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「聖地巡礼」から宇(そら)ツアーまで! テーマ別観光の面白さと誘客手法をご紹介

2023年08月09日解説

観光庁は「テーマ別観光」のモデルケース形成を促進するための事業を行っています。
テーマ別ツーリズムは、ツアー参加者にとって、自身の興味や趣味をより深く追求できるという魅力があります。

観光庁が公表している事例集には、一般的になりつつあるアニメツーリズムや酒蔵ツーリズムから、まだ目新しく聞きなれないものまで、さまざまなテーマの事例が見られるだけでなく、観光客を呼び込むための多様な手法も掲載されています。

観光プロモーションも含め、興味深い取り組み事例など有益な情報を提供します。

「テーマ別観光による地方誘客事業」とは

文化庁の「テーマ別観光による地方誘客事業」ではこれまでさまざまなテーマが選定されています(図1)。*1:p.1

図1 「テーマ別観光による地方誘客事業」のテーマ
出所)観光庁「テーマ別観光による地方誘客事業 取り組み事例集」p.1
https://www.mlit.go.jp/common/001281778.pdf

この事業では地域連携協議会を設置し、同じテーマで複数地域のネットワーク化を促進し、情報発信力を強化しています。

そうした取り組みの事例集から、3つのテーマのマーケティング、PRについてみていきましょう。

ONSEN・ガストロノミーツーリズム

まず、最初の事例は、ガストロノミーツーリズムです。

ガストロノミーツーリズムとは

ガストロノミーツーリズムと聞いて、「ああ、あれか」とピンとする人はまだ珍しいのではないでしょうか。

ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候風土によって育まれた「食」を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズムです。食文化は、食材や習慣、伝統、歴史などさまざまな要素で成り立っています。*1:p.60, *2

そうした地域資源に触れることを目的としたガストロノミーツーリズムは欧米を中心に世界各国でみられますが、「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」はそれに日本の温泉地を組み込み、各地の温泉地を拠点にして、「食」「自然」「歴史・文化」などの地域資源をウォーキングなどによって体感するツーリズムのことです。

認知度を上げるためのマーケティング

ONSEN・ガストロノミーツーリズムには、知名度が低く定義や楽しみ方が一般に知られていないという課題がありました。*1:pp.60-61

調査したところ、認知度はわずか6.4%。そこで、認知度向上のために、以下のような取り組みをしました。
  • 世界最大級の「ツーリズムEXPO」でのステージ発表
  • SNS広告の展開:参加者の利用率が高いFacebookによるPRを強化
  • シンポジウムの開催:日本観光振興協会などと協力して全国3か所で開催
シンポジウム開催にあわせて「ONSEN・ガストロノミーウォーキングイベント」を商品化したことで、その旅行会社の保有する300世帯の顧客にアピールすることができました。また、ロケツーリズム協議会と連携して、イベントの一部にロケ地を組み込みました。

ロケツーリズムとは、「映画やドラマのロケ地を訪ね、風景と食を堪能し、人々の"おもてなし"に触れ、その地域のファンになること」で、ロケツーリズム協議会は、2030年までに訪日外国人旅行者数6,000万人、旅行消費額15兆円を目指しています。*1:p.4, *3

「ONSEN・ガストロノミーウォーキングイベント」は「風景と食を堪能する」という共通基盤をもつロケツーリズムを組み込むことによって、相乗効果を狙ったのです。

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宙(そら)ツーリズム

次に宙ツーリズムをみていきましょう。

宙ツーリズムとは

「宙(そら)」とは、空・スペース・宇宙に関わる、さまざまな魅力の総称です。*4
そして、宙ツーリズムとは、リアルで美しい星空や千載一遇の天文現象だけでなく、オーロラ観賞やご来光、ロケット打ち上げ体験などを、気楽に快適に楽しむツーリズムのことです。*1:p.24

ターゲット・人気コンテンツを探るためのマーケティング

宙ツーリズム推進協議会は、これまで何らかの宙ツーリズムに参加したことがある層は850万人、新たなターゲットとなる一般層は予想を大きく上まわる推定4,000万人に上ることを、Webアンケート調査によって把握しました。*1:p.25

また、興味があり実際に参加した人も多い人気コンテンツは「プラネタリウムでの天文体験」や「月食や日食の観測」であることがわかりました。
一方、興味があるのにまだツアーに参加していない人が多いコンテンツは、「星空観賞」や「ロケット打ち上げ」でした。

実際のツアー例

宙ツーリズム推進協議会の会員である旅行会社には宇宙事業推進チームがあります。
その推進チームが運営する宙ツーリズム専門ブランドsola旅クラブはさまざまなツアーを提供していますが、その中の一番人気はロケット打ち上げツアー。*5

2018年の「ロケット打ち上げ応援ツアー」は、東京発3日間の日程で、種子島へロケット打ち上げを見に行くというものでした。*1:p.24

このツアーでは、打ち上げを経験しているベテラン添乗員が同行し、種子島宇宙センターも見学しました。


図2 種子島宇宙センター
出所)一般社団法人 宙ツーリズム推進協議会「H-IIAロケット45号機 ロケット打ち上げ応援ツアー先行受付開始!」
https://soratourism.com/story/tourism/tourism68.html

2021年には、H-IIAロケット45号機のロケット打上げ応援ツアーも企画。長年JAXAのロケット打上げ支援に従事してきたスタッフがツアーをサポートしました。*5

アニメツーリズムとの連携

宙ツーリズム推進協議会はアニメツーリズム協会の呼びかけに応じて、アニメ作品のパンフレット制作に協力しました。*1:pp.42-43

アニメツーリズムとは、アニメ聖地(アニメ作品の舞台や作品・クリエイターにゆかりのある地域)を巡る旅行のことで、「聖地巡礼」とも呼ばれています。

アニメ作品『恋する小惑星』に「天体観測の聖地」である石垣島市が登場するため、石垣市をアニメのキャラクターがナビゲートする設定でパンフレット制作が行われました(図3)。


図3 アニメツーリズム協会と連携して作成されたパンフレットの表紙
出所)観光庁「テーマ別観光による地方誘客事業 取り組み事例集」p.43
https://www.mlit.go.jp/common/001281778.pdf

先ほどみたONSEN・ガストロノミーツーリズムもロケツーリズムとの連携を図っていましたが、このように、共通基盤をもつ別テーマとの組み合わせは効果的といえるでしょう。

忍者ツーリズム

最後にご紹介するのは、忍者ツーリズムです。

ニーズ調査

忍者ツーリズムとは、「日本各地の忍者ゆかりの地を訪れ、実在した忍者の歴史や文化、技術を知り、また 実際に体験するツーリズム」のことです。*1:p.58

ニーズを探るため、2016年から2017年にかけて日本に関心が高いと想定される海外の10か国・地域を対象にWebアンケート調査をしたところ、忍者の知名度は非常に高く、全体で98.7%に上りました。

ところが、実際に日本各地に忍者がいたことや、忍者ゆかりの地があること、忍者体験ができるスポットがあることはあまり知られていませんでした。

忍術伝承の基盤づくりとマーケティング

そこで、日本忍者協議会は「伝統的な本物の忍術」を体系的に伝承する仕組みを整え、海外からの観光客に「本物の忍者コンテンツ」を体験できるような整備を目指しました。*1:pp.46-47

甲賀流忍術の正統後継者に、後世に正しい忍術を伝える必要性を粘り強く伝え、説得に成功すると、忍術を伝承することができる師範の育成とネットワークを構築。2級から10段までのライセンスシステムを整えます。

その後、忍道の理念や体系、入門方法を掲載したWEBサイト「忍道」をリリースしたところ、海外からの問い合わせや師範から忍術を学ぶ人が増加したということです。


図4 WEBサイト「忍道」のトップページ
出典)「忍道」
https://nin-do.jp/

広報はマスプロモーションではなく、敢えてニッチなテーマのフォロワーやユーザーを抱えたインフルエンサーによる情報発信を選択。*1:pp.58-59
広告代理店を公募で決め、インフルエンサーが出演する動画を3本、撮影するとともに、インフルエンサーにFacebook上でPR記事を発信してもらいました。
その結果、動画再生回数は1~2か月で約8万回に達したということです。

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おわりに

テーマ別観光は個々の参加者の趣味や興味に合わせたコンテンツを提供し、ツアー客は地域の文化をより深く理解し、それぞれの魅力に思う存分、触れることができます。
そのためのマーケティングやプロモーションは、ツアーを支える効果的な手段です。
ご紹介した事例には、そのためのヒントがたくさん詰まっているのではないでしょうか。


資料一覧


*1
出所)観光庁「テーマ別観光による地方誘客事業 取り組み事例集」p.1, p.2, p.60, p.61, p.4, p.24, p.25, p.42, p.43, p.58, p.46-48, p.59
https://www.mlit.go.jp/common/001281778.pdf

*2
出所)一般社団法人 ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構「ABOUT US 機構について ONSEN・ガストロノミーツーリズムとは」
https://onsen-gastronomy.com/about/

*3
出所)一般社団法人 ロケツーリズム協議会「ロケツーリズムとは「映画・ドラマのロケ地を訪ね 風景と食を堪能し、人々のおもてなしに触れ、その地域のファンになってもらうこと!」」
https://locatourism.com/about/

*4
出所)一般社団法人 宙ツーリズム推進協議会「ABOUT」
https://soratourism.com/about

*5
出所)一般社団法人 宙ツーリズム推進協議会「H-IIAロケット45号機 ロケット打ち上げ応援ツアー先行受付開始!」
https://soratourism.com/story/tourism/tourism68.html

*6
Webサイト「忍道」トップページ
https://nin-do.jp/

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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