近年、よく聞く言葉として「ジョブ型雇用」があります。
ジョブ(職務)をベースとした雇用を指す言葉であり、新しい働き方や企業の人事戦略として、重要なキーワードです。
この記事では、あらためて知っておきたいジョブ型雇用の基礎知識や、チェックしておきたいポイントをご紹介します。
「ジョブ型雇用」とは何か
最初に、ジョブ型雇用の基本事項から見ていきましょう。
ジョブ型雇用の定義
ジョブ型雇用は、定義が明確に決められているわけではありませんが、公的な資料を紐解くと、
〈狭い意味では職務が雇用契約に明記、限定される雇用形態〉
と説明されています。
以下は労働政策審議会資料からの一部引用です。
ジョブ型雇用は、狭い意味では職務が雇用契約に明記、限定される(それに応じて労働時間も自ずと限定される)雇用形態であり、徹底した分業の中での限定的な職務範囲の中での雇用管理として、欧米ではブルーカラーを中心に使われていたが、近年、日本においては、ホワイトカラーを中心とした職務と処遇の明確化といった観点からの導入の動きがある。
*1
ジョブ型雇用は欧米では一般的な雇用形態であり、雇用契約のベースが「ジョブ(職務)」にあるのが特徴です。
採用の際には、職務内容を明確に定義したうえで、雇用契約を結びます。
「メンバーシップ型」の対義語としてのジョブ型
ジョブ型雇用は英語の「job-based employment」の日本語訳で、「membership-based employment(メンバーシップ型雇用)」と対比して使われることの多い言葉です。
両者の違いを把握すると、ジョブ型を理解しやすくなりますので、比較表をご紹介します。
【ジョブ型 VS メンバーシップ型】
ジョブ型 | メンバーシップ型 |
就職 | 就社 |
社員は職務の提供者 | 社員はメンバー、家族 |
仕事に人をつける | 人に仕事をつける |
配転なし | 配転あり |
仕事が無くなれば退職 | 仕事を作って雇用継続 |
人材の流動性は高い | 人材の流動性は低い |
賃金は職務の需給で決まる | 賃金は実績で決まる |
スペシャリスト | ジェネラリスト |
都度採用・欠員補充・経験者採用 | 一括未熟練採用 |
社外教育・自己啓発 | 社内教育・OJT |
*2 より作成
メンバーシップ型では、社員が組織の一員として、長期間にわたり働くことを前提としています。重視されやすいのは、雇用の安定性や勤続年数に比例する貢献度です。
ジョブ型で焦点となるのは、職務内容や役割(ポスト)です。人材の流動性は高くなる一方で、社員は自分のスキルや能力を、十分に活用しやすくなります。
ジョブ型雇用の近年動向
続いて、ジョブ型雇用の近年動向をキャッチアップしていきましょう。
政府は多様な働き方のひとつとして位置づけ
ジョブ型雇用が注目を集めたきっかけとして、政府による推進が挙げられます。
2022年の「経済財政運営と改革の基本方針」によれば、多様な働き方の選択の代表例として "ジョブ型の雇用形態" が挙げられています。
(多様な働き方の推進)
人的資本投資の取組とともに、働く人のエンゲージメントと生産性を高めていくことを目指して働き方改革を進め、働く人の個々のニーズに基づいてジョブ型の雇用形態を始め多様な働き方を選択でき、活躍できる環境の整備に取り組む。
*3 ※太字は筆者
2022年9月には、岸田首相がジョブ型への移行指針を策定することを明らかにし、検討が進められています。
参考:
ジョブ型へ移行指針、官民で来春までに策定 岸田首相(2022年9月23日、日本経済新聞)
多くの企業がジョブ型雇用の導入をスタート
早い段階からジョブ型雇用の導入を進めてきた企業としては、日立製作所・富士通・資生堂が有名です。
【参考:日本型の職務給(ジョブ型雇用)】
*4
出所)内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「新しい資本主義実現会議(第14回)基礎資料」令和5年2月 p.7
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai14/shiryou1.pdf
さらに2022年〜2023年以降はラッシュといえるほど、ジョブ型を導入する企業が相次いでいます。
【参考:ジョブ型導入企業の例】
ジョブ型雇用の導入のポイント
「自社でも、ジョブ型雇用を導入したい」というとき、どこから着手するべきでしょうか。基本となるポイントをご紹介します。
ジョブディスクリプション(職務記述書)を基点とする
ジョブ型雇用では、「ジョブを明確化すること」からすべてがスタートします。
具体的には、「ジョブディスクリプション(JD、職務記述書)」と呼ばれる文書に、社員の職務内容を細かく定め、それをベースとして雇用契約を締結します。
外部取引先へ外注するとき、発注内容を明確にして発注書を起票したり、要件定義書を作成したりしますが、それと似たイメージです。
【ジョブディスクリプションの例】
- ポジション名:ブランドマネジャー
- ミッション:ブランドに対する包括的な責任を持ち、ブランド戦略の立案と実行を通じて、ブランドの認知度、市場シェア、および利益率を最大化する。
- 責任範囲:
1. ブランド戦略の立案と実行
2. ブランドのマーケティング活動の管理
3. ブランドパフォーマンスの分析とレポート作成
4. ブランド予算の管理
5. ブランドの競争力を保つための市場調査
- 期待する成果:
1. ブランド認知度の向上
2. ブランドの市場シェアと売上の増加
3. 利益率の最大化
4. 効果的なマーケティング戦略の開発と実施
5. 競争力のあるブランドポジショニングの維持
- 主な業務:
1. ブランド予算およびブランド戦略の策定と実施
2. マーケティングキャンペーンの立案と管理
3. ブランドパフォーマンスの定期的な分析とレポート作成
4. 競合他社と市場トレンドのモニタリング
- 必要な能力・スキル:
1. リーダーシップとチームビルディング
2. コミュニケーションと交渉力
3. 分析能力と問題解決能力
4. マーケティングやビジネスに関する深い理解
5. プロジェクト管理と予算管理
6. クリエイティブ思考と革新的なアプローチ
上記は一例であり、実際は企業によって、および職種によって異なります。報酬や評価手法は、企業と社員が合意したジョブディスクリプションに基づいて、決定していきます。
段階的な導入が望ましい
「年功序列や終身雇用とは異なる、ジョブ型雇用」という文脈から、ジョブ型雇用は、"成果主義的な人事制度"と誤解されることがあります。
しかしながら、成果主義とジョブ型雇用は、本質的に異なります。
ジョブ型雇用の導入は大掛かりであり、企業にとって重大な転換点となります。当事者である社員の賛否が分かれることも、しばしばです。
明確な経営戦略がある場合を除き、 「全社員に一括導入」は、リスクが伴います。
デメリットよりもメリットが大きいと確信できる分野から、段階的に導入したほうが、成功しやすいでしょう。
【段階的に導入する例】
- 管理職
- 高度プロフェッショナル人材の新規採用
- ジョブ型雇用が一般的なグローバル人材の新規採用
さいごに
本記事では「ジョブ型雇用」をテーマにお届けしました。
筆者は現在フリーランスとして活動していますが、かつて企業に在籍していたときには、高度プロフェッショナル人材とグローバル人材の採用に、ジョブ型雇用を適用していました。
ジョブ型雇用は、即戦力が必要な企業の成長期に、強力な武器になる形態だと実感しています。
無理にトレンドに乗って導入する必要はないと考えますが、「いつでも導入できる状態」を整えておくことは、有意義なのではないでしょうか。
注釈
*1
出所)労働政策審議会「労働政策審議会労働政策基本部会 報告書」p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/001096010.pdf
*2
出所)日本貿易振興機構「A.キャリアプラン設計とジョブ型導入の手引き(後半)」p.7
https://www.jetro.go.jp/ext_images/hrportal/forcompanies/active/a_3.pdf
*3
出所)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2022」p.5
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf
*4
出所)内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局「新しい資本主義実現会議(第14回)基礎資料」令和5年2月 p.7
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai14/shiryou1.pdf