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ラン活・おもちゃも「ジェンダーレス化」 ジェンダー平等を望む想いとジェンダーバイアスへの向き合い方は?

2022年10月12日生活・子育て

子ども用の商品をめぐる最近のトレンドは「ジェンダーレス化」。
例えば、ランドセルといえば男子用が黒、女子用が赤というのがひと昔前の常識でした。ところが今や、男女を問わず豊富なカラー・バリエーションが定着しています。

学校でも名簿や制服などのジェンダーレス化が進みつつあります。

また、ある認定こども園で行われた実験によると、性的区別をできるだけ排除した環境下では、4歳の男の子が人形遊びを楽しんだということです。

一方、子どもがほしがった商品を性別を理由に購買しなかった経験をもつ親や、ジェンダー絡みでからかわれるのを恐れる子どもは、かなりの割合いるという調査結果もあります。

ご存じのように、日本はジェンダー・ギャップが大きい国
世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップレポート2022」では相変わらずランクが低く、146か国中116位でした。*1

私たちはジェンダー平等を望みつつ、知らず知らずのうちにジェンダーバイアス(ジェンダーに関する固定観念)にも捉われています。そこから解放され、ジェンダー平等を実現するためにはどうしたらいいのでしょうか。

ジェンダーレス化の波

まず、最近みられるようになってきた、子どもをめぐるジェンダーレス化の動きをみていきましょう。

学校の名簿

教育現場で以前から問題になっていたのは、児童生徒の名前を記した名簿です。
従来は男女別々にアイウエオ順に並べて、男子を先、女子を後にする名簿が主流でした。
しかし、学校でこうした男女別名簿を使用している国は世界的には極めて少なく、1985年に開催されたナイロビ世界女性会議の参加者への調査では、18か国中、日本とインドだけだったということです。*2

「男性が先、女性が後」と固定的に順番を決めてしまうのはジェンダーの固定化につながります。
「男女混合名簿」は1970年代後半から必要性が認知され、1999年施行の「男女共同参画社会基本法」をきっかけに採用が加速したといわれています。*3
2020年度は全国で87%の幼稚園・小中高校などが採用しており、調査が始まった1993年度の12%と比べると大幅に普及しました。*4

学校の制服

学校の制服のルーツは、明治時代に遡ります。軍服をもとに男子の制服が作られ、その後女子の制服ができました。当時は、男子は強くたくましく、女性は男性を支えるようにという考えで教育されていました。*5

それから令和の現在まで連綿と受け継がれてきた制服にも変化が訪れようとしています。
東京・江戸川区では2021年度、中学校の3分の1で制服選択制を導入しました。
例えば、ある中学校では、スラックスかスカート、ネクタイかリボンの組み合わせを自由に選択できるようにしました。

制服の呼び方も改め、「男子用」「女子用」を廃止して、ストレートのスラックスをA型、スカートをB型、丸みを帯びたスラックスをC型と呼ぶことにしました。

また、制服を選択制にしたことがきっかけとなり、さまざまな変革が行われました。
名簿・下駄箱が男女混合になり、生徒の呼び方は「さん付け」で統一。さらに、男子が青、女子が赤だったトイレ表示も黒に統一しました。


図1 女子トイレの黒い表示
出典:NHK「首都圏ナビ>"ジェンダーレス制服"導入広がる 学校の「男女分け」に苦しむ生徒も」
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20211119gg.html

ランドセル

色といえば、ランドセルの色にもジェンダーレス化の波が押し寄せています。*6

ランドセル工業会が行った「ランドセル購入に関する調査2022年」によると、保護者などが購入したランドセルの色味は分散傾向にあるということです(図2)。

図2 購入したランドセルの色の割合
出典:一般社団法人 日本鞄協会 ランドセル工業会「ランドセルくらぶ ランドセル購入に関する調査2022年」
https://www.randoseru.gr.jp/graph/

男児用では、黒が2021年の61.2%から58.4%に減って6割を下回りました。紺は0.7%、緑は1.2%、こげ茶は0.3%増加しています。

一方、女児用はよりカラフルで、2021年の調査と比べて、紫/薄紫が2.6%増加して24.1%、桃色(ピンク、ローズ)が1.7%増加して21.0%になり、赤を抜いて2位となりました。4位の水色も4.2%増加し、赤に迫っています。

黒川鞄が2021年に全国の4、5歳児800人を対象に調査したところ、男子の10%が「赤色がほしい」と回答しました。*7
こうした流れを受け、2022年に入学する子供を対象にしたモデルのカタログでは「性別を問わず、選べる『色』」と謳って5色を販売し、ジェンダーレスをより強く打ち出したメーカーもあります。


おもちゃ

おもちゃ業界にも変化が訪れています。

全国で160店舗を展開する「トイザらス」は2021年から売り場にあった「ボーイズトイ」「ガールズトイ」という表記をやめ、「なりきりあそび」などに変更をしています。*8

バンダイは2019年に男の子のお世話人形セットを販売し、宣伝用のモデルには男児を起用しました。*9
パイロットコーポレーションもお世話人形のシリーズに男の子の人形を加えています。*10

ジェンダー平等を実現するために

これまでみてきたようにジェンダーレス化の動きが見られる一方、ジェンダー平等を実現するために障害となっているのが、「ジェンダーバイアス」と呼ばれる固定概念です。
最後にそのことについて考えていきましょう。

男児も人形遊びを楽しむ?

ある認定こども園で11週間にわたって行われた興味深い実験があります。4歳児クラスに18種類のおもちゃを持ち込み、遊び方の男女差を探るというものです。*8
その際、男児用、女児用を印象づけないように、パッケージを取るなどして、大人のジェンダー観が影響しないよう配慮しました。

男児は最初、人形やドールハウスを遠巻きに眺めていましたが、2週間後には人形を使ってお医者さんごっこをし、段ボールで人形の家を作るなどして、男女に関係なく遊ぶ姿が観察されました。

「自由に安心して遊べる環境さえあれば、男女同じように遊びます」という同園園長のことばが印象的です。
逆にいうと、大人のジェンダーバイアスが自由に安心して遊べる環境を阻害しているということです。

ジェンダーバイアスに縛られる子どもたち

デンマークの玩具メーカー「レゴグループ」が2021年に日本やアメリカなど世界7か国の親子6,844人を対象に行った調査によると、「女の子向けとされるおもちゃで遊ぶと周囲にからかわれる」と心配する男子は約7割に上ったということです。*8
一方、男の子向けのおもちゃで遊ぶとからかわれるかもしれないと心配する女子は約4割でした。

「女の子はこうあるべきだ」だけでなく「男の子はこうあるべきだ」というプレッシャーも強いことが伺われます。
ジェンダー平等を考える際には、このような側面にも目を向ける必要があるでしょう。

バービー人形で知られるマテル社の日本法人マテル・インターナショナルは、2020年に「#おもちゃに性別いるのかな」をテーマにしたインスタライブを配信しました。*11
起用したのは、一児の父親でありタレントのりゅうちぇる氏。ハッシュタグは、彼が幼少期に「かわいいおもちゃで遊びたいけど、周りの目を気にして自分の気持ちを閉じ込めていた」という体験をもとにしています。

ジェンダーバイアスから解放されるために

では、大人が内なるジェンダーバイアスから解放されるためにはどうしたらいいのでしょうか。
それを考える上で、「電通ダイバーシティ・ラボ」などが行った「子どもにまつわるジェンダーバイアスに関する意識調査」の結果は示唆に富んでいます。*12

その概要をみていきましょう。
1)「ジェンダーバイアス」を知らない保護者は60.2%だったが、その意味がわかった後では、88.5%が「子どもにも教えるべきだと思う」と回答。
2)「ジェンダーバイアス」の意味がわかった上では、保護者の49.6%が子どもと接する際に「ジェンダーバイアス」を意識し、その理由は「子どもの意見を尊重したい」「世の中の価値観が変わってきていると感じる」からと回答。
3)保護者の24.5%が、子どもが欲しがった商品を「女の子(男の子)だからふさわしくない」という理由で購入しなかった経験があるが、それらの多くは売り場が性別に区別されている玩具・衣類等。
4)保護者の37.9%が、子どもが「女の子なのに」「男の子なのに」と他人から言われてモヤモヤしたことがあり、その相手で特に多かったのは子どもの祖父母。

ここから導き出されるのは、まず、自分のジェンダーバイアスを自覚し、内省することが有益だということです。
バイアスは無意識のものなので、知らず知らずに、またよかれと思ってジェンダー平等に反する言動をとっているおそれもあります。

次に、子どもに接する際にその内省を生かし、子どもがジェンダーバイアスに縛られずに安心して自由に選択・行動できる環境づくりを目指すことが大切ではないでしょうか。

商品の選択に関しても、自分の固定概念を疑い、それを下の世代に押し付けないようにすることが必要です。
以上のような視点をもって自身の意識や言動を見直すことは、無自覚なジェンダーバイアスから自らが解放されるだけでなく、次世代が安心してジェンダーフリーに生きていける社会の実現にもつながるに違いありません。





資料一覧



*1
World Economic Forum"Global Gender Gap Report 2022" p.10
https://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2022.pdf

*2
東京都公立学校教職員組合「男女混合名簿Q&A」
https://tokyokyouso.org/labo/%E3%82%B8%E3%82%A7%

*3
読売新聞オンライン「男女混合名簿を採用85% 小中高 無意識の性差別配慮」(2022/04/08 05:00)
https://www.yomiuri.co.jp/local/saitama/news/20220407-OYTNT50177/

*4
朝日新聞DIGITAL「学校の男女混合名簿、今や9割弱 「男子が前」わずかに」(2021/06/29 17:00)
https://www.asahi.com/articles/ASP6Y41Q0P6QUTIL063.html

*5
NHK「首都圏ナビ>"ジェンダーレス制服"導入広がる 学校の「男女分け」に苦しむ生徒も」(2021/11/19)
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20211119gg.html

*6
一般社団法人 日本鞄協会 ランドセル工業会「ランドセルくらぶ ランドセル購入に関する調査2022年」
https://www.randoseru.gr.jp/graph/

*7
読売新聞オンライン「年々早まる「協奏曲」・・・来春の新1年生のラン活、早くも過熱」(2022/03/17 05:00)
https://www.yomiuri.co.jp/life/20220316-OYT1T50285/

*8
読売新聞「関心アリ! 男児だって人形遊び」(2022年6月14日朝刊)

*9
株式会社バンダイ「レミン&ソラン|ホルンおせわきほんセット」
https://toy.bandai.co.jp/item/detail/9130/

*10 株式会社パイロットコーポレーション「メルちゃん>メルちゃんとなかまたち」
https://www.mellchan.com/room/

*11 マテル・インターナショナル株式会社「ニュースリリース おもちゃはどう選ぶ?「らしさ」って?今年のクリスマスプレゼントは? りゅうちぇるさんとみなさんの体験談をもとに考える「#おもちゃに性別いるのかな」 インスタライブ2020 年 11 月 13 日(金)20 時~ 配信決定」 (2020 /11/10)
https://mattel.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/11/d12996-288-pdf-0.pdf

*12
株式会社 電通「ニュースリリース 電通、子育て情報サイトの会員を対象に、子どもにまつわるジェンダーバイアスに関する意識を共同調査― 保護者の約4分の1が、性別を理由に子どもが欲しがった商品を購入しなかったと回答 ―」(2022/04/22)
https://www.dentsu.co.jp/news/item-cms/2022014-0422.pdf

横内美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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