動計画」とは、女性の職業生活における活躍を推進する、事業主の取り組みに関する計画です。

女性活躍推進法8条1項に基づき、一定の要件を満たす事業主には、一般事業主行動計画の策定・届出が義務付けられています。

2022年4月から「一般事業主行動計画」策定・届出の対象企業が大幅拡大

2022年3月までは、一般事業主行動計画の策定・届出の対象となるのは、常時雇用する労働者が300人を超える(301人以上の)一般事業主※とされていました。
※一般事業主:国および地方公共団体以外の事業主

しかし、2022年4月以降は、常時雇用する労働者が100人を超える(101人以上の)一般事業主が、一般事業主行動計画の策定・届出の対象です。
したがって、常時雇用する労働者が101人~300人の一般事業主は、2022年4月以降、一般事業主行動計画の策定・届出が新たに義務付けられます。

一般事業主行動計画の策定・届出義務違反に対する罰則はありませんが、厚生労働大臣による報告要求・助言・指導・勧告の対象となる可能性があるので気を付けましょう(女性活躍推進法30条)。

なお、常時雇用する労働者が100人以下(2022年3月までは300人以下)の一般事業主は、一般事業主行動計画の策定・届出が努力義務とされています(同法8条7項)。

「一般事業主行動計画」の作り方

一般事業主行動計画は、以下の要領で策定します。

●行動計画に定めるべき3つの事項
女性活躍推進法8条2項では、一般事業主行動計画に定めるべき事項として、以下の3つを挙げています。
(1)計画期間
(2)取組の実施により達成しようとする目標
(3)実施しようとする取組の内容およびその実施時期
各事業主は、(1)~(3)の連関を十分に意識しつつ、後述する分析・勘案事項や行動計画策定指針の内容を踏まえて、自社に必要な取り組みの内容を行動計画に落とし込む必要があります。

●行動計画策定に当たって分析・勘案すべき事項
女性活躍推進法8条3項1文では、一般事業主行動計画を策定する際、次に挙げる状況を把握し、改善すべき事情を分析して、その結果を勘案することを求めています。
  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  • 男女の継続勤務年数の差異
  • 労働時間の状況
  • 管理的地位にある労働者に占める女性労働者の割合
  • その他のその事業における女性の職業生活における活躍に関する状況
なお、一般事業主行動計画に明記する「取組の実施により達成しようとする目標」は、上記の勘案を踏まえたうえで、数値を用いて定量的に定めなければなりません(同項2文)。


●事業主行動計画策定指針に沿った行動計画策定が必要
一般事業主行動計画は、国が定める「事業主行動計画策定指針」に即して策定することが求められます(女性活躍推進法8条1項)。

参考:
事業主行動計画策定指針|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/shishin_1.pdf

女性活躍推進法に明文化された策定要領と併せて、上記の指針の内容を十分に踏まえたうえで、一般事業主行動計画を策定してください。

●厚生労働省のモデル行動計画はベースとして利用可能
厚生労働省のウェブページでは、会社の状況パターンに応じて、簡易的なモデル計画を公表しています。

参考:
一般事業主行動計画の策定・届出等について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/jisedai/index.html

新たに一般事業主行動計画を策定する事業主は、厚生労働省のモデル計画をベースとしたうえで、自社に必要と思われる要素を肉付けして行動計画策定を進めるのが便利でしょう。

「一般事業主行動計画」の策定後に必要な取り組み

一般事業主行動計画の策定・届出を行った後は、行動計画の実践として、以下の取り組みを行うことが求められます。

●行動計画の労働者に対する周知・公表
一般事業主行動計画を策定・変更した際には、その内容を労働者に周知するための措置を講じなければなりません(女性活躍推進法8条4項)。
一般事業主行動計画の労働者に対する周知は、以下のいずれかの方法による必要があります(同法施行規則3条)。
  • 事業所の見やすい場所への掲示
  • 労働者に対する書面交付
  • 労働者に対する電子メールの送信
  • その他の適切な方法
さらに、策定・変更した一般事業主行動計画は、対外的に公表することも義務付けられます(同法8条5項)。
一般事業主行動計画の公表は、インターネットの利用その他の適切な方法によって行います(同法施行規則4条)。

●行動計画の推進
一般事業主行動計画の推進に当たっては、いわゆる「PDCAサイクル」の確立が重要である旨が、事業主行動計画策定指針において指摘されています。

PDCAサイクルとは、「計画(Plan)」「実行(Do)」「評価(Check)」「改善(Action)」を内容とするサイクルを意味します。
一般事業主行動計画の推進に関しては、数値目標の達成状況や、取り組みの実施状況の点検・評価を定期的に行い、その結果をその後の取り組みや計画に反映させることが重要です。

●行動計画に関する取組状況の公表
一般事業主行動計画の策定・届出義務を負う一般事業主は、行動計画の取組状況に関する次の情報を、定期的に公表しなければなりません(女性活躍推進法20条1項)。
  • 女性労働者に対する職業生活に関する機会提供の実績
  • 職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境整備の実績
事業主行動計画策定指針では、公表の頻度をおおむね年1回以上とするように求めています。

優良事業主の認定制度|えるぼし認定・プラチナえるぼし認定

一般事業主行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性活躍の取り組みの実施状況が優良な企業は、申請によって厚生労働大臣の認定を受けられます。

参考:
女性活躍推進法特集ページ(えるぼし認定・プラチナえるぼし認定)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html

厚生労働大臣の認定には「えるぼし認定」(女性活躍推進法9条)と、さらに上位の「プラチナえるぼし認定」の2段階があります(同法12条)。
認定を受けた場合、厚生労働省のウェブページ上で事業主名が公表され、さらに販売商品などに認定マークを表示することが認められます(同法10条1項、14条1項)。

策定・届出義務の対象かそうでないかにかかわらず、実際に一般事業主行動計画の策定・届出を行っていれば、えるぼし認定・プラチナえるぼし認定を受けることが可能です。

CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)に高い意識を持って取り組んでいることを対外的にアピールできる点で、えるぼし認定・プラチナえるぼし認定の取得は有益と考えられます。
一般事業主行動計画を策定し、女性活躍の取り組みを行う企業は、これらの認定の取得も併せてご検討ください。





阿部 由羅

ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。注力分野はベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続など。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。

https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw

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