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DX先進国エストニアの取り組みも紹介 「PHRサービス」で私たちの命はどう変わる?

2022年03月30日DX

病院の待合室で診察の順番を待つのは気が進まないものです。待たずにすむように、オンライン予約できる病院を利用している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

筆者が暮らす地方都市でも、最近はアプリで空き具合を確かめてからそのままオンラインで予約できるシステムを備えた病院が増えてきました。
家にいながらにして自分の順番までの時間もわかるため、大変便利です。

ただ、すべてがオンラインですむというわけではなく、初診の場合はあらかじめ問診票をプリントアウトして、それに記入したものを持参すれば、病院での手間が数分は省ける程度です。

一方、海外では、オンライン予約はもちろんのこと、医療従事者も本人も、過去の健康診断、治療歴、投薬など、健康や医療に関する情報にオンラインでアクセスできる国が珍しくありません。
全国レベルでの情報提携システムが構築されているため、引っ越し先の医療機関でも医療情報が共有され、面倒な手続きは不要です。

さらに、そうして集積したデータは個人的に活用するだけでなく、研究用に二次活用して社会的なソリューションに役立てようとする試みもあります。

そんな取り組みを可能にするPHRサービスが日本でも導入されつつあります。
PHRとはどのようなもので、そのサービスによって私たちの命はどう変わっていくのでしょうか。

PHRサービスで実現することとは

PHRサービスとは

PHRとは、Personal Health Record(パーソナルヘルスレコード)の頭文字をとった略語で、個人の健康・医療・介護に関する情報のことです。*1

私たちが医療機関で治療や検査をうけた時、その記録や検査結果は、これまでカルテとして診療を受けた医療機関だけに保存・保管されてきました。
処方された薬の情報も関係機関だけに保存・保管されています。

他にも、ライフステージによって、さまざまな健康や医療に関する情報が紙媒体に記録されていきます。
例えば、赤ん坊の頃からの予防接種歴 、乳幼児健診 、妊婦健診、がん検診、骨粗しょう症検診、歯周疾患検診、 肝炎ウイルス検診、学校での健康診断や企業での定期健康診断・・・、挙げていくと驚くほどたくさんの情報が別個に記録されていることに気づきます。

そうしたすべてのデータをデジタル化して、生涯にわたって一括管理し、地方自治体や医療機関とも共有・連携して活用することがPHRサービスです。*2:pp.1-2
そのイメージ図が下の図1。*3


図1 PHRサービスの取り組み
総務省「ICT利活用の促進>医療・介護・健康分野の情報化推進」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html

政府もPHRを重要視し、導入・普及のための検討を重ねています。
総務省が2016年度から研究を進めているPHRモデルによると、まず個々人が自分のライフステージに応じたアプリケーションを取得します。*1

自治体からは「母子手帳アプリ」、「学校健診アプリ」、「介護防止アプリ」が、加入する健康保険の保険者からは「健康管理アプリ」や「生活習慣病手帳アプリ」、医療機関や介護施設からは「かかりつけ連携手帳アプリ」が配布されることになっています。

これらのアプリを通じて、本人の同意を得た上で、PHRが時系列で収集されます。
個人はマイナンバーカードを使って、そのプラットフォームにいつでもアクセスすることができます。

PHRサービスで実現すること

PHRはさまざまなことに活用されることが見込まれています。*1

例えば、災害をはじめとする救急時の差し迫った処置では、既往歴や現在のアレルギー情報などを本人が伝えられない状況も考えられます。

また引越しの際に、これまでと異なる医療機関にかかるのは非常に不便です。
今までのかかりつけ医に紹介状を書いてもらったり、場合によってはレントゲン写真をもらった上で、同じような検査を受けなければならないこともあります。
その前に保険証の住所変更手続きもしなければなりません。

大学進学や就職・転勤、結婚など人生に引っ越しはつきもの。そんなとき不便な経験をされた方も多いのではないでしょうか。
そうした場面で、マイナンバーカードとも同期されるPHRを活用することができれば、大変有益です。

PHRはもちろん、非常時だけでなく日常生活にも役立ちます。
PHRには脈拍、血圧、体温などのバイタルデータも含まれます。バイタルデータや健診・検診結果を統合すれば、その人の健康状態に合わせた健康増進プログラムや予防プログラムを利用することが可能で、それは健康の維持・促進につながります。

また、データが蓄積すれば、そのビッグデータを分析・活用して、今後の医療の発展に役立てることもできます。

さらに、民間の保険会社は、個人の健康状態に応じたきめ細やかな保険料や新しいサービスの提供が可能になるでしょう(図2)。*4

図2 総務省によるPHRモデル構築事業
総務省(2018)「平成30年版 情報通信白書のポイント>第2部 第6節(2)医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd266120.html

今後は、AIを活用しビッグデータを分析することによって、より多くのソリューションを社会にもたらすことも期待されています。

ウィズコロナ、アフターコロナの時代に、新たな感染症を見据えてPHRが集積され活用されれば、個人の予防・治療に役立つだけでなく、社会的な施策を練る際にも役立つでしょう。

諸外国の推進状況

個人の医療データを含んだPHRを実現するためには、いくつかのステップを踏まなければなりません。*5

まず、病院のICT化を進め、医療記録をデータ化する必要があります。
次に、病院間や施設間での情報共有を可能にする EHR(Electronic Health Records:電子健康記録)が整備される必要があります。
すでにPHRが導入・普及している国のほとんどは、そうした流れでPHRを導入しました。

2020年時点で電子カルテの普及率が100%、あるいは90%以上だった国は多く、エストニア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェ―、フィンランド、イギリス、オランダ、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドなどが挙げられます。*6:pp.12-13

エストニアのe-Health

ここでは早くからPHRが導入されているDX先進国、エストニアの取り組みを、同国e-healthのウェブページから、ご紹介します。*7

エストニアの国民は安全なデジタルIDを持っています。すべての処方データは患者の電子健康記録に入力され、例えば現場の薬剤師がアクセス可能なePrescriptionなどのさまざまなオンライン医療サービスに、国民はいつでもアクセスできます。

図3 エストニアのPHRへのアクセスページ
出典:e-estonia(2022)"In Estonia, the digital bation, pandemic prompts anather round of e-Health innovation"
https://e-estonia.com/in-estonia-pandemic-prompts-another-round-of-e-health-innovation/

意外なことに、エストニアのようにDXが進んでいる国でも、実は古い習慣が根強くあります。10年以上前からPHRの体制が整っていたにも関わらず、ほとんどの患者は依然として電話で予約を取り、オフィスの医師を訪問していたとのことです。

そんな状況の中、コロナ禍はエストニアにもひどい被害をもたらし、 2021年12月の時点で、1,800人以上がこの病気で亡くなり、国内の医療制度が危機に瀕しています。
このことから、エストニアは、医療がもっとデジタル化されなければならなかったという立場に立ち、この危機をチャンスと捉えています。

エストニアはe-healthインフラの基盤が整っており、他のほとんどの国よりもパンデミックへの準備が整っていたはずです。ただ、感染症のデータは週単位や月単位など、ある程度長い間隔で収集されていたため、当局はデータフローを再考し、現在、感染症や入院に関するデータはほぼ1時間ごとに更新しています。

e-healthインフラが整っているため、新しいサービスを導入するのは簡単です。
コロナ感染の検査結果は国立研究所から国の健康情報システムに自動的に送信され、患者がリアルタイムで検査結果にアクセスできるようにする新しいシステムが整いました。

また、患者が病気のための休暇をデジタルで申請することも可能になりました。
以前は、法律によって医師の診察を受けることが義務付けられていましたが、それは自宅待機などで孤立した患者には無理だったからです。
このシステムの変更はほぼ瞬時に実装されました。

遠隔医療の取り組みも加速しています。
ある企業は、地域とEUの両方の法律に沿って、プライバシーを重視した、ビデオ相談のためのプラットフォームを構築し、提供しています。
そのプラットフォームとエストニアのPHRを組み合わせることで、どこからでも医療サービスが提供できるということです。

「あのエストニアが?」と思うような情報もありますが、デジタルヘルスケアのためのインフラが整い、PHRが定着していることから、必要な変革はすぐに実現可能というところはさすがDX先進国だと感心させられます。

人生100年時代の健康社会のために

PHRサービスを実現するためには?

PHRサービスを実現するためには、医療分野に活用できるIDの導入も重要ですが、前述のように、日本はマイナンバーカードを使用することが決まっています。 ただ、その交付状況をみると、2021年4月現在、全国で28.3%。*8
今後どこまでマイナンバーカードが普及するのかもポイントになりそうです。

年代によってはデジタル機器の利用を難しいと感じる人が多いかもしれません。そういう人々への対応も必要です。

さらに、PHRは非常にデリケートな個人情報であり、情報のやり取りはオンラインが前提になるため、個人情報保護やセキュリティの確保も必須です。

人生100年時代のデジタルヘルスケア

人生100年時代といわれる現在、実際に日本人の平均寿命は毎年延び続けています。

しかし、それ故の問題もあります。
平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)の平均との差があまり縮まらないのです(図4)。*9:p.3

図4 平均寿命と健康寿命の推移
出典:厚生労働省(2021)「健康寿命の令和元年値について」p.3(表紙をp.1として)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf

2019年時点で、平均寿命と健康寿命の差は、男性8.73年、女性12.06年でした。
筆者も経験がありますが、介護はする方もされる方も心身ともに疲弊する重労働です。

自分のPHRにアクセスすることができる時代が、もうやってきています。
大切なのは、そのデータをどう活用するかです。

個人が健康維持、病気予防のために、積極的にそのデータを活用する―それが、人生100年時代を健やかに生き抜くひとつのソリューションといえるのではないでしょうか。


資料一覧
*1
公益財団法人 長寿科学振興財団 健康長寿ネット(2019)「PHRについて」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/koreisha-ICT/PHR.html

*2
厚生労働省(2020)「保健医療情報の利活用に向けた工程表の策定について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/000605016.pdf

*3
総務省「ICT利活用の促進>医療・介護・健康分野の情報化推進」
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/iryou_kaigo_kenkou.html

*4
総務省(2018)「平成30年版 情報通信白書のポイント>第2部 第6節(2)医療・介護・健康分野におけるICT利活用の推進」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd266120.html

*5
岸本純子( NTT データ経営研究所)「諸外国における PHR の取り組みと現状」
https://iac-japan.jp/docs/2.%e8%ab%b8%e5%a4%96%e5%9b%bd%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8bPHR%e3%81%ae%e5%8f%96%e3%82%8a%e7%b5%84%e3%81%bf%e3%81%a8%e7%8f%be%e7%8a%b6.pdf

*6
野村総研(2020)「DXがもたらすヘルスケアの新潮流2020 PHRによる健康管理」
https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/publication/chitekishisan/2020/07/cs20200703.pdf?la=ja-JP&hash=E18809F521814F1F73C2FB0A03EFC65112CDFD

*7
e-estonia(2022)"In Estonia, the digital bation, pandemic prompts anather round of e-Health innovation"
https://e-estonia.com/in-estonia-pandemic-prompts-another-round-of-e-health-innovation/

*8
総務省(2021)「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和3年4月1日現在) 」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000746756.pdf

*9
厚生労働省(2021)「健康寿命の令和元年値について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000872952.pdf

横内美保子(よこうち みほこ)博士(文学)

総合政策学部などで准教授、教授を歴任。日本語教育、教師養成、教材開発、外国人就労支援、リカレント教育などに取り組む。
Webライターとしては、エコロジー、ビジネス、就職、社会問題など多岐にわたるテーマで執筆、関連企業に寄稿している。

Twitter:https://twitter.com/mibogon




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