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データドリブンとは 使い方やプロセスを事例にもとづきわかりやすく解説

2023年06月14日解説

データ活用はいまや、ビジネスや組織運営の中で欠かせないものになっています。主なところではマーケティング、そして近年では「ピープルアナリティクス」という人事分野でのデータ活用も進んでいます。

マーケティングであれば売れ筋商品の分析、といった用途が思いつくことと思いますが、データ分析は深めれば深めるほど、気づきにくかった事実まで暴いていきます。
今回は、それらの事例を詳しく見ていきましょう。
また、人事分野でのデータ活用についてもご紹介します。

データ分析から見えた「マイナスのCLTV」

まずは、マーケティングの事例からです。

近年マーケティングの分野では、CLTV(=顧客生涯価値)が重要視されています。ある顧客が生涯のうちに自社にどのくらいの価値をもたらしてくれるかというもので、5つの指標が関連しています*1。
<CLTV(LTV)を左右する指標>

1)新規顧客獲得費用
2)当該顧客によってもたらされる粗利益
3)当該顧客へのマーケティングや対応にかかる費用
4)当該顧客が取引を継続する確率
5)対象年数
そしてCLTVの高い顧客に対し、より積極的にアクセスしていこうというのが「データドリブンマーケティング」の代表例です。これらはデータがなければ測ることができない指標です。

ただ、データ分析をさらに深めることで、「マイナスのCLTVを発生させている顧客がいる」という、表向きの分析だけではなかなか見抜けないことを突き止めた事例もあります。
ノースウエスタン大学のマーク・ジェフリー氏によると、以下のようなものです。

売上を「マイナス」にしてしまう顧客

ビジネスの中では、ある顧客からの売上が減ることによって会社全体の利益が前期に比べれば減る、ということは珍しいことではありません。しかし「マイナスの存在」ではない、そう考えられがちです。

しかし、アメリカではこのようなことが起きていました。

世界大手の家電量販店であるベストバイ社では、このようなことがありました。
ベストバイ社は返品に関して100%返金保証を掲げて、返品された商品を値引き販売するという形を取っていましたが、これを悪用する顧客がいたのです。
ベストバイ社は、自社の顧客行動を分析した結果、一部の顧客がセールで商品を購入した上、返品で通常価格での返金を受けることを繰り返している事実を発見した。さらに、この顧客層はしばらくすると店を訪れ、「開封済み」として20%割引で売られている、自分が返品した商品を再購入していた。
<引用:マーク・ジェフリー「データ・ドリブン・マーケティング」p187>

店舗にとって、明らかに「マイナスの存在」となる顧客です。
そこでベストバイ社は、この返品プロセスを改善し、開封済みで返品を受ける際には逆に15%の手数料を徴収するように変更し、マイナスを防ぐ施策を取りました*2。「プロセスの改善」に目をつけたというのも注目すべきポイントです。

同時に、このような顧客が多かった地域では、値引き販売を同じ店舗ではなくオンラインストア上などで行うように切り替えました。こうした顧客の存在とそれへの対応は、詳細なデータ分析でしか見つけられないことです。

緻密な分析で商品数を絞って利益向上

また、イギリス最大の食品スーパー、セインズベリー社は、単純な売れ行きの分析だけでない方法を取ることで利益向上につなげました。

400にのぼる店舗の取引データは膨大なものになりますが、まず顧客層が大きなセグメントとして「品質重視層(美食家)」と「低所得層」に分かれていることがわかりました。

これ自体は、そう大きな発見ではないかもしれません。なんとなく想像がつくことだからです。

そしてさらなる分析の結果、7万5000のSKU(=Stock Keeping Unit、小売業での在庫管理単位)のうち、3万品目は合わせても全体の売上の1%しか構成していないことも突き止めました。ここまでも、ありそうなデータ分析かもしれません。

ではこのデータをもとに、3万品目の扱いをやめる、あるいは縮小すれば良いのではないか、という判断に傾くことでしょう。

しかし人の行動はそう単純なものではありません。セインズベリーはここからも分析を徹底します。このような事情があるからです。
たとえばある買い物客が、ウォッカ・マティーニを作るときはオリーブを添えるのを好むとする。もしオリーブの取り扱いを中止してしまったら、この人はウォッカ・マティーニのための買い物をする際にこの店を利用しなくなってしまい、店としては利益率の高いウォッカの販売機会も失ってしまうことになる。
<引用:「データ・ドリブン・マーケティング」 p191>

さて、このような「買い合わせ」は多岐にわたり、それらを人手で洗い出すのは大変なことです。しかしセインズベリー社はこれをデータによって徹底解析し、最終的には1万4000のSKUを品目削除することでベストセラー商品の仕入れを強化しました。その結果、総売上高を12%上昇させています。

人事部門でのデータ活用「ピープルアナリティクス」

また人事部門では、従業員のスキルや働き方などをデータで「見える化」する「ピープルアナリティクス」の手法が注目されています。

ピープルアナリティクスでは、例えば下のような項目が可視化できます(図1)。

図1 ピープルアナリティクスで可能になること
(出所:「ピープルアナリティクス」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/analytics/human-capital-analytics.html

これらを「見える化」することは、さまざまな局面で意味を持ちます。

まず、面談だけではなかなか社員の実情を把握しにくいということがあります。本人が自分の強みを理解していなかったり、遠慮して自分の意向を伝えきれなかったり、部署とのマッチングがうまくいっていないために知らぬ間にストレスを溜め込んでいたりすることは多々あります。こうした静かな現象は、ひいては離職につながりかねません。

エン・ジャパンの調査によれば、転職経験者のうち約4割は本当の理由を伝えずに職場を去っています*3。
たとえばここで、自社を離職した人について各種データを正しく用意し、適切な対処をしていればこのようにはならない可能性が高まります。
かつ、その社員が何に不満を感じていたのかをデータ化することで、他部署での活動の場所を提供することも可能になり、組織文化の見直しに役立つでしょう。

人事業務に「データ」を持ち込むことに抵抗のある人もいらっしゃるかもしれません。しかしピープルアナリティクスをはじめとしたHRテクノロジー(Human Resource Technology)の活用はEX(従業員の体験)の向上につながっていることもわかっています(図2)。

図2 HRテクノロジーと従業員エクスペリエンスとの相関
(出所:「2020HRテクノロジーサーベイ報告書」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2020/assets/pdf/hr-technology-survey2020.pdf p8

具体的には、以下のような項目で従業員のエンゲージメントが高まっています(図3)。

図3 HRテクノロジー導入で従業員エンゲージメントが向上した業務
(出所:「2020HRテクノロジーサーベイ報告書」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2020/assets/pdf/hr-technology-survey2020.pdf p8

なお、デロイトトーマツの試算によると3000人規模の企業の場合、退職率を1%減らすと2.6億円のコスト低減効果があるということです*4。
企業にとって離職防止がいかに大切かがわかります。

また、人事情報の「サイロ化」も課題のひとつです。人材情報が多部署にわたって共有されていないと、ひとりの社員を多角的に評価することができなくなってしまい、人材の有効活用ができない状況になりかねません。

マーケティングも人事も「データドリブン」の時代に

現代では消費傾向も企業の人材も多様になり、「勘と経験」だけでは思わぬところでつまずいてしまうことも少なくありません。人材へのデータ活用については、PwCはこのように指摘しています。
変化の一つ目は、「従業員の多様化」と「勘と経験に基づく意思決定の限界」である。これまでの日本企業では、相手が自分と同じ価値観を持っているという前提の下で「勘と経験」に基づくマネジメントが行われるケースが比較的多かったと考えられる。しかしながら、女性や高齢者の活用、ビジネスのグローバル化、さらにはミレニアル世代の台頭などにより人材の多様化が進む現在においては、各人が持つ価値観もさまざまであるため、「勘と経験」による意思決定が難しくなってきており、事実やデータに基づいたマネジメントが求められているのである。
<引用:「ピープルアナリティクスサーベイ2017調査結果」PwC>
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2018/assets/pdf/people-analytics-survey2017.pdf p6

2023年3月期以降の決算から、上場企業には「人的資本」に関する情報開示が義務付けられます。人材への投資や育成の現状を有価証券報告書などで開示するというルールです。自社がどこまで人材活用に力点を置いているか、データで示すことは今後重要になっていくことでしょう。

データだけが示せる客観性はより重要に

ここまで、マーケティングでのデータ活用もその度合いによってあたらしい発見があること、また、人事分野でのデータ活用も有効な手段になってきていることをご紹介しました。

いずれの分野にも共通するのは、「勘と経験」というぼんやりとしたものだけではマーケティングも人事も、これからの時代を乗り切るのは厳しいということです。少なくとも、外に示すことは難しくなります。

客観的で誰にでも一目でわかるデータを介したコミュニケーションが、対外的にも内部に対しても透明性のある会話をする糸口になることでしょう。




*1
マーク・ジェフリー「データ・ドリブン・マーケティング」ダイヤモンド社 p181

*2
マーク・ジェフリー「データ・ドリブン・マーケティング」ダイヤモンド社 p188

3
「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)『本当の退職理由』実態調査」エン・ジャパン
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/31043.html

*4
「未来型ピープル・アナリティクス(Future of People Analytics)」デロイトトーマツ
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/human-capital/solutions/hcm/people-analytics.html

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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