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"テレワークの孤独"で若手をつぶさないために今すべきこと

2021年10月13日働き方改革

"テレワークの孤独で、優秀な若手がつぶれてしまう"という現象が起きています。

テレワーク(在宅勤務)といえば、子育てとの両立や同居家族への配慮、あるいは労務管理の難しさなどが多く論点とされてきました。

しかしその裏で起きている、深刻な問題が「孤独」です。

"テレワークの孤独"が蝕んだ意外な人材とは?

筆者が"テレワークの孤独"問題を強く意識したきっかけは、元部下だった複数の人物から、相次いで連絡をもらったことでした。

突然届いた「眠れないんです」の連絡

「お久しぶりです。突然、すみません。お元気ですか?」
そう始まる文面は、何か悩み事があるのだろうと、すぐにわかるものでした。

詳しく話を聞いてみると、

• 眠れない
• 憂うつな気持ちが抜けない
• やる気が出ず仕事が手に付かない
• 同じことばかりグルグルと考えてしまう
• 自分のやってきた仕事はこれで良かったのか後悔ばかりしている

......というのです。

最初は非常に意外に感じました。
その人物はとても優秀で、安定した成果をあげ続け、職場では皆に好かれており、まるで太陽を絵に描いたような天真らんまんな性格の持ち主だったからです。
さらに時期を同じくして、ほかの元部下からも連絡がありました。やはり優秀で明るく、職場でのコミュニケーション能力に長けているタイプの人物です。

どちらの人物も、テレワークが主体の勤務体制になるまでは快調に仕事をしてきたのに、テレワーク導入から半年あたりで、人が変わったようになってしまったのが印象的でした。
精神的なダメージは深く、ひとりは退職して実家に帰る道を選び、もうひとりは医療機関の受診を経て休職することになりました。

優秀な若手がなぜテレワークでつぶれてしまうのか?

優秀な若手が、なぜテレワークでつぶれてしまうのでしょうか。
―― わからないことを上司に質問しづらいから?

―― 同期の様子がわからずに不安だから?

どちらもよく聞くことではありますが、苦悩している元部下たちの話を実際に聞きながら気付いたのは、2つのポイントでした。

ポイント1:実は劣等感が強い

1つめのポイントは「実は劣等感が強い」ことです。

ここで強調しておきたいのは、人が抱える劣等感や苦悩の強さは、他人にはうかがい知れないということ。

「えっ、劣等感が強いとは、まったく見えないけど――」
という人に限って実は自信がなく、その自信の弱さが"優秀と評価されるパフォーマンスの原動力"になっているケースは多いものです。
なぜ劣等感が強い人がテレワークでつぶれやすいのかといえば、今まで無意識のうちに受け取っていた「小さな承認」の積み重ねが、失われるからだと考えられます。

小さな承認の例を挙げてみましょう。

▼ 小さな承認の例

•上司から「集中しているね」などと声をかけられる
•同僚の仕事を先回りしてサポートし喜ばれる
•がんばっている後輩に差し入れして感謝される
•顧客の満足そうな顔を見る
•ちょっとした雑用でも笑顔で「ありがとう」と言われる

"業務上の成果"を評価される以外にも、私たちは日々、さまざまな"小さな承認"を受け取りながら仕事をしています。
ひとつひとつは小さなことですが、積み重なれば心理に大きな影響を与えていることは、想像に難くありません。
会社でのポジションがまだ定まっていない若手社員なら、なおのことです。
小さな承認が奪われれば、劣等感が強い人は無価値感にさいなまれ、精神のバランスを崩しやすくなります。

ポイント2:一人暮らし(同居人やペットがいない)

2つめのポイントは「一人暮らし」であることです。

「家族と同居しているがゆえのテレワークの悩み」が語られることは多くありましたが、意外と盲点となっているのが、一人暮らしならではの苦悩です。


若手社員は、実家を離れて一人暮らししていて、自分の家庭を持っておらず、ペットなどもいない環境で仕事をしている人が多く見られます。

一人暮らしのテレワークと、一人暮らしではないテレワークでは、"孤独感の感じ方に大きな差が出る"ことは、ここで明確に理解しておきたいところです。


言われてみれば当然かもしれませんが、意外とスルーされているポイントであると思います。

コミュニケーション不足やストレスを感じる人は27.1%

ここでデータを見てみましょう。


「テレワークでコミュニケーション不足やストレスを感じる人は27.1%」
という調査結果が出ています。


引用)内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」P27
https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf
を元に筆者作成

さらに「社内での気軽な相談・報告が困難」「取引先等とのやりとりが困難」と感じる人は、それぞれ3割を超えていることがわかります。

こういったストレスは、若手社員の孤独を生み出す一因になっているといえるでしょう。

テレワークの調査データを深掘りすべき時期に差し掛かっている

ところで、こういったテレワークにまつわる調査データは多数発表されていますが、ご提案したいのは"データを深掘りしながら見ること"です。


コロナ禍を経て本格的なテレワーク導入時代を迎えたいま、表面的に見えている事象から連なる、"本当の問題"に目を向けるときではないでしょうか。

例えば、"社内での気軽な相談・報告が困難と感じている人が多い"と聞いても、
「それは、そうだろうね」
くらいの感想しか出ないものです。

しかし、
「アンケートでそう答える人たちの、心の奥にある本音は何か?」
と深掘りして想像すれば、孤独を抱える若手の苦悩であったり、あるいは別の新しい発見といった気付きにつながるでしょう。

テレワークが得意な上司ほど部下の孤独に気付けない

ここでひとつ質問があります。


あなた自身は「テレワーク推進派」でしょうか。もしそうなら、少し注意が必要です。

会社の方針や経営戦略という視点はさておき、個人の個性や価値観に照らし合わせて「テレワークが好き、得意」という上司ほど、部下のテレワークの孤独に気付きにくくなります。
テレワークが得意な人の特徴を挙げてみましょう。

▼ テレワークが得意な人の特徴(例)

•業務効率化へのこだわりが強い
•仕事中に人から話しかけられるのが嫌い
•非同期のコミュニケーションを好む
•成果主義

テレワークが得意な上司にとってテレワークは快適そのもの。ですから、"テレワークが合わずに苦悩している部下の存在"に思いが至らないのです。
「自分が大丈夫だから、部下も大丈夫」と判断するのは早計といえます。

テレワークのマネジメントは「想像力→テクノロジー」がカギ

では、テレワークのマネジメントで重要なものとは、何でしょうか。
ひとつ挙げるなら「想像力」です。

テレワークの課題解決策としては、第一に各種クラウドサービスをはじめとするデジタルテクノロジーの導入が検討されることが多いでしょう。

テクノロジーの活用はもちろん有効ですが、しかし"テクノロジーありき"になってしまっては、本当の問題解決には至りません。
テレワークのマネジメントは、十分な想像力を働かせて解決すべき課題を抽出し、そのためのテクノロジーを導入、という流れで行うべきといえます。



お互いの顔が見えにくくなるテレワーク。それを埋めるのはテクノロジーの前に想像力である――。

そんな意識を持っていれば、テクノロジーの活用方法も変わってくるはずです。

最後に

なぜ、かつての部下たちが、今は一緒に働いていない筆者へ苦悩を打ち明けたのでしょうか。


その理由を考えると、
「職場でテレワークになじめないことを知られたら、低評価につながる」
という恐れがあるのではないでしょうか。

しかし、テレワークとの相性は個人の能力よりも、個性や価値観に寄るところが多いと感じます。

企業が、優秀な若手をテレワークの孤独によって失わないための第一歩は、"テレワークになじめなかったとしても、それを堂々と言える環境づくり"といえるかもしれません。

三島つむぎ

ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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